「先日、新年を迎えた…」と感じていたのも束の間、すでに3月の後半に突入した。
3月といえば多くの別れを迎える季節。
私自身、3月に退職することが少なくなく、感慨深い別れも何度か経験してきた。
4月から新年度を迎えるということもあり、3月末で一区切りとなり、退職することは珍しくない。
だが、その後の職探しのことを考えると、その時期で退職することは決して好ましいとは言えない。
・3月末の退職は怖い
もしも、次の仕事が見つかっているのであれば、3月で退職することも悪くない。
年度末で退職したら気分的にも区切りが良いし、次の職場も、4月から新入社員の入社や人事異動で新体制を迎えることが多く、自分も周囲の人と同様に新たな気持ちでスタートを切りやすい。
だが、次の仕事が見つかっていない場合はどうだろう?
4月からの新体制に備えて人員を募集している会社が多ければ、求人のピークは3月であり、4月の求人数は減ってしまう。
さらに、数少ない求人に応募したとしても、普段の業務が慌ただしくて、担当者が採用に時間を割く余裕がなく、面接日程が後ろ倒しになってしまうこともある。
まあ、だからこそ、採用側も「じっくりと人を選んでいる余裕なんてないから…」となって、どさくさに紛れて採用されやすくもなるのだが…
そして、最も恐ろしい敵がゴールデンウィークである。
土日祝日はもちろんのこと、連休の合間となる平日も、採用活動を控えていることが珍しくなく、およそ一週間、年によっては10日もの間、就職活動が出来ない。
遅くともゴールデンウィーク前に内定を得なければ、いつもは楽しい連休中も、憂鬱な気持ちで過ごすことになる。
また、連休明けに面接に辿り着き、その後無事に採用されたとしても、その日は失業日から何日が経過しているだろうか?
もちろん、それまでは貯金で食い繋ぐことになる。(もしくは、劣悪な日雇いのバイトでもするとか)
そんなことを考えていると、頭がクラクラする。
もっとも、個人的に「最悪なタイミングは年末で仕事を終えること」だと思っている。
前職のストレスから解放されることも相まって、ゆっくりとした年末年始を過ごすことが出来るかもしれないが、3月に退職する時と同様に、次の職がなければ、ゴールデンウィークよりも長い年末年始休暇に突入して、採用が行われるのも、成人式の日以降になってしまうから。
しかも、1月は気温も冷え込むため、そんな時期に無職となれば、朝に布団から出られなくなり、確実に不規則な生活に陥ってしまう。
・失業を最大限利用するしたたかさ
このように、私は3月末で仕事を失うことを非常に恐れているが、そんな状況に陥っても全く別の反応を見せた女性がいた。
あれは、数年前に半年間勤めていた派遣の仕事が年度末で契約終了となった時のことだった。
その仕事はメンバーの多くが派遣社員で構成され、私以外にも当日で退職する人が多数いた。
隣の席で同じ仕事をしていた50代の女性も同じだった。
彼女とはあまり親しい話をする仲ではなかったが、仕事終わりに二人で挨拶回りをした流れで、帰りの道も途中まで一緒だった。
別れ際に私は彼女にこれからの予定について訊ねた。
彼女は「まだ次の仕事は見つかっていない」と答えた。
その答えを聞いた私は若干の気まずさを感じた。
今思うと大変配慮を欠いた質問をしたと反省している。
私も次の仕事の当てがないのであれば、翌日から同じ無職になる間柄ということで、笑い話になるのだろうが、私は次の職場が決まっていた。
そんな私が無職になる彼女に次の仕事のことを訊ねることは、まるで見下しているかのように思われないだろうか…
だが、私の心配を他所に彼女は笑顔でこんなことを言った。
「今のところ面接や職場見学の予定もないから、来週は静岡の実家に帰って、ネットで求人に応募しつつ、家族とのんびりと過ごそうと思う」
え!?
どうしてそんなに落ち着いていられるの!?
私だったら、すぐにでも次の仕事を見つけたいため、のんびりと実家に帰省することなど出来ない。
4月になったら、ただでさえ求人が減るし、うかうかしているとあっという間にゴールデンウィークに突入してしまう。
彼女はそのことが怖くないのだろうか?
そのことを訊ねてみると、思いもよらぬ答えが返ってきた。
彼女は帰省することによって職探しのスタートが遅れることも、ゴールデンウィーク期間の失業など全く恐れていないという。
その理由は失業保険である。
私たちは会社都合で契約終了となったため、非自発的な失業者ということになる。
1,2週間経てば、会社から離職票が送られてきて、それを持ってハローワークで手続きを行い、7日間の待機期間が終了すると、以降の失業期間は当面の間、失業手当(保険)が支払わる。
彼女の計算では、ゴールデンウィーク前頃には、失業手当の受給対象となるため、無職で連休を迎えようが、就職活動が遅れようが全く気にしていない。
その他にもこんなことまで計画していた。
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失業直後はまだ会社が離職票を発行しないため、その間は求職活動を行わず実家で休む。
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失業保険の受給手続きを行った直後の待機期間から本腰を入れて就職活動を行う。
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すぐに次の仕事が見つかった場合は再就職手当を受給できるように、受給期間が1/3を切るまでは、別の派遣会社を利用して職を探す。
契約を打ち切られたことだけでなく、次の仕事が見つかれないことにも悲観せずに、「どうせ次の職場の当てがないなら…」と失業を最大限利用する彼女のしたたかさには頭が下がった。
・仕事だけでは測れない経験値
私にとっては恐怖でしかない年度末での失職であっても、彼女は焦ることなく、金銭的な損失を少しでも食い止める計算をして、どーんと構えていた。
その姿は逞しく、眩しささえ感じた。
まるで、この時のような思いもよらぬスッキリした別れとなった。
思い返すと、これまでも、年末や年度末で退職する際は、彼女のように次の仕事のアテがなかった年配の人は大勢いたのだが、無職になることに焦ったり、契約延長を懇願する人は一人もいなかった。
人に見せない所で、悩んだり、泣いたりしていた可能性もあるが、彼女たちが平静を保つことが出来たのは、これまでの経験から、「失職しても、失業保険を受給すればいい」と思っていたからではないだろうか?
この記事では、「派遣社員として事務経験を10年積んでも、スキルは勤続1年の人と大差ないことが多い」と書いたが、このように仕事上では目に見える形で表れなくても、社会を生き抜く知恵は確実に経験値が積み重なっていると言える。
年度末に失職しても、全く焦ることがなかった彼女を目の当たりにすると、私もまだまだ修行が足りないと実感したのであった。