重症でなくても具合が悪い乗客の救護で列車が遅れる理由とは?

先週、出勤中に自宅の最寄り駅でこんなアナウンスを耳にした。

「○○線××方面の電車は具合の悪いお客様を救護した影響で5分遅れとなっております」

私は今月から新しい職場で働いているため、朝はまだ時間に余裕を持って出勤しているが、遅延の放送を聞くとウンザリする。

別に電車が遅れることが問題なのではない。

私が嫌なのは、電車が遅れることで、混雑が激しくなることである。

さらに、「運転間隔の調整」と称して、各駅でダラダラと出発時間を遅らせ、遅れを取り戻すどころか、到着する頃には遅れが倍以上に拡大していることも珍しくない。

思い返すと、東京へ出てくるまでは、電車が数分遅れただけでイライラしたり、声を荒げてクレームを入れる人が不思議だった。

「たかが数分の遅れで何を騒いでいるんだ?」

「その程度の遅延で困るのなら、なぜもっと早く自宅を出ない?」

だが、今では彼らの怒りが痛いほど分かる。

・具合の悪いお客様の救護って一体何してるの?

コロナ渦ではすっかり鳴りを潜めていた電車の遅延だが、昨年から混雑と同様に蘇ってきた。

原因は「(他の路線も含む)人身事故」、「線路への人立ち入り」、「車両点検」、「非常停止ボタンが押されたことによる安全確認」など様々。

その中で私が最も不思議に思い、なおかつ最近頻繁に耳にするのが、先日遭遇した「急病人の救護活動」である。

急病人が出たということで、ホームの非常停止ボタンを押されることも珍しくないが、それって本当に列車を止める必要などあるのだろうか?

そもそも、他人の介助を必要とする程、体調が悪いのになぜ電車に(それも混雑時間帯に)乗っているのかが疑問である。

もちろん、心臓発作のように、突発的に起き、なおかつ命にかかわる病気であれば、電車を止めてでも対応に当たらなければならないと思う。

しかし、そのような病気は頻繁に起こるものなのだろうか?

そして、そんな重症の病人が出たら、本当に5分程度の遅れで済むのか?

どうも釈然としない。

・それでは急病人じゃなくても…

以前から、そんなことを思っていたので、自分が利用する路線が「病人の救護で遅れている」と聞いたら、モヤモヤした気持ちになっていた。

予定通り(?)5分遅れでホームに滑り込んできた電車を見たら、案の定普段よりも混んでいた。

その様子に思わず溜息をつきたくなったが、私の気持ちは一瞬で回復した。

というのも、なぜか私が待っていた場所に停車した車両、しかも私が乗り込もうとした付近だけガラガラだったのである。

ドアが開く前にパッと見た所、近い場所の向かい側の座席は7人掛けの内、3人しか座っていない。

定時運行でもこんな光景はお目にかかれない。

私はウキウキした気持ちを抑えながら、車内に入った。

その瞬間、床下にある物を見つけた。

両側の座席の間には液体のような物が流れており、所々に白く小さなものが零れ落ちていた。

ザっと拭き取ってこそいるが、それは紛れもなく人間の嘔吐物だった。

その瞬間、私の中でこれまで溜まっていたモヤモヤが解消された気がした。

「具合の悪いお客様を救護した影響で5分遅れた」というのは、もしかして、この嘔吐物を処理していたからでは!?

たしかにそれでは、発車時間を遅らせてでも、事故処理を済ませなければならない。

たとえ心臓発作のような重症の病人でなくても…

そんな呑気なことを言っている場合ではない。

私が決断しなければならないことは、目の前に嘔吐物があっても空いている近くの座席に腰を下ろすか?

それとも、嘔吐物を避けるために混雑の中に飛び込むか?

幸い、マスクをしていたこともあり、臭いは気にならず、嘔吐物も形がハッキリと分かるものではなかったため、私はその場に座ることにした。

次の駅以降も付近のドアから乗車してくる乗客は皆、私と同じように、一瞬立ち止まった後、瞬時に二者択一の決断をしていたが、多くの人物は嘔吐物を避け、混雑覚悟で人混みの方へ流れて行った。

普段は「人を押しのけてでも自分が乗れればいい」という人物で溢れているカオスの世界の人たちでも、嘔吐物は怖いらしい。

そのおかげか、列車全体は遅れの影響もあり普段より混雑していたが、私の周辺は「まるで結界でも張られているのか?」と感じるくらい完全に人が遠ざかっていた。

まるでモーゼの海割りのように。

そんな様子を見ていると、あることが思い浮かんだ。

満員電車の中で吐いたら、どんな人だかりも一気に散っていくのでは…

(※:他の利用者だけでなく、鉄道会社へ多大な迷惑がかかるため、絶対に真似しないでください)

・正真正銘の迷惑行為

「嘔吐物を処理するために、列車が遅れた」というのはあくまでも私の推測だが、たしかにそのような事情であれば、重病人でなくても「具合の悪いお客様の救護」という名目を使うのも納得できる。

ただし、「場合によっては別の呼び方を用いる方が適切なのでは?」とも思う。

持病や「会社に行くことが嫌でしょうがない…」等の体調不良が理由で吐いてしまったのなら、「具合の悪いお客様」という表現が妥当であるが、酒の飲み過ぎ(酔っ払い)が原因であれば、それは迷惑行為に該当する。

実際に私が今の住まいに引っ越したばかりの頃は土日祝日関係なく働いていたのだが、休日の朝は最寄り駅の周辺で(場合によっては駅のホーム上でも)嘔吐物が多く見られ、「これ絶対にハナキンで羽目を外したバカが酒を飲み過ぎたからだろ!?」と思っていた。

もし、こんなクソ共が電車の中で吐いて、後片付けのために電車が遅れることを「具合の悪いお客様の救護のため」と称したら、本当に体調が悪い人たちが「あんなのと一緒にするな!!」と怒るだろう。

この場合は、前回の記事で特集した歩きスマホ同様に「客の迷惑行為により遅延」と案内するべきだし、後片付けも本人にさせなければならない。

もっとも、対応に当たる駅員や車掌は医者ではないため、それが体調不良なのか、迷惑な酔っ払いなのかを判断することは難しいだろうが…

ちなみに、数年前にこんな出来事があった。

当時の私は都内の会社で働いており、そこは23区内であるものの、最寄り駅は1つの駅しか利用できない場所だったため、同僚のほぼ全員が同じ路線を使って通勤していた。

ある日、その路線が遅延したことで、同僚の多くが遅刻することになった。

私は遅延が発生する前に到着していたことで難を逃れたが、遅刻した人の話では、電車が遅れた上にひどい混雑で大変だったらしい。

しかも、原因は車両故障や安全確認ではなく、その路線の駅で客の迷惑行為があったためだという。

遅刻した同僚の一人が「『迷惑行為』って一体なんだよ!?」と怒っていると、別の同僚がたまたまその現場にいて、その様子を目撃していたということで、話に入ってきた。

彼によると、その駅で乗客の一人が発車間際の電車に一直線に飛び込んだものの、失敗して電車のドアに激突、さらには出血騒動を起こしたことで、電車が発車できなかったことが原因だった。

駆け込み乗車を試みたのは若い男で、駅員だけでなく、他の乗客からもブチギレられていたとのこと。

その話を聞いた同僚は「本当に迷惑行為だな!!」と呆れ顔で、私も同感だった。

こんなことがあれば、鉄道会社も気を使って「ケガ人の救護」と公表するのではなく、はっきりと「迷惑行為」と呼ぶべきだろう。

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