・プーチンを罵倒するロシア人
これまでに何度か紹介したように、私にはペンパルサイトで知り合ったロシア人の男性と2016年以来やり取りを続けている。(詳しくはこちら)
彼は日本の映画や音楽が好きで、日本語の読み書きも出来る。
彼とは途中でブランクがあったものの、1ヶ月に2,3通のペースで日常の他愛無い話などの連絡を取り続けてきた。
そんな彼との会話に大きな変化が生じたのは、ロシアがウクライナへ侵攻を開始した2022年初頭のことである。
彼はそれまで通り、休日の楽しい出来事や自分が好きな日本の歌についても話をしたが、戦争や他国による経済制裁の影響で苦しくなる日々の暮らしについても多くを語るようになった。
この記事に書いたように、「ロシア国民の多くがプーチンを支持して、戦争を肯定している」という世論調査で出ているようだが、私が直に話を聞いたところ、そんな人物は一人もいない。
彼も一貫して、ロシアのウクライナ侵攻を批判しており、「プーチンは全世界の敵」、「冷血な人殺し」と罵倒していた。
彼の主張には概ね同意するのだが、大きな不安があった。
戦争中ということもあり、彼が発信するメールは政府から監視されていないのだろうか?
もしも、監視されていたら、彼は反体制分子とみなされて投獄や処刑という憂き目に遭ったりしないだろうか?
だが、戦争が始まって以降、彼の生活について話を聞くと、意外にも落ち着いており、旅行や身内の誕生日を祝うくらいの余裕はあるという。
また、戦争開始から2年を迎えたこともあり、開戦直後に私が感じていた不安はどことなく消え去っていた。
こうして文字にすると、慣れとは恐ろしいものである。
・恐れていたことが起きた!?
戦争はまだ続いているが、ロシア在住の彼との会話は戦争前と同じく、日常の他愛無いものへと戻りつつあった。
ところが、今年(2024年)2月に事態が大きく変わった。
きっかけは、プーチンの政敵であるアレクセイ・ナワリヌイ氏の死亡を伝えるニュースが報道されたことである。
“ナワリヌイ氏 死因は血栓によるもの” ウクライナ情報当局 殺害されたことが直接の原因の見方を否定 | NHK | ロシア
死因は突然死と報道されていたが、ロシア国内外問わずに、政府(=プーチン)による殺害を疑う声が多く聞かれる。
もちろん、彼もその一人で、しばらくは鳴りを潜めていたプーチン批判が久しぶりに聞かれた。
それに対して、私は日本での報道と、私見を書いたメールを返信した。
ここまでは、いつもと同じである。
しかし、翌日、サイトにログインすると…
彼のアカウントが削除されていた。
本当に突然だった。
ペンパルサイトを使っていると、怪しい業者、一般人問わず、ある日突然アカウントを削除することは珍しくない。
だが、彼は私と8年もの間、連絡を取り合っていた仲である。
先日も、これまでと変わらないメールで、家族の近況も伝えてくれた。
そんな彼が、気まぐれでそんなことをするとは思えない。
彼が最後に送ってきたメールでは、ナワリヌイ氏の死亡は政府による暗殺を疑っていた。
まさか……
あくまでも推測の域を出ないが、開戦直後に恐れていたことが起きたかもしれない。
彼のアカウントは削除されたが、メールは残っていたので、一先ずは文章をコピーして保存する。
彼とはペンパルサイトの中だけでやり取りしていたが、旅行や祭りに出かけた際に撮影した動画や写真を見せると言って、共有サイトのURLを送ってきたことがあった。
そのURLが有効であれば、そこから彼と連絡を取ることが出来るかもしれない。
幸い、URLもまだ生きていた。
しかし、閲覧こそ可能なものの、コンタクトが取れそうな手段は見つけられなかった。
やっぱり彼は政権を批判したことが原因でアカウントを規制されてしまったのだろうか…
他の連絡手段がないため、今となってはどうにもならないのだが…
・アカウントが消えた理由
これがおよそ1ヶ月ほど前の出来事だった。
今頃、彼は何をしているんだろう?
果たして無事なのだろうか?
そんなことを考えていたら、先週になって…
若干の相違はあるが、見覚えがあるユーザー名からメッセージが届いたとの通知メールがあった。
もしかして、彼なのか!?
すぐさま、サイトにログインしたところ…
以前と同じ彼の顔写真が見つかった。
早速メールを開いてみると、やはりその人物は彼だった。
よかった…
彼は無事だった。
そして、アカウントが削除された理由についても書いてあった。
彼は別の人物とやり取りした際のメールを転送しようとしたが何度やっても上手く行かず、その動きがアカウントの不正利用として探知され、アカウントが一時的に凍結されたという。
その後、サポートセンターに問い合わせたが、全く埒が明かなかったため、復旧を諦めて、新しくアカウントを作成していた。
つまり、ナワリヌイ氏の死亡事件についての話をした直後にアカウントが凍結されたというタイミングは、全くの偶然だった。
「政権批判によって、彼のアカウントが削除されたのではないか?」という私の推測は良い方向で外れた。
さすがのロシアでも、(現時点では)そこまでのことはないらしい。