
先日、行きつけの歯科医で検診を受けたら、会計時にこんなことを言われた。
「今後は予約の変更受付や検診前のお知らせをLINEで行うことになりましたので、こちらのQRコードを読み込んで、ご登録をお願いいたします!」
この病院に限らず、最近、病院の予約はLINEで行わなければならないことが増えた。
少し前まで病院の予約方法といえば、電話かホームページの予約フォームだったが、いまや「LINE前提」が当たり前になりつつある。
・予約を取るためにはLINEの友だち登録が必要

こうしたLINE前提は飲食店でも同じことが起きている模様。
ただし、評判は良いものばかりではない。
飲食店でのスマホ注文に物議、LINEの連携必須に批判も 「客のリソースにただ乗りしないでほしい」 – ITmedia Mobile
私自身こうした予約方法は嫌いである。
実際に遭遇した経験はないものの、飲食店で「ご注文はLINEのお友だち登録をしてからお願いします」と言われたら、「じゃあ、要らんわ」と言って即刻退店するだろう。
だが、病院はそう都合よく代替できるものも見つからないので、仕方なく登録している。
もちろん、LINE登録による予約には病院側の合理的な事情があるのだろう。
たとえば、リマインド通知の効果。
メールは迷惑メールに埋もれやすく、開封率も高くない。
私もかつて、すっぽかしこそしなかったものの、何度も通った後で、迷惑メールフォルダに病院からの前日通知が届いていたことに気付いた。
一方でLINEはスマートフォンに直接通知が届き、多くの人が日常的にアプリを開く。
前日や当日の自動リマインドを送れば、無断キャンセルの抑止につながる。
空いた予約枠は簡単には埋め直せない以上、これは経営上きわめて重要だ。
それから、電話対応の負担軽減である。
診療中にひっきりなしに鳴る電話は、スタッフの業務を分断する。
予約変更や確認の問い合わせがLINEで自動処理されれば、人手不足の医療現場にとっては大きな助けになるだろう。
さらに、LINEは単なる予約ツールにとどまらない。
休診情報やワクチン案内などを配信できるため、患者との接点を維持できる。
病院にとっては、効率化と情報発信を同時に実現できる便利な基盤なのだ。
こうした事情は理解できる。
患者にとっても、予約の申し込みや変更を行うには電話よりも、LINEの方が便利で手軽であることは否定しない。
しかし、私は利用こそしているものの、どうしても抵抗を感じてしまう。
・コミュニケーションの距離感がおかしくなる

個人情報の流出が特別に心配というわけではないし、批判理由として多く挙がっている通信料の負担も全然気にしていない。
それでも違和感が消えないのは、医療という「公的で距離のある存在」が、LINEという私的空間に入り込んでくるからだと思う。
LINEには、家族や友人、断れずに嫌々登録した職場の元同僚などがいる。
そして、相手には自分が設定したニックネームやプロフィール画像が表示される。
日常会話や雑談が流れる、いわばプライベートのど真ん中だ。
そこへ病院が「友だち」として現れる。
病院スタッフは、私のアカウントなど単なる記号くらいにしか思っていないことは重々承知しているものの、まるで境界線を一歩踏み越えられたような感覚が残る。
言い換えると、病院スタッフとのやり取りをLINEで行うのは、まるでビジネスメールに絵文字や顔文字を使うようなコミュニケーションの距離感に対する違和感が生まれるのだ。
便利さと引き換えに、自分の生活圏が少しずつ公的なものに開放されていくような、不思議な居心地の悪さがある。
事情は異なるが、この感覚は別の体験とも重なる。
数年前になるが、当時の職場のトイレの内扉に、メンタルヘルスや悩み相談窓口のポスターが貼られていたことがあった。
そこには、電話番号やメールアドレスが記載されていたのだが、「LINEでの相談も可」とも書かれており、LINEの友だち登録用のQRコードも記載されていた。
支援の窓口を広げること自体は意義深い。
しかし、誰にも相談できない悩みを打ち明ける時、友人と話すような感覚で「そうだ、ちょっとLINEで相談しよう」と思う人がどれだけいるのだろうか?
私はこうしたサービスを利用した経験はないが、そのような深刻な相談は電話やメールの方が、匿名性を保ちやすく、好まれるように感じる。
・LINEはもはや社会のインフラとなりつつある

LINEは日常と密接につながりすぎている。
既読表示やアイコン、過去ログの蓄積といった要素が、人格と強く結びついているからだ。
だからこそ、LINEを電話やメールの代替として病院予約や悩み相談のような公的用途に使うのであれば、ひとつのアカウントで「公的用」、「プライベート用」といった複数の人格を切り替えられる機能があってもよいのではないかと思う。
受信箱はひとつにまとめられ、通知が来たらどのアカウント宛であってもすぐに分かるが、相手に表示される名前やプロフィール写真は登録カテゴリーに合わせて自動で変わるような仕組みだ。
実際に私はスマホのG-mailに仕事関係のやり取りのみを行うアカウントとネット通販やサービス利用に登録しているプライベート用のアカウントをどちらも登録している。
そんな設計があれば、境界線の侵害感はかなり和らぐはずだ。
もっとも、それを営利企業(Googleも営利企業だが)に強く求める気にはなれない。
企業は利便性や収益性を優先する。
複雑な人格切替機能は、操作ミスやサポートコストの増加につながるかもしれない。
それでも、こうしたことを真剣に考えざるを得ないほど、LINEはこの社会に深く浸透している気がする。








