職場の子持ち様にイライラさせられること

最近、「子持ち様」という言葉を度々耳にすることがある。

子持ち様とは、子どもの体調不良などを理由に欠勤や早退せざるを得ない社員を批判する言葉である。

「子持ち様」論争に待った!なんであなたの子どもの犠牲にならなきゃいけないの…賛否両論の行方は? : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

主に、同僚が子持ちであることを理由に特別扱いされたり、仕事でしわ寄せを被ったりする時に不公平さや皮肉を込めて使われる。

「子持ち様は今日も休むんだって~、また尻拭いさせられるよ」

「子持ち様はすぐに休むから、そんな責任感がない人はウチの部署には要らないよ」

みたいな感じで。

明確な定義があるわけではないが、「社員」というのがポイント。

パートや派遣のような非正規労働であれば、「もともとそんな人たち」と思われていたが、正社員は家庭を顧みず会社に尽くす「モーレツサラリーマン(社畜)」がデフォルトであることが多く、子どもを理由にそのような長時間労働が出来なくなると、より「あるべき姿」とのギャップが目立ってしまう。

思い返せば、「子持ち様」という言葉こそ使われていなかったが、私の同僚でも、子どもの世話を理由に、頻繁に欠勤や早退をする人たちがいた。

・子どもの体調不良を理由に3ヶ月連続で長期の欠勤

私が初めて幼い子どもを持つ正社員の女性と共に働くことになったのは10年以上前で、その人物はこの記事に登場した事務員さん(仮名)である。

彼女は当時26歳で、まだ1歳にもなっていない子どもがいた。

彼女は、最初の1ヶ月は平日週4日、16時間の勤務だったものの、翌月から土日も関係なくフルタイムで働くことになった。

ところが、半月が経過した頃に、保育所から「子どもが熱を出した」と連絡があり、お迎えのために早退したことをきっかけに、「子どもの看病」という名目で2週間の長期休養に入った。

ちょうどその頃、私は留学の下見のために、1週間ほど職場を離れていたのだが、彼女の欠勤期間の方が長かった。

その時は初めてということで、会社も同僚もあまり気にしていなかったが、翌月も子どもがインフルエンザに感染したということで、2週間の欠勤を取った、

さらに、年が明けた翌年1月も、もう理由は忘れたけど、またも子どもが原因で1週間以上の休みを取ることになった。

その期間は普段仕事をしない上司のB(仮名)や、職場でパソコンを扱えた数少ない人物だった私が仕事の穴埋めをしていた。

Bは元々現場に入りたがらなかったし、私も残業代が稼げるので、災い転じて福となすの典型だったけど。

とはいえ、会社の方も、ここまで立て続けに長期の休みを取られたら、仕事を任せられないということで、別の人員を募集することになり、彼女は正社員として働くことを諦め、パートへと変更になった。

それでも、彼女は「育児と仕事を両立出来ない」ということで、結局半年で退職したが…

・職場にいないことが当たり前になると…

その後はしばらく、工場のように男性ばかりの職場や、零細企業に勤めていたため、幼い子どもを育てる正社員の女性とはなかなか出会うことはなかったが、東京に出てきてからは福利厚生が安定した会社に勤めることも多く、育休明けで時短勤務をしていたり、子どもの急な送り迎えや体調不良で遅刻や早退をすることが多い社員と働くことが増えた。

もちろん、私も彼女たちの当番業務を代わって引き受けることが何度もあった。

そんな中で、彼女たちと共に働いてイライラさせられることだが…

特にない。

ボケやギャグではなく本当の話。

断っておくが、私は決して「子どもだからしょうがないよね~」の一言ですべての横暴をチャラに出来るほど子育てに寛容な人間というわけではない。

日々の生活では、東京というマナーが悪く民度が低い場所に住んでいることもあり、電車やお店で子どもが大声を出しているにもかかわらず、叱ったり、周囲に申し訳ない素振りを見せるわけでもなく、「子どもだから当然でしょう?」みたいな図々しい態度のバカ親(あのような連中こそ「子持ち様」と名付けるべきである)には腹を立てている、子どもを抱きかかえたり、ベビーカーを押しながら、スマホを操作するバカ親、毒親、モンスターペアレンツは即時親権停止などの厳しい罰則を設けるべきだと思っている。

ガキだけでなく、バカ親共々も、「不良更生施設にブチ込んで再教育させろ!!」と叫びたくなることも何度もある。

だが、職場ではそのような非常識な振る舞いを目にする機会もないためか、彼女たちにイライラさせられることは全くない。

私自身の「同僚の不在をカバーするのも仕事のうち」という考えによるものもあるのだが、特に最近は、子持ちとか関係なしに、同僚が職場にいないことが当たり前の環境で働いていることも大きい。

コロナ渦によって、フレックスやテレワーク勤務が普及したことで、部署のメンバー全員が就業開始時刻から終了時刻まで必ず同じオフィスにいるとは限らない状況になると、当然、そのことを前提にした組織運営になる。

たとえば、「出勤している時に対応してもらうために、どうしても、その日までに終わらせなくてはならない業務は極力減らす」とか。

そんな職場で働いていると、同僚が子どもの世話で早退や欠勤になっても、その延長で「あ、今日は居ないのか」くらいにしか思わなくなり、勤務時間中に職場にいないことが気にならなくなる。

担当者が不在で業務が進まなければ、「メールを入れて、後日対応してもらえばいいか」というように心の余裕も生まれる。

・現場仕事はつらいよ

このような勤務時間内に同僚が職場にいないことが当たり前な環境で働いている人は、同僚が子どもの世話を理由に不在になっても、

「職場をメチャクチャにする子持ち貴族が!!」

「あんな奴は人事査定最低でボーナスなしになればいいんだ!!」

と恨みや嫉みの感情を持つことも少ないのではないだろうか?

前回の記事でも登場した対AIの議論の時だけ意味不明な意識高い系に変心する人は

「今時、時給制なんかで働いている奴は遅れている」

「労働時間なんてどうでもいい。大事なのは成果だ!!」

と主張することが多い。

なるほど、たしかにその通りだ。

彼らは子持ち様の味方のようである。(意図していることとは反対の結果になっているのかもしれないけど)

とはいうものの、これはあくまでも事務職に限った場合の話。

世の中には、レジ、コールセンター、飲食店、お弁当屋さんのように、勤務時間内は職場に出勤しなければ全く業務を遂行できない現場仕事も多数ある。

そういった職場では、欠員が出たら残ったメンバーでカバーしなくてはいけない。

そんな人たちが子持ち様に対して不満を持っているのでは…

こんな仮説が浮かんだが、これもそう簡単には結論付けることが出来ない。

というのも、そのような仕事は昔から子どもを持つ非正規の女性が大半を担っているからである。

そのような職場で、家庭の事情を理由に欠勤したり、退職することはごく当たり前の話で、「子持ち様が~!!」と糾弾したところで、何を今さら感が滲み出ている。

それに、子どもを出産する程の勤続年数を重ねた社員が、そういった現場仕事をしているのも不思議な話がする。

考えられるとしたら、こちらの記事で紹介したマミートラックに乗ってキャリアコースから外れた正社員を現場仕事に配属したけど、子どもを理由に欠勤して業務に支障が出た結果、管理職からは「パートよりも人件費が高いのに、何で同じようにすぐに休むんだ!?」と疎まれ、同じ仕事をしている非正規労働者からは「何で同じ仕事内容で、同じくらいすぐに休むのに、正社員としてボーナスや高い給料を貰えているんだ」と穴埋めをしている人たちに思われているとか。

しかも、欠勤をカバーしている非正規労働者は、自身は無欠勤で働いている上に、代わりの仕事を担っても、評価されて昇給することもほとんどないから、余計に不公平感が増して腹立たしく感じる。

もっとも、会社による人員の配置ミスが原因だから、そちらの方に怒りを向けるべきなのだが。

コロナ渦により、これまで社会人の最低限の能力であると考えられていた「勤務時間内は必ず職場に出勤していること」や、顔を合わせてお喋りするだけの長時間のダラダラ会議は、事務仕事では、全く不要であることが明るみになった。

むしろ、エッセンシャルワーカーと呼ばれる現場仕事の方が、必ず出勤しなければならない大変な仕事であることも痛感したはずである。

にもかかわらず、現場仕事を見下して、「子どもの世話を口実にすぐに休む人でも、これくらいの仕事なら出来るだろう」と安易に考える企業には呆れるばかりである。

・他人を過保護と批判しつつ自分の保護は当然だと考える謎

子どもを盾にすぐに休む子持ち様や、そんな彼女(「彼」の場合もあり)たちのご機嫌を取って、顔色を窺うことばかりの企業にウンザリしている人もいるだろう。

だが、私は率直にこんなことを思う。

「子持ち様の介護で迷惑させられることが我慢できないのなら、そんなに割の合わない仕事なんて辞めればいい」

私が同じ立場なら間違いなくそうする。

こんなことを言われたら、「なんで子持ち様に振り回された被害者の自分が、これまで必死に築き上げたキャリアを捨てなければならないんだ!!」と憤慨する人もいるかもしれないが、「子持ち様」が休むことによって業務が滞る程、人手が不足している(または人員配置が上手く出来ていない)のに、人員を補充を渋る質の低い会社で築くキャリアに、一体何の価値があるというのだろうか?

「転職出来たらとっくにやっているけど、それが出来ないから困っているんだ!!」

「お気楽な独身者ならともかく、養わないといけない家族がいる人だっているんだから、『仕事を辞めればいい』なんて気安く言うな!!」

とキレそうになる人もいるかもしれない。

「転職できない」というのは、文字通り、求人数が近隣の市町村も含めて、求人数が1ヶ月に1件しか出て来ないような僻地に住んでいる人や、「転職活動をしているけど、どこからも採用されない」という可哀そうな人もいることは否定しないが、多くの場合は「転職したら、賃金などの労働条件が悪化する」ことを指している。

つまり、社会に出たら、今の会社以上に高い待遇の会社は見つからない(=自分は転職市場で通用しない)と自覚しているから、市場価値以上の待遇を与えてくれる組織という閉じた世界にしがみついて、守ってもらおうとしているのだ。

当然、仕事が出来る有能社員から見れば、「仕事が出来ないのに、家族を扶養できるだけの給料や役職を与えられている『大黒柱様』は、組織にマイナスしかもたらさない、会社の癌細胞だ」と罵りたくなるだろう。

前回の記事に登場した「自分が事務職の給料も稼いでやっている」と勘違いして、偉そうな態度で踏ん反り返っている営業マンと同じく、都合が良い時だけ組織の力に守ってもらおうという厚かましい姿勢には恐れ入る。

「子持ち様は何の貢献も出来ていないから、会社から追い出されるべき存在なのに、組織のお情けや、『女性活躍!!』という政府の無能の政策によって過剰に保護すれているから解雇できない!!」という発言は、自身も会社の戦力になれなかったり、働けなくなったら、潔く会社を去る覚悟がある人間だけがすべきである。

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