新入社員へ贈りたい3つの言葉2021年編①:仕事ができる人間が昇進するとは限らない

・新入社員へ贈りたい3つの言葉2021

昨年まで2年続けて、この時期には新入社員へ向けた訓話を発信してきた。

今年も例年通り、そちらの企画を始めることにする。

最初の言葉はこちら

:仕事ができる人間が昇進するとは限らない

スポーツ界には「名選手は名監督にあらず」という言葉がある。

プレーヤーとして一流だった人が輝かしい選手時代の実績だけを理由に指導者や監督に登用されても、同じように成功を収めるとは限らない。

それは仕事でも同じである、個人には向き不向きがある。

だが、本日私が言いたいのは、この社会では、名プレーヤーどころか、社会人としての資質にさえ欠けている人間が昇進することも珍しくないということである。

つまり、上司があなたに厳しい言葉を浴びせる人であっても、彼(彼女)自身は過去に仕事ができた実績があるから昇進したとは限らないのである。

ちなみに「ブラック企業」と呼ばれる離職率が高い会社や、モラルに反して営業をしている悪質な会社ほどその傾向が強い。

そんな会社はまともな神経の人ほどすぐに辞めてしまい、結果的にどこの会社にも転職できない人間や、人を蹴落としてでも自分の立場を守る人間が残る。

そして、相対的に勤続年数が長い彼らは昇進することとなり、結果的に指導的な立場に就くのである。

前者はともかく、後者の人間は自身の保身のために、同僚や部下に仕事と責任を押し付け、徹底的に搾取しようとする。

そんな人間が人の上に立つとは全く理不尽な話である。

・どちらが正しい「正社員」なのかは一目瞭然

これは私が20代前半の時の話である。

当時の就業先は半年前に操業を開始したばかりで、従業員は十人もいない程度の小さな職場だった。

当時の上司は二人の男性だった。

一人はキモト(仮名)という40代の人物で、私が応募した際の面接も彼が担当していた。

当時は私も「正社員はこんな仕事をする」、「パート・アルバイトの仕事はこんなもの」という正規・非正規の線引きを信じていた。

キモトはその典型的な「正社員」のイメージだった。

パートには簡単な仕事を任せて、自分は責任ある仕事を担い、私たちのミスも黙って尻ぬぐいをしていた。

私の初出勤日に仕事が立て込んで、残業が必要になった際も、対応可能かどうかを確認して、仕事を終える際も「いやぁ、いきなり初日から残業させてごめんね」と労ってくれた。

私は「残業したい派」の人間だったが、家庭の事情でどうしても定時で退社しなければならない人たちは、必ず定時で帰して、残った仕事はほとんど彼が引き継いでいた。

さて、もう一人の社員は30代のB(仮名)である。(本来であれば彼にもキモトと同様に人名を用いるべきだが、この記事では彼の悪い面のみに焦点が当たるため、あえて記号で表記する)

彼はキモトと同じく創業時からのメンバーで立場も同格であると言える。

Bはキモトと違い、パートを徹底的にコキ使った。

少しでも気に入らないことがあると、やり直しを命じ、人員が足りない時は前日であってもお構いなしにシフト変更を持ち掛けていた。

ちなみに、自分のミスであっても本社には「パートがやったこと」だと偽りの報告をしていたこともあったらしい。

「あんたには社員としてのプライドがないのか?」

とツッコミの一つでも入れたくなる。

その上、メインの職務内容は現場作業で、事務仕事は付随業務であるはずなのに、一日中事務所に籠って、作業場には一切入らない日も珍しくなかった。

にもかかわらず、本社に報告する作業日誌には、現場作業を行った上で、一人で事務作業をしているかのように記録していた。

それを真に受けた社長は「そんなに人手が足りないなら事務員を雇おう」と言って、事務員を採用したのだが、彼は自分の(楽な)仕事を守るため、事務員の方を現場作業に送り込んだ。

この二人を比較した場合、どちらが社会人として評価されるべき人間で、どちらが会社にとって必要な人材であるかは一目瞭然である。

・ 悪貨は良貨を駆逐する

だが、結果的に昇進したのはBの方だった。

私が働き始めて半年後にキモトは退職した。

「腰が痛くて作業を続けられない」というのが表向きの理由だったが、次の仕事が野菜の収穫という季節労働であることを考えると、おそらく体調ではなく、精神面で耐えられなくなったのではないかと思う。

Bのような人間には誰も寄り付かないため、私たちパートは常にキモトのことを頼っていたため、彼にばかり負担をかけてしまったのかもしれない。

そして、彼はそのことの一切に嫌な顔をせず対応していた。

それが「正社員の仕事」だと言えばそこまでなのだが、その仕事を放棄した人間の方が会社に残ることになった。

キモトの退職によって、Bに特別な役職が付くことはなかったが、後に入った社員は彼と1年以上の職歴の差があるため、同格とはならず、職場は彼の天下となった。

「悪貨は良貨を駆逐する」という言葉があるが、まさにそれである。

もちろん、Bの立場も理解できなくはない。

その職場は本業が全くお門違いの経営者が半分趣味で始めたような事業であるため、まともな事業計画などあるはずもなく、すべては彼の鶴の一声で変わるような職場だった。

その上、教育マニュアルもなく、技能は素人であるが、口は達者で自分よりも何十歳も年上のパート労働者を扱わなくてはならなかった。

そんな職場では、当然のように板挟みの苦しい立場となり、「よその(ちゃんとした)会社の正社員みたいなことをやってらんねえよ!!」とサジを投げたくなるのも無理はない。

しかし、それでもキモトは最後まで正社員としての良心を貫き、それを捨てる前に自らが職場を去ることを選んだ。

・競争に負けても志は死なず

キモトが退職したことで、職場はBの一人勝ちとなったが、それでもキモトの姿勢は私に大きな影響を与えた。

以前、アルバイトを社員並みにコキ使うブラックバイトの正社員の末路を暗示した記事で、「自分だって本当はこんなことやりたくないんだ!!」と思っている正社員に向けてこんなことを書いた。

「やりたくないのなら、やらなければいい」

この言葉はキモトの姿勢を目の当たりにしたから、自信を持って言えたのである。

実際に彼はそうしていたのだから。

彼のように1年で仕事を辞めた人に対して、「自らの意志で、それも1年で、退職するなど社会人として言語道断。Bのように何が何でも会社にしがみつく方が正しい」とみなす人間もいるかもしれない。

だが、私はBやそのようなことをほざく(アホな)人間よりもキモトの方を尊敬している。

私が人に仕事を教える立場になった際、新人のどんなミスに対しても一切声を荒げず、家庭の事情を抱えている同僚に配慮できるようになれたのは、彼の仕事に対する姿勢から学んだことである。

今の私は「立派な社会人」としての道から外れ、胸を張れたものではないことは重々承知しているが、それでも「人」としての道を踏み外さなかったのは彼のおかげだと思っている。

次回へ続く

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