今年もお盆休みの季節がやってきた。
新幹線や飛行機の予約状況がニュースで報じられ、駅や高速道路の混雑の様子が毎年のように取り上げられるのを見ると、「お盆=長期休暇」というイメージが世間に定着していることを実感する。
だが実のところ、この「お盆休み」はすべての会社にとって当たり前の制度ではない。
販売業やサービス業はもちろんのこと、カレンダー通りの勤務形態で年末年始は長期休暇となる会社も、お盆期間中の平日は通常通り出勤という会社も少なくない。
たとえば、公務員や役所関係の仕事には、「お盆休み」という制度は存在せず、個別に夏季休暇を取得する仕組みはあるものの、世間一般の「お盆の一週間まるごと休み」とは異なる。
民間企業でも、お盆休みがある会社とない会社にくっきり分かれる。
製造業は割と多くの企業が一斉の夏季休業を取ることが多い。
特に工場を持つ企業では、お盆の時期に「ラインを止めて一斉に休業する」というスタイルが定着している。
これは、設備のメンテナンスや電力消費の調整など、業務上の効率を考えた判断によるものだ。
中途半端に止めるより、すべて止めてしまった方が現場としてはやりやすいのだろう。
その結果、製造業では「お盆は毎年まとまった休みを取るもの」という感覚が根づいており、家族や親族との予定も組みやすいという利点がある。
もっとも、こうした長期休暇は、有給休暇を強制的に取得させるという卑劣なやり方で実現している会社もあるようだが…
・メリットとデメリット
ここでお盆休みがある会社とない会社のそれぞれのメリットとデメリットを見てみよう。
<お盆休みがある会社>
【メリット】
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家族や友人と予定を合わせやすく、帰省や旅行に行きやすい。
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猛暑の中で通勤せずに済む。
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会社全体が止まるので、同僚に気兼ねなく休暇を満喫(リフレッシュ)できる。
【デメリット】
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休み前後に業務が集中し、仕事のリズムが乱れる。
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レジャー費用や交通費が高騰し、混雑もひどい。
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長い連休のあと、仕事への復帰がしんどくなることもある。
<お盆休みがない会社>
【メリット】
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常に一定の仕事のペースを維持できる。
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世間は休んでいる人が多く、通勤ラッシュが和らぎ、職場も静かであまりやることがなく快適。
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観光地の混雑や料金高騰と無縁でいられる。
【デメリット】
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世間の休暇モードから取り残された気分になる。
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家族や友人と予定が合わず、疎外感を抱くこともある。
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暑さの中でも通常出勤する必要がある。
公平性を担保するために、どちらもメリット・デメリットは3つずつに制限したが、概ねこんな感じと言えるだろう。
・正解は人によって違う
ここからは私の個人的な話をさせてもらいたい。
この記事に書いた通り、私は20代後半まで土日関係なくシフト制勤務で働くことがほとんどだったものの、ここ数年はすっかり土日休みの生活になっている。
それでも最初の方は、お盆休みがない会社で働くことがほとんどだった。
そして、その時期に働くことに快適さを感じていた。
通勤ラッシュが和らぎ、社内は静かで、業務も比較的落ち着いていた。
「みんなが混雑に巻き込まれている中、自分は快適に会社に通えている」
そうした優越感さえ覚えていた気がする。
旅行にも行かなければ、帰省する習慣もない。
だからこそ、「お盆休みにわざわざ長期間、休んでもやることがない」と思っていた。
しかし、2年前に転職して状況が変わった。
当時の職場では、お盆の時期にしっかりとした長期休暇が設けられていたのだ。
といっても、これが冒頭で取り上げた「お盆休み」という名の下で「平日は全員が有給を消化させられる」製造業の会社だった。
最初は違和感があったし、反発もした。
「コロナも収束へ向かい電車も混み始めている中で、貴重なボーナスタイムであるお盆期間は働かないと損だ」
「休んでも結局どこにも行かないし、生活リズムが崩れるだけじゃないか?」
そんなふうに思っていた。
だが、2年目(ちなみに別の会社)を迎えて感じたのは、「この時期に外に出なくていい」という事実は思いのほかありがたいということだった。
灼熱のアスファルト、熱帯夜の眠れぬ夜、強風と豪雨を伴う台風接近。
そうした「夏のしんどさ」の中で、わざわざ満員電車に揺られたり、汗だくで通勤したりしなくていい。
そのありがたみが、じわじわと身に染みてきたのだ。
旅行へ行ったり、誰かと過ごすわけではない。
ただ「動かなくていい」、「会社に行かなくていい」こと自体が、自分にとってはものすごく価値のあることだったのだ。
お盆休みがある働き方と、ない働き方。
どちらが良い、どちらが正しいということはない。
家族構成、職種、通勤距離、健康状態などによって、感じ方は大きく異なる。
以前の自分のように「不要」と思う人もいれば、今の自分のように「ありがたい」と思う人もいる。
働き方の理想は一つではない。
その時々の自分に合った働き方や休み方を、柔軟に受け入れられるようになること。
それこそが、これからの時代を生きていく上での「自分なりの正解」なのかもしれない。