法令遵守によって弱者が追い込まれる矛盾

近頃は秋の思い出から記事が始まることが多い。

今日も同じ入り方で始めさせてもらうことにしよう。

・規則だらけの会社

2年前に書いた記事で、私がバイト中にミスをして始末書を書かされた話をした。

そのミスをした時期というのが、およそ5年前のちょうど今頃だった。

その会社は通常ではあり得ない程内部監査が多く、私が働いている店舗でも2週間に1回は立ち入りがあった。(どんだけ暇な連中やねん)

もちろん、これは他の店舗も同じで、朝礼では毎日のように「昨日、内部監査があって、○○店の××部門では△△の違反が~」という不祥事の発覚と責任者の処分が報告されていた。

ハッキリ言って、そんな会社で働くことはいい気がしないし、「どんだけ、従業員のことを信じていないのか?」と不信感を持たずにはいられなかった。

というよりも、「そもそも、そんなことに人手や時間を費やせるほど、この会社は余裕があるのか?」と嫌味の一つでも言いたくなる。

ミスをした私がこんなことを言うと、逆ギレや開き直りをしているように思われるかもしれないが、この会社は無駄な規則が多過ぎた。

たとえば、従業員は駐車場に車を停めることを許可されているのだが、違法駐車対策のためか、会社に車種やナンバーを細かく報告し、外から見える位置に許可証を掲示した上で、毎日事務所のホワイトボードには駐車場のどこに自分の車を停めているかを書き込まなくてはならなかった。

その他にも、従業員も客用である店外のトイレを使用することを認められていたが、そこを使用するためには必ず専用のスリッパへ履き替えなければならなかった。

なぜ、そんな規則が必要なのか意味不明である。

そして、本部からの通達は常に書類で送られてきて、確認したらハンコを押さなくてはならなかった。

なんで、バイトなのに常にハンコを携帯しなくてはならないのか?

息苦しいったらありゃしない。

とはいっても、規則の徹底は悪いことばかりではない。

その会社は、世間で「サービス残業」と誤称されている勤務時間外労働の取り締まりにも力を入れていた。

それだけでに留まらず、会社が許可しない限りは通常の残業も禁止されており、所定の退勤時刻が過ぎたら5分以内に必ず退勤するように指導されていた。

もし、タイムカードの打刻が5分以上遅れた場合は、店長への報告と、地域ごとの部門を統括するブロック長へ遅れた理由を書面で提出しなければならなかった。

そうすることで、時間外労働を取り締まろうとしていた。

それ自体は私にとって好都合である。

・正直者がバカを見るサービス残業の取り締まり

だが、その運用方法が問題だったのである。

ある日、朝礼で店長が退勤時間厳守の徹底を求め、その際にこんなできごとを報告した。

・ある店舗で鮮魚部門の主任(正社員)が定時前に出社し、タイムカードを打刻せずに働いた。

・その現場を内部監査で押さえられ、服務規程違反ということで事情聴取を受け、始末書を書かされた。

・その上、主任からサブまで二階級降格させられた。

・次のボーナスは全額カットされることになった。

・だから、みんなも気を付けてね。

部下にサービス残業を強要する人間がこのような処分を受けることは妥当だと思われるが、自主的に早出(それも無給で)をしていた人が、そんな仕打ちを受ける理由はあるのか?

ちなみに、サブとは主に新入社員に割り当てられるポジションで、何の権限もなく、部門社員のサポートを行うだけの仕事である。

私が働いていた店の他部門では高校を卒業して2年目の20歳の青年がそのポジションに就いていた。

私は降格させられた社員の人に会ったことはないが、おそらく真面目な人物で、「時間内に仕事をしなくては!」という責任を感じて、それが上手くいかないから、自主的に時間外労働をしていたのだろう。

そんな人が法令違反ということで、こんな処分を受けるのはあまりにも理不尽ではないのか?

なお、降格させられた元主任が鮮魚部門だったということで、このニュースを聞いたおばさんたちは私たちの店舗の鮮魚部門の社員と比べていた。

その人物は50代後半の男性で、(大げさではなく)バカボンのパパのような外見をしており、見た目通り、全く仕事ができず、周りからの評判も悪いことから、どの配属先も最長半年程度で追い出されていた。

彼がどれくらい仕事ができないのかというと、先ず、鮮魚勤務なのに、満足に魚を捌くことができない。

当然、刺身など作れるはずもなく、その仕事は部下に丸投げしていた。

仕事ができないだけでなく、やる気も全くなかった。

ある日、彼は作業場の鍵を誤って自宅に持ち帰ったことがあった。

すると、彼は翌日、「俺は休みだから」と言って、出勤前の部下を家に立ち寄らせ、鍵を渡すという荒業で解決していた。

こんな性格なので、休日出勤や勤務時間外労働などやるはずがない。

当然、内部監査の結果は白である。

一方で、先ほどの真面目な社員が処分を受けるのは「正直者がバカを見る」の典型である気がする。

法令遵守って、そんなに大事ですか?

・本末転倒

この記事で書いた通り、現代は法令遵守の社会であり、それに息苦しさを感じている人が多い。

しかし、同時に法令遵守によって恩恵を受けている面も多々あることは事実である。

先ほど紹介した神経質なほどの時間外労働禁止例にしても悪いことばかりではない。

その職場では前々から、定時が過ぎて5分以内にタイムカードを打刻しなければならなかったようだが、私の上司は大の負けず嫌いである「モーレツパート班長」だった。

彼女は打刻後も作業場に戻り、当然のように仕事を続け、私たちにも同じことを強制していた。

私の場合は、やりかけの仕事を最後まで終えた時点で解放されたが、他のベテランパートは打刻後も30分ほど働かされることが常態化していた。

時間外労働の取り締まり強化はそんな時に実施された。

当初は班長もどこ吹く風といった様子で以前と何も変わらず、私たちにも残業を強制していたが、さすがに店長はその様子に気付いていた。

ある日、私たちの退勤10分前にやって来て、「みんな、ちゃんと定時で帰っている?」と聞いたことがあった。

その時は「はい」と返事をしたのだが、もちろん実際は打刻後に作業場へ戻って仕事を続けていた。

店長はその様子をスマホで隠し撮りしていたようで、翌日も、作業場にやって来て、

「皆が仕事熱心なのは分かるけど、お願いだからそういうことは止めてほしい」

「サービス残業をさせて問題になるくらいなら、品揃えが悪くて売り上げが落ちる方がまだマシだから」

と定時で帰ることを嘆願していた。

班長の暴走はここまでやってようやく止まることになった。

このように、窮屈な法令遵守は何も悪いことばかりではない。

それでも、勤務時間前に出勤した人が二階級降格の上、ボーナス全額カットという大きな処分を受けることが正しいとは思えない。

班長のように、他人にサービス残業を強いる人物がこのような処分を受けることは妥当である。

だが、彼のようなに自主的に仕事をしていた真面目な人物が、このような扱いを受けることは、「ルールは立場が弱い人を守るために存在する」という原則を忘れた本末転倒なやり方なのではないだろうか?

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