面接で人間性を判断している人の目など当てにならないと教えてくれた同僚

前回の記事で、私が初めて事務職に就いた時に同僚だった女性の話をした。

彼女は事務職に必要なすべての素養を兼ね備えている経験豊富な女性に見えたが、実際は半年前にその職場で働くまで、一切事務職の経験がなかったという事実を知った私は驚愕した。

彼女はなぜ20代後半まで事務職で働くことができなかったのだろうか?

もちろん、「経験がないから採用されなかった」と言われればその通りなのかもしれないが、20代(特に前半)の女性が事務員として求められる能力はスキルや経験とは別のものであることが多い。(ちなみに、私の目には彼女はそのような能力も十分兼ね備えているように見えた)

それまでの経緯は知らないが、もしも、彼女が以前から事務職に応募し続けていたにもかかわらず、一切採用されなかったのであれば、彼女の素質を見抜けなかったそれまでの面接担当者の目がいかに節穴だったのかということが分かる。

今回は彼らが面接で見抜けなかった「潜在能力」について話をしたい。

・お前の会社なんて二度と利用するか!!

事務職に限らず、日本の企業は人を雇い入れる際に、どんな経験があるのか、どんな資格を持っているのかというような「顕在能力」ではなく、いかにこの職場に適応できるのかという「潜在能力(訓練可能性)」を見抜くことに力を入れていることが多い。

これは新卒だけでなく、中途採用も同様である。

そんなことから、多くの求人では「未経験歓迎」「資格不問」と謳っている。

「人間性」や「人柄」といった項目はその中に含まれ、面接の場では「人間性を見極めるため」と称して、仕事とは関係ない質問をされることも珍しくない。

この「潜在能力を判断して採用する」というのが厄介なのである。

「顕在能力」の評価であれば根拠が明白であるため、応募する時点で「これは自分には無理だ」と納得できるし、勤務条件に対して求めるスキルが高すぎると、自分のことを棚に上げて、結婚相手に高望みする勘違いおじさん(おばさん)のように、袋叩きにあうだろう。

だが、「潜在能力」であれば、判断する側が市場価値とはかけ離れた次元で高望みをし、その上、何の根拠もなく独断と偏見で好き勝手に言いがかりをつけることができる。

そもそも、人間ごときに「他人の人間性を見抜く」といった神様を気取った能力があるはずもなく、せいぜい予測や見込み程度でしかない。

しかも、実際はその見込みですらほとんどは当たらない。

一方で、それを理由に不採用とされた側はとても傷つく。

書類選考のように経験や資格の不足が理由で落とされた場合は諦めがつく。

面接で勤務条件の話をしたものの、折り合いが付かなかった場合もまだ納得できる。

一番しんどいのは応募条件を満たして、面接まで行ったものの、先ほどの「潜在能力」の見込みがないと判断されて不採用になった時である。

そして、自分が不採用となった後でも、応募の広告が掲示され続けていると「他に優れた人がいたのかも…」という最後の拠り所さえ打ち砕かれる。

こうなると、「人間失格」と言われたかのような気分にさえなる。

私が若い時にこのような状況に直面すると、とにかくムカついていた。

「二度とお前の会社なんか利用しないぞ!!」

そう思って、立ち入りをやめた店や、購入をやめた商品は一つや二つではない。

しかし、ある時を境にこのような怒りは全く起こらなくなった。

それどころか、自分が落ちた後に、同じ求人が出ている様子を目撃すると喜びに似た何かが生まれるようになった。

しかも、掲示期間が長い程、笑いが止まらなくなり、こんなことを言いたくなるのである。

あれれ~??
(↑コナン君ふうに言う)

スーパーマンは来なかったのかなあ~??

厳密に言えば、その時点での能力を問われているわけではないのだから、「将来のスーパーマン」と呼ぶべきか。

でも、「この仕事はすぐに覚えられない」と言っている人も、実態としては即戦力を求めていたりするし…

まあ、そのことはどうでもいいのだが、私がこのように余裕を持てるようになったのは、面接で人間性を判断しているつもりの人間の目など当てにならないと分かったからである。

そのきっかけも、前回の話と同じく、同僚とのやり取りから生まれた。

・正社員として引き抜きたい

これは私が地元で働いていた時の話。

その職場はこの記事で紹介した職場と同じように、スーパー内に出店している実質個人経営の小規模の会社だった。

雇用主がテナント先である大手のスーパーと異なるため、人件費は極力押さえられていた。

当然、そのような会社なので人員は常に不足気味で、私は近隣の店舗を2件掛け持ちで働くことになった。

そんな中、1日、どうしても人が足りない曜日に、私と同じように他所の店舗で働いているスタッフが応援に入ることになった。

そうして私が一緒に働くことになったのが、ウエダ(仮名)という男性である。

彼は当時24歳で私よりも年下のアルバイトだが、黙々と作業をこなし、客対応時は常に笑顔で、商品の知識も豊富な仕事ができる好青年だった。

すぐに仕事に慣れた彼は、私たちの職場の面々だけでなく、スーパーの人たちからも評価され、信頼された。

同じ時期に働き出したものの、自分から仕事を覚える気がなく、バイトに残業を押し付けて定時退社する正社員(仮名:ミナミ。彼の詳細についてはこちら)よりも遥かに。

ある日の夕方、私たちの会社の店長がスーパーの店長と裏口でコーヒーを飲みながら年末の予定について話をしていた。

そのスーパーは当年に建て替えられたばかりであるため、今回が改装後迎える初めての年末になる。

私たちの会社もそうだが、スーパーの方も人員の確保を心配しており、彼らはお互いに社長や上司の愚痴をこぼしていた。

そんな中でこんなやり取りがあった。

スーパーの店長:「○○さん(←私たちの店長)は羨ましいですよ。他所の店舗からすぐに頼れる仲間が応援に来てくれるんだから」

私たちの店長:「まあ、確かにそうですけど」

スーパーの店長:「特に最近ここで働き始めた若い子(ウエダ)がいるじゃないですか? あの子なんてバイトにしておくのがもったいないですよ。ウチが契約社員をすっ飛ばして(※)正社員として引き抜きたい程です」

私たちの店長:「それは絶対にダメ!!(笑)」

(※:このスーパーは資格保持者か、現職の社員の推薦でなければ契約社員からスタートしなければならない)

・苦虫を噛み潰した日

数日後、ウエダに会った私は店長たちの会話を伝えた。

彼は興味がないかもしれないが、「ウチが正社員として引き抜きたい」と言われて嫌な気分になる人はいないだろう。

だが、彼は笑顔で即答した。

ウエダ:「それは絶対にお断りします!!」

え!?

それまでの彼は冗談でもそのようなことを言わなかったため、度肝を抜かれた。

彼によると、どうやら数年前に、この店のアルバイトの求人に応募して、面接まで進んだことがあったらしい。

そこで、店長から求めている人物像について話を聞かされた。

・明るくて素直な人

・協調性がある人

・大きい声で呼び込みができる人

・常に笑顔で接客できる人

・資格や経験は一切問わない

これは私が最初に説明した「潜在能力」のことを指す。

彼もそのことには気付いていた。

いわば、「実力や能力よりも将来性」である。

だが、彼は面接ではその見込みがないと判断され、不採用となった。

しかも、その返事は店の広告を裏返しにして作った封筒に履歴書だけを入れて送り返してくるというあまりにも無作法な対応だった。

その時の彼は怒り心頭で、今(※私と一緒に働いていた時)でも、その悔しさを忘れることができないらしい。

その経験から、この店に応援に来るよう頼まれた時も最初は嫌がっていたが、当時の面接担当者だった店長はすでに異動になっていることを聞いて渋々承諾したという。

彼はスーパーのことをこんな言葉で切って捨てた。

ウエダ:「そんな因縁があるので、今頃『正社員として採用してあげる』と言われても、僕にその気は一切ありません」

・「潜在能力」を評価する会社がダイヤの原石を見落としていたという皮肉

スーパーが面接にやって来たウエダの経験不足を理由に不採用としたのなら、「君もあれから頑張ったんだね」と成長した彼を素直に受け入れられたかもしれない。

しかし、彼らは「こうなる可能性もあった彼の潜在能力」を見抜けなかった。

その結果、アルバイトでも「社員として雇いたい」と思えるほどの働きぶりの逸材を取り逃したのである。

一方で、私たちの勤務先のように、応募者を選り好みする余裕がなく「来るものは拒まず」の零細企業が、結果的に、彼らが見落としたダイヤの原石を手にすることができた。

これは本末転倒ではないのか?

「潜在能力を評価する」と豪語しているのであれば、彼のような今はまだ輝いていない人間や、他所から「価値がない」と判断された人間が、実は隠れた才能を持っていることを見抜かなければならないはずだが…

ちなみに、2年前に、同じ職場の50代の男性が数日でバックレたという記事を書いたが、彼の採用に関しても面白いエピソードがある。

その時は募集定員1人に対して2人の応募があった。

一人は彼であり、もう一人は20代後半の女性だった。

彼女は他社で同じ業種の経験があったものの、面接時の格好が茶髪で、香水の臭いもプンプンと漂うことから「常識がない人」だと判断された。

その結果、彼の方が「未経験であるものの、真面目に働くだろう」と期待を込めて採用された。

だが、蓋を開けてみれば、彼は仕事をバックレて数日間逃亡した後、職場のことは散々ディスってくる人物だった。

一方で、当時は不採用になった彼女は「他に仕事が見つからない」ということで、数ヶ月後に出した求人に再び応募してきた。

その時は他に応募者もいなかったため、消去法で彼女が採用されたのだが、一緒に働くと彼女はごく普通の女性であり、その後も長期的に働くことになった。

この話からも、面接で評価される「人柄」などというものがいかに当てにならないかが分かる。

結局のところ、「潜在能力」を見極めているつもりの人間は、現時点では表れていない才能を見抜く力など一切なく、個人的な主観や気まぐれで、人を選り好みしているだけなのだろう。

こんな人間から不採用にされても、落ち込む必要など全くない。

だって、バカ相手ですから。

次回も「人を見た目で判断してはいけない」という話をする予定である。

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