今からおよそ2ヶ月前にこんな記事を書いた。
その話の副主人公はリーダーB(仮名)という先輩格の派遣社員で、無茶振りの連続でありながら仕事をやり遂げた彼のマネジメント能力と、仕事に厳しかった彼が最後に見せた意外な素顔を紹介した。
今日は彼との別れの日に聞かされたもう一つの驚くべき話と、そこから思いを巡らせた社会問題の話をしたい。
・別れ際に進路を聞いて驚く
くだんの記事の通り、勤務最終日、私はリーダーBがいる部屋を訪れ、お礼と別れの挨拶をした。
そこで、彼の本音を聞いたわけだが、彼の今後の去就についても話を聞くことになった。
リーダーとはいえ、彼も私たちと同じ短期の派遣社員である。
その日の勤務終了者リストに彼の名前は入っていなかったが、彼がその職場に留まるのも長くはないだろう。
…と思っていたのだが、彼は仕事で関わりがあった別の部署から高い評価を受け、プロジェクト終了後に、そのチームに移籍することになったのである。
この話には驚いた。
かつて派遣社員として半年間勤務したら、直接雇用に切り替えることが慣例となっている会社で働いていたことがあったため、同僚の派遣社員が直接雇用に切り替わる様子を目にしたことはあった。
だが、彼は私と同じ短期の派遣社員として働いていた人間である。
そんな立場から、仕事ぶりを認められて、(それも所属先ではない部署から)ヘッドハンティングされるなど、異例中の異例である。
たしかに彼はよく働いていた。
定時の退社時間は18時であるにもかかわらず、メールの履歴を見ていると、しょっちゅう20時頃までは職場にいたようだった。
場合によっては、正社員が短期の派遣社員の彼に仕事の相談をしていたこともあった。
短期の派遣社員として募集した人材がここまで働いてくれたのだから、派遣先も嬉しい誤算だっただろうし、彼にとってもまさか短期のつもりで働いた会社からそんな誘いを受けるなんて夢にも思っていなかっただろう。
・結局は派遣…
しかし、私はリーダーBの話を聞いて、気がかりがあった。
それはヘッドハンティング後の彼の身分のことである。
彼は私たちと同じ派遣会社(仮名:A社)を自己都合として退職し、翌日から派遣先が指定する派遣会社(仮名:B社)に登録して、そのB社の派遣社員として勤務することになった。
つまり、長期の雇用であるが、身分は派遣社員のままである。
言い方は悪いが、契約社員ですらない。
ヘッドハンティングしておきながら、「自分たちにとって都合がいい派遣会社の派遣社員として働け」って扱いには他人であっても、若干の憤りを感じる。
もっとも、彼が誘われた部署は、勤務先の社員が管理しているわけではなく、契約先の会社(それも一社ではなく複数社)に所属している社員が常駐して組まれているチームなので、彼らとしても直接、リーダーBを雇うことはできないという理由はあるわけだ。
そんなややこしい事情があるにせよ、「そこまで認められても、結局派遣なんだ…」という冷めた気持ちになった。
ただ、過去にも同じことを感じた経験はあった。
前段で触れた「派遣社員が半年間真面目に仕事を続けたら直接雇用へ移行する」という会社も、正社員ではなく、契約社員としての扱いだった。
一応、給料は月給制で、有給休暇とは別に年10日の病気休暇が付与され、交通費も全額支給(当時はまだ派遣社員には交通費を支払わない会社が多かった)されるようだったが、休日でも会社の携帯を持たされることになったため、それと相殺という扱いだろう。
少なくとも私は、「自分も頑張って契約社員になりたい!」とは思えなかった。
だが、それでも、この会社はマシな方かもしれない。
別の会社では、派遣社員として勤続3年を迎えると無期の直接雇用に移るのだが、彼らは雇用形態が契約社員であっても、社内用語では「派遣社員」と呼ばれ、担当業務も派遣社員時代と何一つ変わらないようだった。
この職場で働き始めたばかりだった頃の私は、そのやり方に気付かず、勤続10年の「派遣社員」がいたことに驚いた。
そこまでして、自分たちに都合がいい「派遣」という働かせ方を手放したくないのか…
・堂々巡りを終わらせるには
派遣社員であっても真面目に働いて、ゆくゆくはその職場で正社員になることが、派遣社員の理想のキャリアアップのように語られることは少なくない。
しかし、今回私が取り上げたように、派遣先から仕事ぶりを評価されて、それまでの「派遣」という枠を抜け出せてもハッピーエンドを迎えられる可能性は低い。
もっとも、(自分は実際に経験も遭遇もしていないが)世の中には、派遣社員として3年の満期を迎えると、仕事はあるのに切り捨てて、新しい派遣社員に切り替える会社もあるから、「それでも恵まれている方」と考えることはできなくもないが…
悪いことばかり挙げたらキリがないけど。
ともかく、そのような形で、派遣先から直接雇用されても、ボーナスや年功賃金は期待できないから、「何かが違う…」という結果になってしまうことが多いだろう。
ただし、私はそのことで派遣先だけを責める気にはなれない。
従来の正社員としてイメージするキャリアとは明確に差別されているけど、給料が月給制だったり、契約期間の定めがないことは、派遣社員には得られない安心感だと思う。
それに、「勤続何年で、どれくらい昇給・昇進するか」というキャリアコースは新卒で入社した労働者でなければ、そこに当てはめることが難しいため、頑張って3年働いた派遣社員を次から次にそのコースに乗せたら収集がつかなくなることは明らかである。
ちなみに、私が実例として挙げた会社はすべて大企業であり、正社員は年功序列や終身雇用で明確に保護されている。
もし、正社員であってもそのような保障がない会社であれば、もっと気軽に「正社員登用」を行っている可能性もある。
実際に、私が地元の中小企業で働いていた時は、派遣社員ではないものの、多くの社員がアルバイトからの昇進だった。
その会社で正社員になっても、ボーナスも退職金もなかったけど…
結局、「頑張って派遣の仕事を続けても正社員になれない」という問題はこのブログでも繰り返し述べている通り、
正社員=
・勤続年数に合わせて給料が上がり続ける年功賃金。
・会社が倒産しない限りクビにならない終身雇用。
・給料以外にも定期的なボーナスや充実した福利厚生が得られる。
というような「大企業の総合職としての正社員」としての認識を改めなければ、いつまでも、「それはできない」、「望んでいたことはこれじゃない」という堂々巡りが続くだろう。
昇進も昇給も限られているけど、理不尽な解雇や、一方的な配置換えがなく、安定して働くことができる雇用形態を「正社員」と呼び、会社に言われるがままに働かなければならないが、(仕事ができなくても)昇進できて、家族を養うに十分な給料が支給され、倒産しない限り解雇されない働き方を「無限定社員」とか「無制限社員」という名称に改めるべきというのが私の考え方。(詳しくはこちら)
そうしたら、「大企業の総合職のような正社員」になれないからといって、卑屈になる必要はなくなる。
そもそも、社会保障は勤め先ではなく、国が責任を持つべきであると私は思っている。
この記事で紹介した通り、新卒で入社した会社で定年まで身を捧げ、その間に年功序列・終身雇用という企業の保護を受けて、家族を養うという働き方は昭和時代から多数派だったわけではない。