前回の記事は日雇い派遣の規制と私が実際に働いた経験について書いた。
今日はその続きである。
・貧困の温床が貧困者にとっての最後の砦という不思議
そもそも、なぜ私はそんなひどい環境で働かなくてはならなかったのか?
それは、もちろん日銭のためである。
当時の私は親元を離れていたが、定職に就いていなかった。
就職活動が1ヶ月を超えた頃からバイトをしようと思ったが、バイトの面接でそのことを伝えると
「ウチは正社員の仕事が見つかるまでのつなぎのつもりなの?」
「ウチはバイトでも戦力として考えているから、そんな気持ちで働いてもらっては困る」
と言われ、アルバイトの採用にも落ち続けた。
だから、「つなぎの仕事」として働くことを認めていた日雇い派遣という働き方を選ばざるを得なかった。
皮肉な話だが、「人を貧困に陥れる」として非難されていた日雇い派遣が、貧困の危機に瀕していた私を受け入れてくれる唯一の働き口だった。
もちろん、「日雇い派遣」だから、毎日仕事があるわけではない。
その時の私はある程度の貯金もあり、一人暮らしをしていたわけでもなかったが、将来のことどころか、明日のことも不安で眠れない日も多かった。
その時の重圧に比べたら、日雇い派遣の劣悪な職場環境などよっぽどマシだった。
ちなみに私が働いていた時期は原則禁止の後だったが、日雇い派遣を認める4つの条件に該当する証明書の提出などは求められなかった。
国には日雇い派遣を規制する前に、パートやアルバイトのような最低賃金で働く非正規労働者を基幹労働にすることを取り締まってほしい。
・アルバイトができない人の「日雇い労働へのニーズ」
討論番組で日雇い派遣の存続を主張していた人が「この制度はニーズがあるから存在する」と発言したら「それは企業(使用者)側の一方的な都合でしょう?」とバッシングされたことがあった。
彼は企業側の人間だったので、彼に対する批判はもっともである。
ただ、「日雇い派遣のニーズ」とは企業側のことだけではないと思う。
少なくとも、かつての私はバイトにも就けない状況だったので、日雇い派遣で働くしかなかった。
このように、企業側だけでなく労働者の側にも「日雇い派遣のニーズ」は存在すると思う。
たとえば私が就職活動中に小売店でつなぎのアルバイトとして働くことになったとする。
【面接】
店長:「この仕事に応募した動機は何ですか?」
早川:「はい。ただいま正社員の仕事を探しておりまして、就職が決まるまでの生活費を賄うために応募しました」
店長:「なるほど。それではいつから働けますか?」
早川:「今は正社員の仕事の面接などの予定も入っていないため、明日から働けます」
店長:「それじゃあ、明日からお願いします」
【シフトの融通】
早川:「すいません、店長。応募先の面接ですが、先方から『明日の15時からできないか?』と言われました。急で申し訳ないのですが、明日は午前中で早退させていただけないでしょうか?」
店長:「全然大丈夫だよ。頑張ってね」
【退職意志の表明】
早川:「店長。面接の結果ですが、正社員として採用されることになりました。向こうは『来週の頭から来てほしい』と言っているのですが、まだここの勤務が残っているので、入社日はできるだけ待ってもらうつもりです」
店長:「何言ってんの!? ここはバイトでしょう? 正社員の仕事が優先だから、ここは今週まででいいよ」
【退職日】
早川:「店長、皆さん。1ヶ月という短い期間でしたが、本当にお世話になりました」
店長:「君が無事に就職できてよかったよ。もしも仕事が続かなかったら、いつでも戻っておいで」
同僚:「早川さん。就職おめでとう!!」
これは架空のお話だが、このように直接雇用のアルバイトが気楽な仕事で「正社員のつなぎ」のための一時的な仕事として認められるのであれば、私はそもそも不安定な日雇い派遣の仕事などしなかった。
いくら日雇い派遣が悪質でも、その働き方を禁止されたら、死活問題になる。
私は幸い(?)いい加減な会社のおかげで働くことができたが、規制の影響で、それすらできない人もいたのではないかと思うこともある。
当時の私は「何でバイトに就くのがこんなに難しいのだろう」と悩んでいた。
バイトなんて学生の小遣い稼ぎや仕事を探す人が食つなぐための仕事ではなかったのか…
私が日雇いの仕事で食いつないでいた時、以前の職場の同僚と電話で話すことがあった。
彼は私が日雇いの仕事をしていることを知るとこんなことを言った。
「派遣なんていい加減なことは早く辞めて、せめて真面目にアルバイトくらいやりなよ!!」
それを聞いた私は頭に血が上った。
「アルバイトにも採用されないから、仕方なく日雇い派遣をやってんだろうが!!」
少し話が脱線したが、ここでもう一つ考えてみたい。
「バイト=簡単な仕事」という図式を崩したのは一体誰だろう?
もちろん、人件費削減のために正社員を減らしてバイトだけで会社を回そうと考えている悪質な経営者もいるだろうが、その一役を担ったのは、日雇い派遣禁止論者のような見当違いの規制を求めている人ではないだろうか?
「昔の日本企業は仕事ができない人でも絶対に解雇しなかった!!」
「たとえアルバイトでも解雇は認めん!!」
こんなことを言うもんだから、企業もリスクを恐れて、バイトのような直接雇用を避け、手数料を払ってでも、いつでも契約終了できる「派遣」という形を取り入れているのではないだろうか?
・日雇いの仕事はなくならない?
日雇い派遣の仕事が非人道的であることは同意するが、私個人は「日雇い」の仕事がなくなることはないと思う。
それは使用者側と労働者側の互いに需要があるからである。
使用者側は「仕事がある時だけ人を雇いたい」、労働者側は「働ける日だけ働きたい」と思ってお互いの利害が一致している。
それを「企業は責任を持って正社員を雇うべき」だという倫理観だけで規制しても、それは悲惨な結果しか引き起こさないと思う。
ただし、その「日雇い」という働き方に派遣会社を通す必要があるのかは疑問である。
そもそも、企業が日雇いの労働者を確保するために、どうしても派遣会社を通す必要があるのか?
私が知っている限り、「この場合は派遣会社に人を探してもらう必要があるな」と思ったのは「東京の会社が支社を置いていない地方で1日(もしくは数日)だけイベントを開催する時に、人手が足りないから、どうしても現地の人をスタッフとして雇う必要がある」というようなケースだけだった。
それ以外のケースは単に、募集をかけて、面接などの採用のための手続きをするのが面倒だったり、「契約期間が終了した後も働きたい」と言う人を辞めさせる(この場合、「辞めさせる」という言い方が正しいのかも疑問だが…)ことを恐れているだけだったりする。
責任の所在をはっきりさせるためにも、上記のような特殊なケースを除いて、日雇い派遣を禁止にして、直接雇用で日雇い契約をすることを認める方がいいと思う。
「認める」と言っても、そもそも、直接雇用で日雇い契約をすることは現在の法律でも禁止されているわけではない。
そして、規制を設けることで労働者を守りたいのなら、
雇用期間が1ヶ月以内の契約を結ぶ場合は
・たとえ期間中に仕事がなくなっても、契約期間の給料は保証する。
・収入が不安定だから最低賃金は25%増にする。
・不払い労働や禁止行為の命令があった場合はすぐに通報できる公的機関を設ける。
というような日雇い契約に特化した規制を作った方がいいと思う。
ちなみにこの時の経験から5年後に当たる2019年も、4週間ほど日雇いで働くことになった。
その時の話はこちらの記事をご覧いただきたい。