半年前に(当時)3ヶ月間失業中だった韓国人と連絡を取り合っていたことがある。(この人とよく似た状況だが、別人である)
特に親しい話をするわけでもなく、当たり障りない会話をしていたのだが、彼の返信が深夜の1時過ぎに届くことが多くなった。
ちなみに日本と韓国の間には時差がない。
私は彼に「深夜に私のメールを読んでも、無理してすぐに返信する必要はない」と伝えたのだが、その頻度はどんどん増えていった。
そこで、ある考えがよぎった私は彼に聞いてみた。
最近、眠れていますか?
「いいえ。眠れません。だから、あなたと話がしたいです」
彼が深夜に、私へメッセージを送ってきたのは、眠ることができず、誰かと話をしたいからだった。
・3ヶ月失業中、29歳男性の不安と悩み
彼が眠れない最大の理由は就職のことだろうが、一応、彼に悩みを聞いてみた。
彼の一番の悩みは、やはり、仕事がなかなか見つからないことであり、その他にも、一人暮らしで友達もいないので孤独に苛まれること。
それから、もうすぐ30歳を迎えるというのに満足な職歴を積むことができていないこと、また、結婚もしていないことから「20代の内に何かをしなければ!!」という焦りだった。
良いことなのか、悪いことなのかは分からないが、彼はお酒を飲まず、煙草も吸わない。
だから、不安を紛らわせるために、自傷行為のように酒や煙草に手を出して、体が蝕まれていくということはない。
だが、その結果、常に不安に襲われて、夜は全く眠れないようだ。
彼が深夜に送るメールは
「不安で眠ることができない」
「その不安から助けて出してほしい」
というSOSのメッセージなのだろうか…
彼の不眠の原因を要約すると
①:仕事
②:孤独
③:年齢
この3つから生まれる不安だという。
うんうん。
確かに3つとも不安を感じるなぁ……
…って、よくよく考えてみると、これは3つとも今の私にそのまま当てはまることなのだが…
・私の不眠体験
彼の不眠の原因は全然他人事ではなかった。
私も仕事は不安定な時給制だし(生活できるだけの額は頂いているが)、一人暮らしで、休日に一緒に遊びや食事に出かけるような友達もいないし、大した職歴もなく30代に突入するのも、そう遠い日のことではない。
まあ、私の場合は幸いにもこの3つを抱えていても、不安で夜も眠れないということはない。
いや、「今はない」といった方が適切かもしれない。
実は私も彼と同じような経験をしたことがある。
20代になりたての時に、それまで無職とフリーターだった(数少ない)友達が2人とも同じタイミングに就職したことがあった。
それ自体は喜ぶべきことなのだが、彼らと連絡を取り合うことが徐々に無くなっていき、「このまま2度と会えなくなるのでは?」と不安になった。
そして、彼らと疎遠になって1年近く経った頃、突然、仕事をクビになった。
当時は実家に住んでいて、親もまだ働いていたので、経済的に追いつめられることも、人間関係から完全に孤立することもなかった。
結局、2ヶ月後には次の仕事に就けたが、その間は「自分は誰とも繋がっていないのではないか?」、「これからどうすればいいんだ?」という漠然とした不安に襲われて眠れないことがあった。
今になって思うと、「20歳そこそこで実家に住み、2ヶ月間無職になること」など全然悲観すべき状況ではないのだが、人生経験の浅かった私は「このままじゃいけない!!」というような何とも言えない焦りを感じていた。
その数年後、親元を離れて都会へ働きに出たのだが、なかなか仕事が見つからずに苦しい思いをしたことがある。
この時の私は、「仕事」というと(今でこそコケにしている)典型的な日本型雇用のイメージが頭に張り付いていたので、「正社員は責任も重いが給料も高い、非正規は給料は安いが比較的働きやすい」ものだと思い込んでいた。
しかし、実際に仕事を見つけようとすると、正社員の求人であっても、(高い拘束性はそのままに)給料は最低賃金+数円の仕事や、ほぼ最低賃金の給料にもかかわらず書類選考を行っているバイト、おそらく確信犯だろうが、本来禁止されている採用者の選別を行う派遣先企業など、応募先の企業がやりたい放題やっていた。
そんな中、私はなかなか定職(私は非正規雇用でもフルタイムの仕事なら定職だと考えている)に就けずに、これまでの貯金と日雇い派遣の仕事で糊口を凌いでいた。
(その時のことについてはこちらの記事もご覧いただきたい)
当時、20代前半だった私には、他人の立場で物事を考える余裕も、社会の不条理を黙って受け入れる度量もなかった。
まあ、後者については未だに持ち合わせていないが。
毎日が「不安」と「焦り」(2度目の時はそれ+「怒り」)に満ち溢れていて、それを何かにぶつけたかった。
幸いにも自棄を起こして、人や物に当たるということは無かったが、夜になるとイライラ感がひどくなり、なかなか眠ることができず、太陽の光が見えるとホッとして数時間の仮眠を取るという生活をしていた。
私が不眠に陥った時期はこの2回である。
この経験があるので、今の私はこのような場合の感情的な対処の仕方を知っている。
そう自分に言い聞かせて、冷静に「今の自分に何ができるのか?」、「何をすべきなのか?」を考えるようにしている。
だから、「仕事」と「孤独」に対する不安に襲われても、不眠に陥ることはない。
私が東京で初めて定職に就けたのは上京4ヶ月後のことだったが、その時も不安で眠れないということはなく、自分の生活費と貯金額を照らし合わせて、「いつまでなら無職でも耐えられる」という計算を冷静に行うことができた。
未経験の「大した職歴もなく30歳という年齢を迎えること」については、不安定な仕事をしている関係上、どうしても「再就職の時に年齢がネックになるのでは?」という不安があるので、全く気にしていないと言えばウソになる。
だが、この記事を書くための意見をペンパルから集めた時に、一緒に励ましの言葉も貰ったので、その不安は随分と和らいできている。
・力になれることとなれないこと
自分も同じ経験をしているので彼の気持ちはよくわかる。
そのため、少しでも彼の力になりたいと思った。
彼の力になれることは何だろうか?
彼が外国に住んでいる以上、経済的に支援したり、相談の受付機関を見つけて、そこに彼を連れていったりということはできない。
では、私が彼に出来ることは「自分の経験と対処法を伝えること」なのだろうか?
当初はそのようなことを考えていた。
しかし、残念だがそれもできない。
冷たいかもしれないが、これは私が考え抜いた末の結論である。
「彼の気持ちが分かるのなら、自分の経験を伝えたり、感情をコントロールする方法を教えたりすることで、少しでも力になってあげればいいじゃないか?」と思う人もいるかもしれない。
だが、それは逆である。
気持ちが分かるからこそ、それが出来ないのだ。
だって、私は自分が(不眠に関係なく)苦しかった時に、聞いてもいないのに人から「俺は苦しい時に〇〇をした。××して打ち勝った」などと説教されて救われた経験など一度もなかったから。
たとえば、このブログのように不特定多数の人へ向けた媒体に自分の体験を書くのなら、たまたま漂流した人が、私の体験を読んで、「自分と同じ体験を持つ人がいる」と思い、救われた気持ちになるということはあるかもしれない。
しかし、一対一のコミュニケーションで「自分は苦しい時に何をした」という話を聞かされても、それは自慢話を聞かされたり、自分が非難されているように感じるものである。(苦しい時は特に)
彼から初めてのメッセージをもらって半年経った今は、彼の連絡が来ることはなくなった。
彼が無事に就職できたのか、私に見切りをつけたのか、それとも、この人たちと同じようなメンタリティの持ち主だったのかは分からない。
私が彼に出来たことは、彼の話を聞くこと、さりげなく「自分も同じ経験がある」と伝えること、それから「夜は眠れていますか?」と気に掛けることだけだった。