最近こんな記事を読んだ。
概要をまとめると、
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あるスキマバイトサービスの累計利用者数が700万人を突破した。
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サービスの利用者は、運転免許証などの身分証明さえあれば登録できて、履歴書の提出はもちろん、面接や面談がなく、すぐにバイトを探して予約できる。
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20代の男子大学生は、このサービスでいろんな仕事を試してみて、もし気に入ったものがあれば、そのバイトの正規の面接を受けてみようというバイト探し感覚で利用している。
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だが、手軽さの裏で、最低賃金の仕事も少なくなく、交通費も上限500円程度のものがほとんどで、まったく出ない仕事もある。
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初めての作業で不慣れな面が多いことも災いし、仕事場のヒエラルキーで、正規(?)のパートやバイトといった非正規労働者の中でもかなり下位に置かれている。
記事の中ではA社という匿名になっているが、おそらくこちらの会社のことだろう。
スキマバイトサービス「タイミー」累計ワーカー数700万人を突破|ニュース|株式会社タイミー(Timee,Inc.)
私はスキマバイトの経験がないにもかかわらず、この記事に載っている経験者の話を見たら、まるで自分が経験したかのような既視感があった。
・蘇る悪夢
未経験の私が、「新しい働き方」と注目されているスキマバイトに感情移入した理由は、その働き方が日雇い派遣(バイト)の仕事と酷似していたからである。
記事によると、都会から外れると仕事が減るようだが、その点を除くと、履歴書も面接もなく気軽に働けることも、給料が低く、職場では人間扱いされないことも、日雇い派遣そのものである。
以前、こちらの記事で、私がおよそ4週間に渡って、日雇いの仕事をしていた時の話をした。
これまでも私は、多くの派遣やバイトの仕事を転々として、時にはバックレも経験して、数回だけであるものの日雇いの仕事をやったこともあり、「底辺」と呼ばれる経験も豊富だと自負していた。
そんな私でも、日雇い労働で体験した世界は「地獄」ではないかと感じるほど恐ろしい世界だった。
記事を読んでいると、当時のつらい気持ちが蘇ってきた。
初めての品出しに時間がかかったことで、オーナー婦人から嫌味を言われたり、罵倒された人や、店長とバイトリーダーから真逆の指示をされ板挟みにあった人の経験談を読んだ時は、まるで自分がその立場に置かれているように感じて、「早く時間が過ぎてくれ!!」と願っていた当時のことを思い出した。
私が前回日雇いの仕事をしていたのは、今から5年前の2019年。
当時は、それ以前も経験があったものの、「自分が日雇いを経験したのは、5年前だから知識のアップデートが必要だ」という思いで、改めて働こうと思った。
今はその時からさらに5年が経過しようとしているため、再度アップデートが必要かもしれないが……
すいません。
たとえ、「根性なし!!」と罵られても、体力的にも精神的にもさすがにもう無理です。
あれ以来、何度か失業したことはあったが、日雇いの仕事は一度もやらなかった。
それ程までに、あの時の体験は私の心を蝕んでいた。
・無責任な称賛
あの恐ろしい日雇いの仕事が、「スキマバイト」と名を変え、「多様な働き方」、「新しい働き方」という響きがいい言葉で、こんなにも働き方が広がることには、恐怖と絶望を感じざるを得ない。
私は日雇い労働で、あれだけ心が蝕まれたのだから、他の人に同じ思いはさせたくない。
「自分が苦労したから、他の奴らにも同じ苦労をさせたい!!」と願う最低最悪のクズ人間もいるが、さすがに私もそこまでは落ちていないと信じたい。
「シフトに縛られず自由に働ける」という誘い文句を真に受けて、安易な気持ちで足を踏み入れる人がいると思うと居た堪れない。
この記事を見つける数日前に、テレビのワイドショーでスキマバイトが紹介されていたことがある。
そこでは、元々フリーターとして働いていた男性が、スキマバイトを利用して複数の飲食店で働くことで、「自由な働き方と収入増を手に出来た!!」と絶賛されていたのだが、私は「んなわけあるか!!」とキレそうになった。
日雇いもそうだが、雇い手の多くは経済的な事情や、あまりに職場環境が悪く、常時人を雇うことが出来ないため、日雇い労働者を利用しているのである。
そんな職場に送り込まれたところで、収入でも、待遇面でも満足できる仕事に巡り合える確立など1%以下だろう。
また、よく分からない仕事内容で高収入という怪しい求人も見られる。
普段はあれだけ、知らず知らずに闇バイトに手を染めるバカな若者の事件を哀れみの目で報じながら、よく取材せずに「新しい働き方」などという適当な情報を垂れ流す報道機関の姿勢には呆れる。
・禁止でなくとも規制は必要
ここまで否定的なことばかり書いてきたが、私はスキマバイトが危険だからと言って、「働き方そのものを禁止すべきだ!!」とは思わない。
その理由もこの記事に書いた通り、日雇いに対する見解と全く同じである。
日雇いもそうだが、「スキマバイトが危険で不安定だから」と言って、禁止してしまったら、本当に日銭を稼がないといけない人が困るのである。
日雇い派遣については、「労災が起きた際に使用者責任を問われるのが、派遣元なのか、派遣先なのか?」というように責任の所在が不明確だったり、労働条件が事前に説明されたものと大きく異なった場合などに、労働者が泣き寝入りを強いられることも禁止の原因になった。
私は、日雇い派遣についても、スキマバイトについても、通常派遣と同じように、派遣元や紹介元に雇用者としての責任を求めた上で、30日以内の派遣契約を認めるべきだと思う。
もちろん、収入が不安定なため最低賃金は25%増にしたり、「集合時間が就業開始30分前」のような理不尽なルールをすぐに通報できる公的機関を設けたりといった、単発に特化した法律を作ることで、労働者を保護することが前提だが。
派遣という働き方、特に派遣会社の存在に対して、強烈なアレルギー反応を示し、「派遣労働を認めるのは何が何でも反対!!」と主張する人もいるだろう。
だが、頼りないとはいえ、責任を負う派遣会社が間に入ることで、派遣先も簡単には理不尽なことを出来なくなるし、労働者側も気になる時に相談できる相手がいるのは心強い。
「派遣はピンハネをするから許せん!!」と憤る人もいるかもしれないが、「自分たちがやっているのは、あくまでも紹介だから」という理由で静観し、雇用の責任から逃れる紹介会社の無責任さの方が遥かに問題ではないのか?
それに、アプリを通して日雇いやスキマバイトに就いた場合は、就業先がアプリの運営元に仲介料を支払っているのだから、それは派遣会社のピンハネと全く違いはない。
日雇い派遣の解禁にどうしても反対したいのであれば、アルバイトを元の気楽な働き方に戻すしかない。
日雇いやスキマバイトを利用している人たちの多くは、学生、主婦、求職者のように様々な事情がありフルタイムではなく、本業の傍ら期間や時間を区切って働きたいのだと思う。
本来、アルバイトとはそのような働き方である。
通常のアルバイトがシフトの融通が利き、正社員の仕事に就くまでの繋ぎの仕事として認められたら、わざわざ勤務先が毎回変わる日雇いやスキマバイトで好んで働く人などほとんどいないだろう。
雇用が不安定で、あくまでも臨時雇いに過ぎないアルバイトが、フルタイムの基幹労働者として働くことを求められる方がよっぽど異常なのだ。
そもそも、「スキマバイト」という言葉自体が、「通常のバイトは隙間時間で働く仕事ではない」と言っているようなものである。
このブログでは「正社員信仰者」と呼ばれる人を度々取り上げている。(最新の登場記事はこちら)
彼らは「この社会で暮らす人間は『正社員』として働くことで、基本的な人権が与えられる」と信じて疑わず、「正社員として働かない者は、社会で生きていくための権利をすべて放棄すべき」と考える過激思想の持主である。
そんな彼ら曰く、「正社員は(非正規と違い)責任がある仕事をしている」のだから、アルバイトに責任がある仕事をさせる企業は、彼らの宗派に敵対する存在であり、私の意見に間違いなく賛同してくれることだろう。
今まで敵だった思っていた人たちと意見が一致して、味方になってくれるのだから、ちょっとした感動を覚えた。(戦力になるかどうかは別にして)