前回は「新入社員は仕事ができなくて当たり前なのに何でそんなことで悩むのか?」という記事を書いた。
今日も新入社員に関するネタを書こうと思う。
・多くの人は「新人は仕事ができなくて当たり前」だと思っている?
これは私が考えた架空の話だが、今の季節は全国の会社でこんな会話が多く交わされていることだろう。
・入社して1ヶ月の新人:「すいません。私にはこの仕事は向いていないと思うので、退職しようと思います」
・先輩:「諦めるの早すぎだよ!! 1ヶ月で仕事を完璧にこなせる人なんて誰もいるわけないでしょう!? どんな仕事も2,3年やってようやく一人前なんだから」
そして、次のように呆れるまでがお決まりのパターンである。
全く近頃の若い者は根性と忍耐が無いんだから・・・
そうです。
近頃は根性がない人が多いのです。
ただ、この「忍耐がない」とか「すぐに結果を求めすぎ」いう批判は若者だけに向けられているわけではないように思える。
「近頃の会社は(新卒・中途関係なく)新入社員に高望みしすぎ!!」
「時間をかけて人を育てようという気はないのか?」
「即戦力ばかり求めないで自分たちで育てろよ!!」
こんな声も多い。
私もこの意見には同感だ。
過労死、もしくは過労が原因だと思わる自殺事件の報道を見ていると、入社して1年も経たない従業員が店長や現場監督に抜擢されたが、それは決して華々しい昇格ではなく、汚れ仕事を押し付けられただけであり、その結果、追いつめられて不幸な最期を迎えるという話がある。
命を落とすような極端な事例は大々的にメディアで取り上げられるが、そこまでいかなくても、慣れない仕事の中で責任だけ負わされて、苦しんでいる人は少なくないと思う。
全く生きづらい世の中になったものだ・・・
でも、これは不思議な現象である。
「即戦力ばかり求める世の中になっている」とはいうものの、
「たとえ新人でも、給料を貰っているんだから完璧に働くべきだ!!」
「プロである以上は、ミスは絶対に許さーん!!」
などと豪語(?)している人を私は見かけたことがない。
正式な意識調査を見たわけではないが、世の中の大半の人は「即戦力ばかり求めるゆとりのない世の中」にうんざりしているのだと思う。
世の中の人の大多数はきっと、このような意見なのである。(と信じたい)
だが
と労働者を都合のいいように使い捨てる社会を嘆いている人たちが、自分の勤務先では未経験の新人に即戦力の働きを期待している人が少なくない。
要するに、社会問題としては「新人は時間をかけて育てるべき」という立場を取って、「自分は世の中の情勢とは異なる少数派」であると思っているものの、実はそんな人たちの大多数が、目の前に置かれている問題に対しては「ウチも余裕がないから」と言い訳して、自分が間違っていると信じている世の中の主流派と同じ振る舞いをしているのである。
現代社会の大部分はこのように自意識と行動が大きく乖離している人たちによって構成されている。
まるで、(自称)一匹狼の群れのような情けない話だが…
・この仕事は完璧に覚えるまで数年かかるけど、初日から一人でやれ!!
「ブラック企業」という言葉がある。
これは単なる「法律違法を行う企業」という意味ではなく、労働者が長く務めることを前提とせずに、大量採用・大量離職の経営を行う会社を指すことが多い。
彼らの常套句は概ねこのようなものである。
「嫌ならやめろ!!」
「お前の代わりはいくらでもいる!!」
「人が足りなくなったら派遣でも補充すればいい!!」
だが、今回取り上げる人たちは、そのようなことは言わない。
むしろ、自分はそのような人を軽蔑していると思っている。
だからこそ、質が悪い。
これは私が同僚から聞いた話である。
彼は以前、工場でアルバイトをしていた。
彼の担当は塗装の吹き付け作業であり、その仕事自体は難しくないのだが、そこで使用する塗料を自分で調合しなければならないことも多かったらしい。
彼が調合した塗料が問題なく製品に使用できるかは正社員が確認するが、作業自体は初日から一人でやることになった。
当然、最初は慣れない作業のため時間がかかっていたが、正社員は彼の作った色の確認だけを行い、彼の作業をフォローするということは一切なく、勤務開始3日目には「もう少し急いでくれないと、今のままでは全然仕事に追い付いていないよ」とスピードアップを要求された。
翌日の勤務4日目は注文数がとても多く、すべての作業が終了したのは出荷時間ギリギリだったらしい。(その日も正社員の手助けはなし)
その日の作業終了後には工場長に呼び出されて、このようなことを言われた。
工場長:
君、真面目に仕事する気はあるの?
自分一人で仕事を終わらせることができないのに、何で誰にも「手伝ってください」と言わなかったの?
その程度のコミュニケーションも取れないようではウチでは働き続けることはできないよ。
入社して数日で、一人で作業を任された上に、このようなことを言われるのはたまったものではない。
この瞬間、彼が退職を決意したのは容易に想像できる。
翌日の勤務が終了すると彼は工場長に退職の意思を伝えた。
それを聞いた工場長は彼の退職こそ認めたものの、こんなことを言った。
工場長:
この仕事は数年やって完璧にこなせる仕事なんだから、一週間や一ヶ月で覚えられる仕事じゃないよ。
失敗してもいいから、長く続けようという強い気持ちをもう少し持ってほしかった。
そんな難しい仕事なら、入ったばかりのアルバイト一人に仕事を任せるなよ!!
清々しいほどの自己認識と行動の乖離(矛盾)である。
・下手に出たらナメられるという幻想
「この仕事をマスターするには何年もかかる」と根気強く覚えることを口説きながら、入社して数日であれもこれもといくつもの業務を押し付けてくる人の行動について、私が思い当たることを書いていこう。
先ず考えられることは
という恐れである。
これは私が高校生の時の話である。
入学式の翌日、1時限目が始まる1時間ほど前に1年生全員が体育館に集められて、これから学校生活を送る上で遵守しなければならないルールを教えられた後、「集団訓練」と称して軍隊の真似事の様な整列や行進をさせられて、少しでも動きが悪ければ教師からこんなことを言われた。
そう怒鳴られて、罰則の腕立て伏せを強要させられた。
こんなことが1ヶ月続いたため、あまりのバカらしさに嫌気がさした私は退学することを決意して、担任の教師と面談することになった。
その時、彼は私にこんなことを言った。
当時の担任教師:
なあ、早川。
俺達は中学校の先生から、入学して来る生徒一人一人が「どんな人間なのか」ということを聞いているから、お前が先生に逆らったり、校則違反をするような生徒ではないことは分かっているし、お前が「ふざけるな!! 自分は何も悪いことはしていないのに、どうしてこんなことをしなければならないんだ!?」と反感を持つ気持ちも理解できる。
だけど、他の生徒全員がお前のように聞き分けのいいヤツというわけではない。
だから、俺達教師は生徒にナメられないために、学校生活が本格的に始まる前には必要以上に厳しく接しないといけないんだ。
それに、こういう理不尽なことは社会に出てからも必ず経験するから、今のうちに慣れておいた方がいい。
当時の私は(バカだったから)それを聞いて「なるほど!!」と納得したが、よくよく考えると、それは全く持って意味不明な理屈である。
たしかに、当時の同級生にはガラの悪い奴らが大勢いたことは事実だが、それはルール違反を犯した生徒に対して個別に指導すればいいのであって、なぜ私のように無関係な人間まで巻き込んで集団行動と称した「ナメられないための」指導を行う必要があるのか?
これはあくまでも学校の生活指導の話だが、少なくない会社の教育担当者も、彼が言っていたように
という性悪説に基づいた恐れがあるため、必要以上に厳しく接しているのではないだろうか?
(もちろん、そのような理由があってもパワハラのような指導は許されるべきことではないが)
・辞めるくらいなら無理に覚えなくてもいい!?
もう一つ考えてみたいことがある。
そもそも、入社してばかりの新入りに、あれもこれもと押し付けてくる人は本気で「入社して数日で即戦力になってもらわないと困る」と考えているのだろうか?
口では「すぐにはすべての仕事を覚えなくてもいい」と言っている人たちが、あれもこれもと次から次へ仕事を詰め込んでくる理由は、教わる側が断らない(断れない)こともあるのではないだろうか。
これも私が実際に経験したことである。
その仕事は「未経験可」という条件で募集しており、実際に未経験の私でも採用された。
上司であるマネージャーX氏は初対面の場で私にこんな言葉をかけた。
…のだが、私が働き始めて1週間も経たないうちに、初対面の時に見せた彼の寛容な態度はすっかり消え失せ、陰湿で執念深い本性を表し、些細なことで当たることが増えた。(その一例がこちら)
教育担当者は彼の意向を悟っていたのか、私が一つの仕事を把握できていないにもかかわらず、次から次へと仕事を教えてきた。
(言っていることとやっていることが違うじゃないか!!)
私はそんなプレッシャーからか体調を崩し、「この仕事は私にはついていけないな…」と感じて辞めることにした。(その職場の詳しい話はこちら)
すると、その職場は人手不足だったため、どうしても私の退職を思いとどまらせたかったらしく、教育担当者と面談することになって、こんなことを言われた。
教育担当者:
仕事を覚えるのが難しいから辞めたいと言うのであれば、これ以上何も新しいことを覚えなくていい。
(しばらくは)これまで教わった仕事と他の社員の手伝いをするだけでいい。
だから、仕事を続けてほしい。
それを聞いた私は唖然とした。
無理に覚えなくていいんだったら、最初からやらせないで!!
おそらく、残業も同じではないかと思う。
こちらの動画を見てほしい。
かつて会社員として働いていた投稿者が仕事を辞めた時の話をしているのだが、彼が職場へ抱いていた不満の一つは「残業時間の長さ」だった。
そこで彼が会社を辞めると宣言したら、課長がこんなことを言ってくれたそうである。(4分辺り)
それに対してコメント欄には「残業したくないならしなくていいなら、最初からさせないでほしい」という書き込みがあった。
これは私の経験と全く同じような話である。
特に新卒者の場合は「会社の言うことは絶対だ」と思うし、断り方を知らない。
その上、同期入社の人が大勢いるため、彼らと自分を比較して「あの人が普通にできることが自分にはできない…」と悩んでしまう。
そのため「それは無理です」と断るどころか、自分を責める方へ向かってしまう。
教える側のそこに付け込んで、次々と仕事を押し付けて、できる限り使い倒そうとするのだろう。
・まとめ
・「新人は仕事ができなくて当たり前」だと考え、即戦力ばかり求める社会に息苦しさを感じている人は意外に多い。
・だが、そんな考えの人も自分の職場では、即戦力を求めていることがある。
・「ナメられたら終わりだ!!」という勝手な思い込みで、必要以上に厳しく接する人もいる。
・上手く断ることができたら、あれもこれもと押し付けてくることを止めることができる場合もある。