「正社員の仕事には重大な責任が伴う」というウソが明るみになった事件

2023年、自動車販売会社ビッグモーターによる自動車保険の保険金を不正請求が大きな問題になった。

問題発覚当初程の注目はなくなったものの、今年に入ってからも、街路樹の伐採を指示した本社の社員の逮捕や、副社長、店長らに書類送検などいろいろな動きがあった。

一連の事件では、問題発覚からおよそ半年が経過した今年の1月になって、初めての逮捕者が出たわけだが、それまでの間、私はずっとこんなことを思っていた。

なんで不正にかかわった社員が逮捕されないの?

・呆れるほど節操がない人々

下記の記事で元従業員が証言しているように、ビッグモーターでは、ゴルフボールを入れた靴下で車体を叩いたり、サンドペーパーで傷付けたりと、顧客の車に意図的に損傷を与え、修理代を水増しする悪質行為が全国34の工場で横行していたという。

ノルマと強権的人事、ビッグモーター社員がんじがらめ…工場長からヒラ社員に降格処分も : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

「上司が車を蹴った」 元工場長が語る実態 「上から圧力…従わないと更迭」 ビッグモーター不正請求|ヨテミラ! (tnc.co.jp)

話を聞く限り、不正を指示した上役はもちろんだが、作業員や工場長といった現場で不正に加担した社員も同様の罪を問われるべきではないのか?

そうでなければ、昨今跋扈している闇バイトによる犯罪も、(「フィリピンのルフィ」みたいな)指示役だけが罪に問われて、実行犯のバイトは無罪放免としなければ筋が通らない。

とはいうものの、彼らの責任を追及することがこの記事の目的ではない。

たしかに彼らは社会人として過ちを犯したかもしれないが、これまでも環境整備点検等も含めて、散々理不尽なパワハラや降格処分を受けたことだし、ここで彼らの過去の悪行を掘り返すつもりはない。

自意識過剰かもしれないが、本記事の内容に共感したからといって、彼らへ電凸するというような迷惑行為は控えて頂きたい。

私がこの話題を取り上げているのは、一連の事件において、当事者以上に、あまりにも節操がない人たちの言動に驚かされたからである。

このブログでは、度々、「正社員信仰者」という人たちを取り上げてきた。(記事によっては「自称社会人」、「ペテン師」、「死神」など別の呼び方もあるが、本記事では主に「信者」と呼ぶ)

彼らは、「人間とは正社員として雇われ、企業福祉の恩恵を受けることによって、社会人としての生活や人生を保障される」と信じて疑わない。

たとえば、仕事中にケガを負った際の労災給付金や、仕事以外のことが原因で長期間働けなくなった時に支払われる傷病手当金、育休で仕事が出来ない時に受給できる育児休業給付金。

これらのお金は雇用保険や勤め先の会社の健康保険といった公的な保険から支払われるのだが、彼らの解釈によると、「正社員だから、会社が給料を保障してくれた」ということになる。

もちろん、この国では宗教の自由が認められており、自身の信仰と奉仕により、「企業という神に守られている」と信じるだけなら大いに結構である。

それに彼らは頭が悪いものの、何の恥じらいもなく人前で堂々と間違った知識を語るというボケをかますギャグのセンスは天下一品で、私もかつてはお笑いの師匠として大変尊敬していた。

しかし、この記事を投稿した頃から、「条件を満たせば非正規労働者でも受給資格がある制度を正社員の特権の如く吹聴して、誤った知識を流布し、支援が必要な生活困窮者を制度から遠ざけて窮地に追い込むことは殺人行為ではないか」と考えるようになった私は、彼らと袂を分かち、今ではテロリスト級の過激派危険宗教集団だと認識している。

そんな彼らだが、最近は「同一労働同一賃金」へ向けた政策に猛烈に反対することが、宗派一丸となって取り組む重大な使命だと考えているようである。

・何でもやります系と腹括る系

彼らはこれまでも、同一労働同一賃金を巡る議論において、正社員は非正規よりも「能力が高い」、「生産性が高い」などのヘリクツを展開してきたが、ことごとく否定(「論破」と言ったら、泣いちゃうからやめようね)されてきた。

「同一労働同一賃金」という言葉こそ登場しないものの、この記事で紹介した半世紀前のおじさんたちと同じような状況に陥っており、過去の過ちからは何も学んでいないようである。

宗派の存続をかけ、彼らが最後の避難場所として選び、馬鹿の一つ覚えのように、連呼しているのが「責任」という言葉である。

たとえば、配置換えの可能性。

同じ仕事をやっていても、非正規労働者は「いつ、どこで、何をするか?」が事前にしっかりと決められているが、正社員はこれらのことがすべて会社の一存で決定され、命を受ければ、全国転勤だろうが、畑違いの職種への転向だろうが、受け入れる義務と責任がある。

「賃金の差はそのような義務を背負っているか否かである」という理屈。

これについてはある程度正当性があり、賃金格差の根拠として用いるには妥当だと思われる。

大企業型の年功序列の賃金形態においては、勤続年数が長ければ仕事が出来なくても昇給できて、「仕事が出来ないおっさんが高い給料を貰えてズルい!!」という不公平感を生むのだが、あれも会社の命令を「何でもやります」と言って受け入れる対価として、家族も含めた生活を保障されている「生活給」と考えれば妥当だろう。

というよりも…

頭が弱く、普段は感情的でその場しのぎの勢いでしか議論できない信者の皆様が「よくもまあこんな所に気が付けたな」と感心した。

本当によく頑張った。(泣)

「偉いぞ」と言って、花丸をあげたい。(大泣き)

もっとも、この理屈とて完全無欠とは言えない。

なぜなら、この社会には「異動の可能性がない正社員」もいれば、「可能性がある非正規」もいるからである。

「賃金=企業都合の異動を受け入れる責任」というロジックに従えば、異動の可能性がある非正規労働者は、賃金を正社員と同等の水準まで、異動の可能性がない正社員がいれば、非正規労働者の賃金を彼らと同じ水準まで引き上げる必要がある。(後者については、正規を非正規並みに下げるという禁じ手もあるが…)

実際に、日本郵政の契約社員が正社員との格差解消を目的に裁判を起こした時は、幹部候補生の総合職には目もくれず、地域限定で配置される一般職を比較対象としてピンポイントで狙い撃ちしていた。

以降、信者の皆様は「何でもやります」という責任では、形勢不利と悟ったのか、「責任」の意味を変えた。

「不祥事が起きたら、非正規は正社員に問題の解決を丸投げすればいいが、正社員は真っ先に矢面に立って、どんな裁きでも受ける責任がある」

いわば、「腹を括る」という意味の責任である。

彼らに言わせれば、これが「非正規になくて、正社員にある責任」であり、同一労働同一賃金に反対する(もはや)唯一の根拠ということになる。

・学生やマルチ以下の責任感

さて、今回ビッグモーターの社員が行った不祥事は、まさに信者の皆様が言うところの「正社員として腹を括る責任」が問われる場面なのである。

というわけで、同一労働同一賃金に反対する時はあれだけ声を大にして「正社員には責任ガァァー!!」と連発している彼らは、不正にかかわったビッグモーターの社員に対しても同様に「社員としての責任ガァァー!!」と抗議の声を上げるのが筋だろう。

にもかかわらず、あの界隈からはそのような声は一切聞こえてこない。

会社は違えど、「正社員」という括りの身内には随分と甘いようである。

逮捕するかどうかは、被害届の提出や警察の捜査といった第三者の動きもあるため、難しい点もあるが、不正に加担したのなら、企業を去ったり、実名顔出しで記者会見を開いて、関係者を業界から一掃することを宣言させる等して責任を全うすることは要求しなければならない。

「今後の人生に影響が出るから、そこまでしなくても…」と思うかもしれないが、その程度の覚悟もないのに、彼ら信者はどのツラして「正社員には重い責任がある」と豪語しているのだろうか?

2018年に日本大学のアメフト部の部員が監督から指示で、試合中に相手選手へ悪質なタックルをするという事件が起き、加害行為を行った選手が、実名顔出しで謝罪会見を開いた。

マルチ商法や悪質な商材の購入等で、消費者庁が注意喚起を行う際は、事業者名や代表者名だけでなく、紹介者名も公表されることがある。

学生や悪質ビジネスを展開する外道共であっても、悪いことをしたら、実名で世間の矢面に立ち、悪行に対する裁きや償いは求められている。

一方で、責任が重いはずの正社員でありながら「そんなことやる必要がない」と考えているのなら、彼らが考える「正社員としての責任」など、学生やマルチ以下と宣言しているようなものである。

それとも彼らが、社員の責任を糾弾しない理由が他にあるのか?

たとえば…

ビッグモーターは工場長クラスでもバイトがやっているとか?

2014年に韓国でセウォル号沈没事故が起きた時に、船長が乗客の避難を行わずに自分だけ逃げ出したとして逮捕された。

彼の無責任な行動はもちろんだが、船長という船で最も責任がある職に、素人同然の非正規労働者(日雇いという噂もあった)を就かせた会社も大バッシングを受けた。

あの時は、「所詮他所の国の出来事」だと呆れていたが、彼らの頭の中では、日本も同じところまで落ちたのだろう。

まあ、頭は悪いが口が上手く、信仰心が強い信者は「不正を行ったのがバイトで、責任感がある社員は潔白」とか本気で言いそうな気もするけど…

・お前も無責任なバイトと同じだ!

発言者が故人であり、正確な発言は思い出せないため実名は避けるが、今から15年ほど前、テレビ番組である過激コメンテーターが、自身が勤め先を辞めて独立した時の経験も交えて、こんな話をしていた。

「問題が起きたら、腹を括って、自分の首と引き替えに、信念や部下を守る立場にある奴が、他人よりも高い給料を貰える」

「最近は貰えるもんは貰うけど、いざとなったら保身に走る腰抜けが多すぎる!!」

前段で取り上げた「実名顔出しで会見を開く」という方法以外に「腹括る」という言葉が相応しい責任の取り方があるとしたら、このような職を辞するものだろう。

実際に、ビッグモーターで働いていたものの、上から命令された不正への加担を拒否したり、手を染めてしまったことによる罪の意識から、退職を決意した者も決して少なくなかっただろう。

彼らは「立派に責任を果たした」と言える。

しかし、信者の方々が、このような責任の取り方を絶賛している話など聞いたこともない。

そもそも、解雇規制でがっちりと保護され、長期で安定的に働けることが前提になっている現制度を崇拝している彼らに、そんな覚悟があるのか疑わしい。

退陣を伴わない責任などママゴトと同じであり、怒られたり、始末書を書くことが「責任」だと本気で思っているのならお笑いである。

そんなことバイトでも出来る。

開き直りや負け惜しみとして、正反対に「正社員は会社がどんな逆境に立っても絶対に逃げ出せない責任がある!!」と言い出す者もいるかもしれないが、彼らは憲法で職業選択の自由が保障されていることも知らないのだろうか?

「就労中の正社員は適用除外となるよう、憲法22条を修正すべきだ」と主張しない人間には「正社員は会社と心中する責任がある!!」と叫ぶ資格はない。

ちなみに、一連の事件においては、「創業者のバカ息子の副社長が悪い」と主張して、彼が逮捕されないことに憤る声が少なくない。

初の逮捕者が出た時も

「トカゲの尻尾切りだ!!」

「巨悪はもっと上役にいる!!」

という意見が多く見られた。

「副社長の責任をしっかりと追及しろ」という意見には賛成だが、彼一人に全責任を押し付けたり、上役陰謀論を展開すれば、「不正に関与した社員は悪くない」という理屈が生まれるとでも思っているのだろうか?

都合が良い時だけ「弱者」の顔をして逃げ回るのは、彼らが見下しているつもりの、口だけ一人前で、問題が起きたら責任を正社員に丸投げして逃げ回るバイトと何ら違いがない。

そんな姿には「滑稽」という言葉しか見当たらない。

・自分の弱さを受け入れることで前に進める

数年前、同じ部署で働く派遣社員の女性であるモモタ(仮名)がこんなことを言った。

「早川さん、聞いてください。課長に『○○のファイルは、こう変更した方が良いですよ』と何回も提案しているんですよ!!」

「今日も同じことを言ったら、鬱陶しそうに『モモタさんは派遣だから、そんなこと気にしなくて大丈夫です』って言われました!!」

「せっかく、改善を提案しているのに、『派遣だから』と言って却下するのはひどくないですか?」

「あんた、『正社員なのにどんだけやる気と責任感がないんだ!!』って言いたくなりましたよ!!」

私は彼女に同情する発言をしたが、心の中では「それはモモタに非があり、課長が嫌な顔をするのも分かる」と思っていた。

その理由は決して、モモタの発言を聞いた正社員信者がアレルギー反応全開で

「派遣の分際で正社員様に楯突くとは何様のつもりだ!!」

「派遣なんて、所詮使い捨ての他所者だから、自分の立場を弁えろ!!」

と金切り声でほざいていそうな理由からではない。

むしろ、逆と言える。

正社員と言っても、所詮は雇われであり、皆が「バリバリ働いて、業務を効率化して、営業成績を上げて、昇進して、会社の規模を大きくするんだ!!」という野心があるわけではないし、人の上に立つだけの器があるわけでもない。

モモタの意見を聞いた課長も、「俺にそんな面倒なことを言われても分からないよ」という逃げの姿勢から、彼女の進言を却下したのだろう。

そんな人のことを「正社員だから」といって、一人前のビジネスマンのようにみなし、自分の意見をぶつけたり、相手の意見を求めているモモタの前提が間違っているのである。

ちなみに、私はその職場で従業員の勤怠記録の照合や給与計算をやっていたこともあり、課長の給料額に目を通すこともあったが…

その金額には思わず同情した。

彼はモモタが言うように、「やる気がない」ように見えたことも何度もあったが、きっと「あの金額では、バリバリ働くなんて馬鹿らしい」と思っていたのだろう。

だが、私は課長を非難するつもりは一切ない。

この記事にも書いたことだが、この社会には正社員といえども、非正規以下の給料で働き、社会的な救済を必要としている人が存在している。

彼らには「正社員=既得権」という定説は通用しない。

しかし、当の本人たちの中には、ボロ雑巾のように都合よくコキ使われている自分の惨めさを否認するために、「自分はパートやバイトのようなお気楽な非正規と違って大きな責任がある!!」と思い込んで、「正社員」という肩書を最後の心の拠り所にしている者が少なからずいる。

もちろん、そんなことを思っても、給料や労働環境が改善されるはずなどなく、声高に同一労働同一賃金に反対する正社員信者に心酔して、カモにされるだけである。

そんな愚かな人々に比べたら、課長のように「正社員といっても、重い責任を負わされるだけの給料なんて貰ってねえーよ」と開き直り、のんびりと生きる人の方が遥かに幸せなのは間違いない。

「正社員だから重大な責任がある!!」

そんな思い込みは捨てて、各々に合った自由で生きやすい人生を歩もう。

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