韓国の整形事情に学ぶ「他人に向けたルッキズムは必ず自分に返る」という教訓

最近「ルッキズム」という言葉を知った。

これは looks(見た目)とism(主義)を合わせた造語で、人を外見で評価・差別する思想のこと。

日本語だと「外見至上主義」になる。

Wikipediaには「容姿の良い人物を高く評価する」「容姿が魅力的でないと判断した人物を雑に扱う」といった分かりやすい(?)記述がされている。

ちなみに、そのような外見重視主義者はルッキスト(lookist)と呼ぶ。

結婚でも、ビジネスでも、どうしても外見を意識してしまうことは否定しないが、「至上主義」と呼ばれる程の極端な思想は危険であることは断言する。

その理由は決して他人への思いやりではなく…

・美容整形に熱中する中高年男性

2020年の12月、「韓国 行き過ぎた資本主義 『無限競争社会』の苦悩 (著:金 敬哲 講談社現代新書)」という本を紹介する形で、韓国社会の闇について取り上げる記事を書いた。

この記事の中で少し触れたが、昨今、韓国では美容整形がますます加熱している。

「整形」と聞くと、若い女性が没頭する姿を思い浮かべるが、最近は役員や管理職に就いている中高年の男性の間でブームになっているのである。

先の記事では他の話題も取り上げていたため、わずか数行触れただけだったが、今回は具体的な実例や、「なぜそのようなったのか?」という理由について、もう少し詳しく説明したい。

韓国でブームになっている美容(「Kビューティー」と呼ぶらしい)に熱を入れる中高年男性には「グルーミング (grooming) 族」とその進化系の「グルダプター (Groo-dopter) 族」がある。

「グルーミング族」:美容やファッションに惜しみなく投資する男たち。

「グルダプター族」:従来のグルーミングにアーリーアダプター (early adopter)が加わり、美容のためなら化粧品はもちろん、整形手術も躊躇わない男たち。

「グルーミング族」はややマイルドで、「グルダプター族」の方は本気度が高いように見える。

同書が取材している57歳の男性(大手IT会社役員)は、「顔が割れるように寒くて乾燥した冬でも一度もローションを塗ったことがなかった」という程「グルーミング族」とはかけ離れた人物だったが、数年前から若々しく見られるために整形手術も厭わないと考え直すようになった。

きっかけは40代前半の若い御曹司が会長の座に就いたことだった。

初めての役員会議の時、5060代の役員たちの間に座った会長が、あまりにも若く見え、自分が老けていることに恐怖を感じたという。

彼は妻に勧められたこともあり、目元の脂肪を除去する手術と、眉間と額のしわを取り除く施術を受け、今では「40代に見える」とよく言われるらしい。

この本はソウルの整形外科の院長にも取材しており、最近は現役で働く期間が長くなったおかげで、若さを長く保ちたい中年男性が来院するケースが増え、その病院は男性患者の割合が100%を超えて(!)いる。

彼によると、20代の男性の場合は、就活で善良かつ明るい印象を与えるために目や鼻の手術を希望し、5060代の男性たちは、ボトックスなどでしわを改善する簡単な手術や美容注射が人気とのこと。

別の皮膚科では、顧客の30%が中年の男性で、職業は大企業の役員、弁護士、医師、学習塾の講師、さらには聖職者までと多彩である。

この病院は手術に消極的な人向けの、生活習慣の改善を指導して顔の輪郭としわを改善する「印象クリニック」が人気で、大企業、商工会議所、官公庁などのお堅い職場からも講義の依頼もあるという。

韓国化粧品業界によれば、不況の中でも、男性化粧品市場は急成長。

2008年に約6000億ウォン(550億円)だった男性化粧品市場は、毎年10%以上の成長を続け、2013年には1兆ウォンを超え、2018年には12000億ウォンまで拡大。

厳しい競争社会の中で、若々しい顔を「スペック」の一つと捉え、時間やお金を投資する男性が増えている。

・「自分には関係ない」とたかをくくった結果…

この話を聞いた時は率直に「おかしな社会だなぁ」と思った。

本の中で登場した祥明大学消費者住居学科のイ・ジュンヨン教授によると、韓国は基本的に外見に対する関心が強い国で、他人の目を強く意識する体面文化があり、ブランド物を持つのと同じ感覚で、容貌を整えて他人から認められたいという欲求があるという。

こうした「外貌至上主義」の社会では、外見も、お金や学歴、スキルと同様に、人が持つ資本の一つと見なされ、そこから多くの男性が美容へと駆り立てる。

らしいのだが、いくら「文化だから」と説明されても、それでも「バカだなぁ」としか思えない。

話は記事を書いた1年後の202112月に飛ぶ。

ペンパルサイトで知り合った韓国人男性(20代半ば)と話をした際に、美容整形がテーマになって、先ほどの話は本当なのかを聞いてみた。

彼によると、その話は本当であり、さらに面白いエピソードがあるという。

韓国に整形文化が広まった80年代、フェミニストは整形ブームの過熱に異議を唱え、韓国社会の行き過ぎた外見至上主義をこう批判した。

「韓国では、女性が就職する時や結婚する時は常に外見で選別されるため、美容業界が発展するのだ!!」

「美容整形は容姿に自信がない女性を食い物にするだけでなく、悪しき外見至上主義を増長させる!!」

「これは明らかに不健全であるため、男たちは女性に美を求めるのを止めろ!!」

残念ながら、このようなフェミニストの必死の主張は聞き入れられず、美容業界の拡大を食い止めることができなかった。

それどころか、当時の男たちはこのような態度で嘲笑った。

「美人は男のモチベーションを上げるのだから、見た目で選んで何が悪い!?」

「モテない女は整形を受けて自分を磨く努力をしろ!!」

(注:この文言はイメージです)

このように開き直っていたのが男性ばかりなのかは不明だが、彼らは致命的な点を見落としていた。

それは、後に美容整形や外見至上主義(ルッキズム)がますます拡大しても、その波は女性にしか及ばず、自分には関係ないと思っていたこと。

しかし、現実はシビアだった。

外見至上主義を批判するフェミニストを嘲笑って数十年が経過した今、彼らはまさに自分たちが外見で選別され、生き残るために美容整形に向かわざるを得ない状況に直面してしまったのだ。

何と言う皮肉だろうか…

かつて、フェミニストが言っていたことに真摯に耳を傾けて、その腐り切った考えを改めていたら、こうはならなかっただろう。

まさに自業自得というか、「人の容姿へ向けた侮蔑的な態度は、そっくりそのまま自分に跳ね返ってくる」のである。

・決して他人ごとではない

これはあくまでも他所の国の出来事だが、決して他人ごとではない。

日本でも、最近は電車の中など至る所に、整形、脱毛、薄毛治療など美容やアンチエイジングの広告を見かける。

本人が「綺麗で若々しくありたい!!」と思うだけなら自由だが、「清潔感」や「身だしなみ」といった響き良く、批判されづらい言葉を並べて、露骨に他人の外見を評価したり、それこそ、冒頭のWikipediaの一文ではないが「容姿が魅力的でないと判断した人物を雑に扱う」人間も少なくない。

それに人前で堂々と「イケメン!! イケメン!!」、「若い子!! 可愛い子!!」と叫びながら「外見が一番!!」と公言する人間も珍しくなくなった。

そんなこと数十年前では考えられなかった(思っても口に出せなかった)。

これは間違いなく危険な兆候である。

今こそ我々もお隣の国で起こった教訓を戒めにする時ではないだろうか?

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