運転士の待機時間中の読書禁止で一番損をするのは乗客である

少し前のことになるが、こんなニュースを見た。

JR北海道の運転士が小樽駅待機中に運転室で8分間読書 私物の鉄道関係の本を読んでいるところを乗客が目撃 HTB北海道ニュース

概要は以下の通りである。

  • JR北海道は2025107日に50代の運転士が小樽駅(函館線)で同駅始発の岩見沢行きの普通列車で、発車までの待機時間中に約8分間、運転室で私物の本を読んでいたと発表。

  • 目撃した乗客の報告で発覚。

  • 運転士は「出発まで時間があり、仕事中なのは分かっていたが、気を抜けるタイミングで読んでしまった」と話している。

  • 運転士は駅の発車待機時間中も緊急対応などをしなければならず、今回の行為は社内規定に違反している。

この記事を読んで、私が気になったのは、記事に出て来た「待機時間中」という言葉である。

これは始発駅での出来事のようだが、運転士が読書していた時は「電車のドアが開いており客が乗車できる状況だったのか、それともドアが開いておらず、車外で待たされていたのか?」によって見方が変わる。

もしも、後者であれば、乗客が「何で客はドアの前で待たされているのに、運転士はのんびりと私物の本を読んでいるんだ?」と言いたくなる気持ちも分からなくはない。

だが、前者であれば、「そのくらい構わないのでは?」と思うし、それを禁止する方が周りまわって乗客が損をする結果になると思う。

JRの公式発表によると、「ご利用のお客様におけがはありません」という一文が記載されているため、今回は「車内に乗客がいた=ドアは開いていた」という前提で話をさせてもらいたい。

20251008_KO_otaruuntenshi.pdf

・電車は停まっているのにドアが開かない

具体的にいつからだったかは思い出せないが、私が子どもの頃だった2030年前と比べて、始発駅で電車に乗ろうとすると、電車がホームに入っているのに、なかなかドアが開ず、ドアの前で列を作って待たされることが増えた。

たとえば、出発時刻の30分前に電車がすでに停まっているのに、10分前にならないと乗車できないとか。

しかも、車内清掃や整列乗車のために客が全員降車したかの確認などを行っているわけでもない。

乗客が片手で数えられる程の人数であれば、ドアが開くまで待合室で待機していればいいのかもしれないが、列車1,2両に対して、数十人の客が待っている場合は、(私も含めて)皆「我先に席を確保したい」と思って、ドアの前に列をなしているので、自分もその場を離れるわけにはいかない。

夏場は炎天下で、冬場は冷たい風に吹かれながら、ただひたすら扉が開くのを待たされる。

これには毎回しんどい思いをさせられる。

「電車がホームに入っているんだから、早く入れさせてくれよ!!」

率直にそう思うのだが、鉄道会社がそうしない理由は、「車内に乗客を入れてしまったら、乗務員も車内で待機する必要があり、その時間も労働時間となってしまうため」だという。

もしも、乗務員不在の車内で客の転倒やトラブルが起きたら、責任問題となってしまう。

鉄道会社はそうしたリスクを回避するために、電車がホームに入線しても、乗務員の準備が整うまでドアを開けないようにしている。

当然、車内に待機している乗務員は勤務時間中ということになり、そこでは今回の一件のように私的な行動を自制しなければならない。

らしいのだが、こうしたルールは以前から遵守されていたのだろうか?

私が小学生だった25年ほど前のことになるが、当時の私は自分一人で電車に乗ることになって間もない頃だったため、印象的なエピソードが今でも記憶に残っている。

始発駅で電車に乗ることになったのだが、ホームにはドアが空いている電車が停まっており、電車と駅の行先案内は目的地方面となっていたため、特に気にすることなく乗車した。

しかし、車内には他の乗客はおろか、運転士も車掌もいなかった。

そのことに恐怖を感じた私は一旦駅に降りた。

そして、他の乗客が数名乗車した後で、私も乗り込んだ。

その後、乗務員も乗り込み、電車は問題なく出発した。

また、こちらは10年ほど前の出来事になる。

始発駅で1両編成のワンマン列車に乗車したのだが、運転士が(運転席ではなく)客席でコーヒーを飲みながら、新聞を読んでいた。

あまりにもリラックスした姿だったため、私は「間違えて回送列車に乗ってしまったのでは!?」と驚いて、駅に降りて列車と駅の行先を再度確認して、私が乗る予定だった列車に間違いないことを確信して、改めて乗車したのである。

このように、かつてであれば、乗務員不在だったり、車内で休憩していても、客扱いを行うことが当たり前のように行わており、特に問題にはならなかった。

ところが、鉄道業界に限らず、法令順守の意識が高まると、こうした行動はけしからんものという意識が広がり、乗務員が勤務モードにならないと、客も乗車も認められず、たとえ、電車がホームに停まっていても、ドアが開かずに車外で待たされることになったのである。

客の立場としては、サービス低下以外の何ものでもないのだが…

・規則の遵守と引き換えに失うもの

今回のJR北海道の件は、この流れをさらに加速させるように思える。

運転士が発車までの待機時間に車内で私物の本を読むことが問題になるのなら、今後は運転士ができるだけ車内の待機時間を削って、乗客の目に触れないように行動するようになるだろう。

冒頭にリンクを貼ったJR北海道の発表によると、今回問題になった列車の出発時刻は17:18で、客が目撃したのが時刻が17:05なので、少なくとも出発時刻の15分程前には客扱いしていたことになる。

これが、乗務員は客の目が届かず読書をしても問題にならない控室で出来るだけ長く過ごして、発車5分前に乗車して、装置の確認などの出発準備を行い、出発1分前にようやくドアを開けるようになるだろう。

当然、列車が出発時刻の30分前にホームに入線して、客がドアの前で列を作っていても、「そんなの関係ねえ!!」と一蹴されることになる。

これぞまさに規則が徹底された社会の姿であり、読書をしていた運転士を密告した人間の望んだ結果なのである。

鉄道会社は「安全のため」、「規律のため」と説明するだろうが、利用者からすれば、それはただの不便の強化でしかない。

これは決して絵空事ではなく、「法令順守によって、結局弱者が一番損をする」ということは以前の記事でも取り上げたことがある。

電車が目の前に停まっているのに、なかなかドアが開かず車内へ入れない不便さと比較したら、運転士が出発時間まで読書をしていることなど大した問題ではない。

私はそう考えているし、それを「サボりは許せない!!」と憤慨することは自由だとしても、そうした見当違いの怒りを巻き散らかして、他の乗客にまで不便さを強いるのは迷惑極まりないことである。

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