前回は、外国人が手っ取り早く日本で働くための方法として「偽装留学」を紹介した。
この方法を使えば、簡単に日本で働くことが出来るが、その代償として彼らが行わなければならないことは莫大な借金の返済である。
少しでも良心がある人間なら、こんな方法を勧められるはずがない。
・正規雇用で働くという選択肢
「出稼ぎは危険だけど、しっかりと正社員という形で就職すればいいじゃないか?」という人もいるかもしれないが、私はそれもおすすめできない。
ジョブディスクリプション(job description)という言葉を聞いたことはあるだろうか?
海外では就労前に、勤務地、担当業務、給料を契約書に明記しておく。
この契約書をジョブディスクリプションという。
当然、ジョブディスクリプションに反した一方的な労働条件の変更は認められない。
しかし、日本ではどうだろうか?
給料はある程度、事前に把握できるだろうが、正社員という形で企業から内定を貰ったら、どこで、どんな仕事をするのかは一方的に決められる。
だから、そんな雇用慣行を知らない外国人が日本で正社員として働くことになれば、就労してから「こんなはずじゃなかった」ということになるだろう。
これは運悪く、ブラック企業と呼ばれる悪徳企業に入社したために起こる問題ではない。
どんなに世間に名の通った有名企業でも起こりえることだし、完全に違法性があるとも言えない。
たとえば、「通訳という職種でホテルに採用されたのに、実際にはベッドメイキングの仕事をさせられた!!」と言って、怒り爆発の外国人のケースを考えてみよう。
低賃金の肉体労働で、土日祝日関係なく働かなくてはならないベッドメイキングの仕事は人気がない。
だから、外国人を通訳というウソの求人で騙して採用して、その仕事をやらせたという場合は会社に非があるのかもしれない。
だが、実際に通訳として半年間、働いた後に、ベッドメイキングの担当者が多数退職、その通訳業務も採用時に期待していたほど必要なかったということで、「あなた来月から担当を変わって」ということになった場合はどうだろうか?
私たち日本人の視点からすると、この場合は会社の言い分に正当性があるように思われる。
だから、その外国人が自分に正当性があると訴えを起こしてもそれが受け入れられるとは思えない。
カルチャーギャップだと言えばそこまでだが、「日本でこういう仕事をする」という青写真を描いている彼らが、このことに耐えてでも日本で働くメリットがあるとは思えない。
・配偶者ビザを得た日本で働くという方法
正社員がダメならアルバイトはどうだろうか?
たしかに、アルバイトなら正社員と違って、勤務地や職種はある程度、選ぶことが出来る。
そんな仕事は大体、日本人が嫌う3Kと呼ばれる仕事であることが多い。
しかし、「きつい」と「汚い」はともかく、「給料が安い」は考える余地がある。
月収10万円という数字は日本では低賃金だが、途上国出身者にとっては大きな金額だ。
日本でアルバイトの仕事に就けば、やりがいはなくとも金は稼げる。
冗談だと思うかもしれないが、InterPalsではこのような考えで日本人と結婚したいというメッセージを送ってくる人もいる。
しかし、この考えも、やはりおすすめできない。(というか、やり方によっては偽装結婚という犯罪に当たる。)
ちょっと、考えてみてほしい。
たしかに日本円の月収10万は途上国では大金である。
ただし、これはあくまで2019年現在の話であって、これが今後いつまで続くのかはわからない。
20世紀初頭に多くの日本人が出稼ぎ目的でブラジルに移り住んだ。
当時の日本は貧しい農村が多く、彼らから見るとブラジルの農場へ働きに行くことは大金を稼ぐ絶好のチャンスに思えた。
出稼ぎの目的は金である。
彼らから見たら当時のブラジルは日本よりもはるかに豊かな国に見えただろう。
しかし、その関係は、その後どうなっただろうか?
時代が進んで孫の代になると、逆に、その移民の末裔が日本へ出稼ぎに来るようになった。
すなわち経済力が逆転したのである。
だから、国を変えて、好きでもない相手と結婚までして、目先の大金を手に入れたところで、その大金がいつまでも大金であり続けるとは限らないのである。
今から5年以上前のことだが、私が工場で働いていた時に30代の中国人女性のパート従業員がいた。
彼女はかつて中国で日本から転勤してきた従業員に中国語を教える仕事をしていた。
パートタイムの講師ではなく、フルタイムの従業員として企業に勤めていたので、収入は当時の中国の基準としてはまあまあ良かったらしい。
そして、日本人と結婚し来日、いくつかの職場で働いた後、私が働いていた職場にやって来た。
本人に直接聞いたわけではないが、多分、私と同じ職場にいた時の月収は10万ちょっとだったと思う。
しかし、それでも中国で働いていた頃よりも多かったらしい。
私はそれを聞いて日本と中国の経済格差を感じた。
中国で一生懸命勉強して大学に行って外国語講師になるよりも、外国で単純労働をする方が大金を稼げるのかと思うと、貧しい国に生まれた人間は、一体何のために勉強して、いい仕事に就かなければならないのかと、複雑な気持ちになった。
しかし、何十年も低迷している日本と成長著しい中国の経済格差は今後どうなるだろうか?
今はまだ、日本で働く方が収入はいいかもしれない。
しかし、今後、経済力が逆転して、中国で働く方が大金が稼げるということになったどうなるだろうか?
幸い、彼女は日本に来る前の学歴と職歴があるが(そもそも、彼女が金と国籍目当てで結婚したとも限らない)、目先の大金を求めて日本へやって来て、長年、単純労働に従事してきた中国人は国に帰ったとしても働く場所があるのか?
このように大金を稼ぐ目的で外国に出稼ぎに行っても、長年、暮らしていれば経済格差には変化が生じる。
その時に今の大金が大金のままであるとは限らない。
・出稼ぎのまとめ
否定的なことばかり書いてきたが、外国で働きたいと思うことは決して悪いことではない。
自分が若い時もそうだったが、若者は「たとえ、常識外れで、何の伝手もなくても、実力さえあれば認められるはずだ」という根拠のない自信に溢れている。(はたしてこれは褒め言葉なのか?)
その結果、上手くいくこともある。
私のような非若年層のように、可能性を否定して後ろ向きの保身に走ることだけが正しいとも限らない。
無意識の内に「保身」を「責任」という言葉で誤魔化すようになったら、それは老化の表れだろう。
無謀なことにチャレンジすることは若さの特権とも言える。
だからこそ、彼らを受け入れる我々は、今の日本で働くということがどういうことなのかをしっかりと伝えなくてはならないと思う。