人を雇う時に若い人が好まれるのは海外も同じみたい

・海外では中高年が尊敬されている!?

前回の記事の主役は10年以上の一般事務経験がありながら恐ろしいほど要領が悪いベテラン派遣社員だった。

私はその記事の締めにこんなことを書いた。

「全くの未経験は困るけど、経験年数豊富なベテランよりも、物覚えがいい若者の方が欲しい!!」

事務員募集の際にそんなことを望む会社はムシが良過ぎる気がするが、残念ながら理に適っていると認めざるを得ないのかもしれない。

「経験者を求めながら、従順な若い子しか採らない」

このアンビバレントな経営方針(本音)を聞いて、「何てワガママなんだ!!」と憤慨した人もいたかもしれない。

「企業が望むのは若者か、経験者か?」という話題になると、よくこんな話を聞く。

  • 昔の日本企業は全く経験がない新卒を根気強く一から育てていた。

  • 一方で、海外は職務経験が重視されるから、経験豊富な中高年が好まれる。

  • それに引き換え今の日本企業は、人材育成を放棄して即戦力を求めている上に、他所でしっかりと経験を積んだベテランは相変わらず敬遠している。

  • 本当に情けない限りだ。

現代の日本企業への指摘については私も同意する。

だが、海外の認識については留意する必要がある。

多くの国で、職務経験がない若者が就職で不利になることはよく耳にするが、中高年は本当に「経験豊富で仕事が出来るベテラン」として重宝されているのか?

2020年の12月に、「日本社会のしくみ」という本を参考にこんな記事を書いた。

私たちが、この社会で当たり前と思っている習慣の多くは、文化的なものでも、民族的なものでもなく、歴史の流れでたまたまそのように形作られただけに過ぎないものが少なくない。

たとえば、学校を卒業したら、新卒で入社した会社を定年まで勤め上げて、その間にさまざまな仕事を経験し、スキルを身に着けて昇給し、結婚して、家を買って、子どもを育て、定年後は年金で悠々自適の老後を過ごす「日本的」と呼ばれている働き方。

これは昔からの伝統でも、日本人の体質に合った働き方でもなく、経営者の気まぐれによる不当解雇の撤回や職員と工員の格差是正、生活給の要求という労働闘争の結果として作られたものに過ぎない。

ちなみに、そういった生き方をしていたのは昭和時代ですら3割程度だったため、多数派とも言えない。

だから、その合意を疎んじて、美味しい所取りに走る倫理やモラルがない企業が出てくることは何ら不思議ではない。

それは海外とて同じこと。

若手よりも、経験年数が多いベテランの雇用が優先されるのは労使協定の結果生まれた考えに過ぎず、「企業や社会が中高年の持つ素晴らしいスキルを認めているから」とは必ずしも言えない。

実際に現場レベルだと「経験年数20年のベテランよりも、スキルは無くてもいいから、自分の意向に従う若い人でメンバーを固めたい」と考える人も珍しくないとのこと。

それを聞いた時は少し驚いたが、よくよく思い返すと、以前も海外の友人とのやり取りで「建前としてはそうなっているけど、実際は…」と言われたことがあった。

・実はウチも同じ

その話はこの記事で紹介した知的で日本語が堪能なスペイン人の青年から聞いた。

私たちは当時話題になっていた日本の新人研修におけるパワハラについて話しをしており、私は彼に冒頭でも説明したような話をした。

「昔の日本企業は時間をかけて学校を出たばかりで経験がない若者を育てていたが、今は人材育成を放棄して、即戦力ばかりを求めているから、このような頭がおかしい研修が横行する」

「その一方で、『経験豊富な中高年を雇うか』といったら、依然として20代の若い子ばかり欲しがる」

「アメリカやヨーロッパのような国の人がこの横暴を聞いたら驚くのでは?」

すると、彼は日本企業の堕落ぶりについては同意したが、その後でこんな話をした。

「たしかにスペインでは経験がない若者は就職で不利です」

「だけど、『40代や50代が就職の時に好まれているか?』と聞かれたら、残念ながらそうではないと思います」

「高齢者は規制や組合との合意で立場が守られていますが、やっぱり現場の管理職は体力があって、素直に言うことを聞いてくれる若い人を欲しがります」

「もちろん、若くても経験は必須なので、2628歳辺りの人が一番需要が高いと思います」

え!?

「全く未経験者は嫌だけど、経験豊富な中高年よりも若い人が欲しい?」

それって、今の日本と全く同じなのでは?

しかも、中高年の雇用が安定しているのは「スキルを評価されているから」ではなく、「規制や労使協定で保護されているため、企業が嫌々雇っているから」であり、言い換えれば「既得権と化している」というのもほぼほぼ一致する。

私はその話を聞いてもまだ、「たまたまスペインが日本と近いだけなのだろう」と自身の考えを変えるには至らなかった。

だが、彼の話に加えて、先の本も読んだことで、その認識は改めなければならないと思うようになった。

・国は違えど…

それ以降、私は海外の友人と職探しについて話をする時に、よくそのことを訊ねるようになった。

その結果、同じような傾向がある国はやはりスペインだけではなかった。

この記事で最後に少しだけ登場した中国人(32歳、男性)はIT業界で働いているのだが、そこでも人を雇う時はもっぱら若い人を狙っているとのこと。

30代前半の彼は将来のことがとても不安だという。

また、このブログで何度も登場している実際に会ったフランス人の男性34歳)は、「35歳を境に、結婚や就職が難しくなる」という日本の特徴をよく認識しており、日本に定住するためのタイムリミットが迫っていることに焦っていた。

ただ、彼によると、このような特定の年齢によるボーダーラインは明確でないにせよ、同じようなことはフランスにもあることは間違いないらしい。

そして、何と言っても韓国である。

絶望感が漂う韓国社会については、かつて書籍を参考にこのブログでも取り上げたことがある。

韓国といえば、激しい受験戦争が有名だが、それを勝ち抜いた先にも、今度は就職難という壁が立ち塞がっている。

その一方で、「中高年が恵まれているか?」と言われたらそうではなく、60歳という法で定められた定年まで勤めることができる人はごく一部で、50歳を迎える頃には肩叩きに遭い、そこから排出された多くの中高年は食い扶持を稼ぐために自営業を始めたり、ドライバーやごみの回収などの低賃金で行う肉体労働を行うなど、苦難の道を歩むことになるらしい。

私は数年間やり取りをしている二人の韓国人(この記事この記事に登場)にその話を聞いてみると、いずれも、「それは事実」と認め、さらに、現在はもっと悪化して、「大企業では40歳定年」とも噂されているとのことだった。

その話を聞くと、向こうの方が日本よりも遥かにひどい気がする。

・現実はどんなにつらくても…

今回のテーマのやり取りを通して、「中高年はどこの国でも自尊心を持って生きることは大変」だということが分かった。

中高年が得をする社会があっても、それは様々な規制によって守られているからで、とても彼らに社会的に認められている、つまり尊敬の眼差しを向けられているとは思えない。

肉体的な衰えが隠せない中、世間からそのような扱いを受けるつらさは想像しただけでも胸が痛む。

現実は何ともつらく厳しいものであろうか。

だが、どんなにつらくても、その現実を受け止めなければ、前には進めない。

かつて、この国では「本当に守るべきもの」を見失って、悪魔の誘惑に耳を傾けた愚か者たちを輩出した歴史があるため、どんなに「既得権!!」と言われ後ろ指を指されようと、彼らには同じ過ちを繰り返してもらいたくはない。

さて、このブログは元々ペンパルサイトを通して知り合った人とのやり取りで得た情報を公開することが目的で、当初はこの記事のように巷で耳にする「海外は日本と違って素晴らしい!!」という都市伝説の真意を現地の人に直接確かめる企画も行っていた。

今回は複数の国の人の意見を紹介したこともあり、私としては、ちょっと原点に戻った気分もした。

もっとも、「そのことで良い気持ちになれたのか?」と聞かれたら、それ疑問だが…

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