・外国の男性はレディーファーストと敬老精神に満ちている?
よく「海外旅行に行った時に、現地の男性が日本人と比べ物にならないくらい優しくて感動した!!」ということを言う女性がいる。
この種の意見に出てくる「海外の男性」とは知人ではなく、たまたま街で出会った人であることが多い。
「重い荷物を持って階段を上っていたら、見ず知らずの男性が荷物を半分持ってくれた」
「前を通った男性が、私が入るまで(手動の)ドアを開けて待っていてくれた」
「道に迷って困っていたら、笑顔で話しかけてきて、目的地まで一緒についてきてくれた」
ちなみに、「外国の男性は女性だけではなく高齢者に対しても優しい」と言う人もいる。
「エレベーターに乗る時は高齢者が全員乗るまで待って、全員が乗り切らなければ、若い人はエレベーターが戻ってくるまで待つ」
「電車やバスの中では優先席でなくても高齢者が目の前に立っている時は、すぐに席を譲る」
そんなことを言っている人は二言目にはこんな主張を展開する。
「それにひきかえ、日本の男たちはどうして気が利かない奴ばかりなのか…」
「奴らにも女性と高齢者を敬う精神を子どもの頃から叩き込まなければ!!」
これは「日本人はダメで、外国人は素晴らしい」の典型であるが、この話が本当なのかを考えてみたい。
・カナダで現地の人の優しさに触れる
これは、私が2年前にカナダのバンクーバーへ行った時の話である。
私は宿泊先のホテルを予約した際に、オンライン決済で料金を払うつもりだったが、支払いの手続きが上手くいかず、宿泊する初日に現金で支払うことになった。
というわけで、私はカナダに着いたら、ホテルへ行く前に両替所を探すことになった。
(海外旅行に行った人なら分かると思うが、空港やホテルで両替をすると手数料が高くなるので、最低限の交通費と食費を除けば、街中の両替所で両替するのが一番得になる。)
出発前にホテルの近くの両替所は調べていたが、日本にいる時と違って、なかなか目の前の光景と地図の情報とが結びつかない。
私は完全に迷子になっていた。
すると、現地の人と思われる老婆が私に声をかけてくれた。
マダム:「何を探しているの?」
早川:「この両替所を探しています」
マダム:「そこは少し遠いからバスに乗って行った方がいい。私がバス停まで一緒に行きます」
早川:「いえいえ。歩いて行くので大丈夫です。どうも、ありがとうございました」
バス停まで一緒についてきてくれるという申し出は大変うれしいのだが、私はバスには乗りたくなかった。
バスは電車と違いルートがいくつもあるので、違う行先のバスに乗ってしまったら、間違ったバスに乗っていることになかなか気づけないので、極力、私は外国ではバスには乗らないように決めている。
しかし、彼女は「そんな心配はご無用」とばかりに私の腕を引っ張り、バス停へ向かった。
バス停に着くと、タイミングよく目的地の方へ向かうバスが停まっていた。
老婆は運転手に私の行先を伝えてくれた。
運転手は髭面で丸太のような太い腕に入れ墨をしている怖そうな男性だったが、「目的地に着いたら教えるから、俺のすぐ後ろの優先席に座れ」と私に言った。
バスが動き出すと私は重大なことに気づいた。
バンクーバーでバスに乗る時は料金を現金で払うのではなく、カードを事前に購入しなければならなかったのだが、私は乗車前にカードを買っていなかった。
どうしよう・・・
目的地の近くで信号待ちになった。
すると運転手は「ここで降りた方が近い」と言って、私をバス停ではないところで降ろしてくれた。
私はお礼を言って、現金でバス代を払おうとしたが、彼は「いいから」と言って料金を受け取らなかった。
バスを降りた私は一瞬、自分の身に起こったことが夢か現実か分からなくなった。
こんなことがあるのか!?
日本では考えられない!!
・カナダ人が女性でも高齢者でもない私に親切だった理由
このような経験があるので、海外旅行へ行った人が、現地の人の優しさに触れて
「どこどこの国の男性は日本のどんくさい男たちと違ってレディーファーストができるから素敵~♡」
「どこどこの国の男性は日本人と違って、高齢者を敬うジェントルマンばかりだ~♪」
と有頂天になる気持ちも分かる。
だが、ここで疑問が生まれる。
なぜ、カナダの人は「女性」でもなければ「高齢者」でもない私に対して、あそこまで親切にしてくれたのか?
これは「レディーファースト」でも「敬老精神」でも説明できない。
私は帰国した後にInterPalsで知り合ったカナダ人男性にこの体験を話してみた。
彼の意見がこちら
たしかにカナダでは、男性が重たい荷物を運ぶ女性を手伝ったり、電車の中で高齢者に席を譲ったりします。
でも、それは「『女性だから』、『高齢者だから』という理由から無条件に敬うべきで、男性は常に彼らを支える側なのだ!!」というものではありません。
単に困っている人を助けようとしているだけなのです。女性や高齢者は若い男性に比べて圧倒的に力が劣るので、体力面で彼(彼女)らを助ける若い男性の役目なのかもしれません。
ですが、女性や高齢者も一方的に助けられているわけではなく、自分たちにできることがあれば、困っている人を助ける側になります。
実際に年配の女性が道に迷っていたあなたを助けましたよね?
それだけのことだと思います。
なるほど。これは納得できる答えだ。
一口に「外国」と言っても様々な国があるが、少なくともカナダで、女性や高齢者が見知らぬ男性から優しくされるのは、あくまでも助け合いの精神に基づくものに過ぎない。
カナダの女性や高齢者は体力面で劣る時には男性の力を借りることがあるが、別の局面では誰かを助ける側になる。
それは極東の某国の人たちのように「『女だから』、『高齢者だから』無条件に優遇されるべきだ!!」と言っている思い上がった人たちとはまるで違う。
ちなみに、彼に聞いてみたところ、「自分は「女性だから」、「高齢者だから」という理由で常に誰か(男)から守られるべきだ!!」という態度はカナダでもマナー違反に当たるらしい。
これは私の解釈だが、(この記事で書いたことと同じように)あくまでも、困った人を助けようとする人間だけが、他人に助けてもらえるのだと思う。
つまり、海外の人の優しさを見習うべき日本人はどんくさい男たちではなく、自分は無条件に優遇されるのが当然だと思っている(あくまで「一部の」だが)女性や高齢者の方ではないだろうか?
・結論
・海外(少なくともカナダ)では、女性や高齢者が親切にされることがある。
・ただし、それは「女性だから」とか「高齢者だから」という理由で敬われているのではなく、「困っている人の力になろう」という真っ当な理由から。
・だから、女性や高齢者も助けられる側だけでなく、助ける側にもなる。
・「女性だから」、「高齢者だから」という理由で「自分は無条件に優しくされるべきだ!!」という態度は海外でも顰蹙を買う。
・人に親切にしてもらいたければ、自分も親切な人間になること。
・海外の人の優しさを見習うべき日本人はどんくさい男たちではない。
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