「あの国は日本よりも凄い!」という話は本当なのか?②(アメリカ都市伝説編)

今日は前回に続き、外国に対するイメージが本当なのかを当事者に聞いた話である。

・日本に溢れるアメリカの都市伝説

みなさんは「メラビアンの法則」というものを聞いたことがあるだろうか?

これはアメリカ人の心理学者アルバート・メラビアンが発見した法則で、話し手が相手に与える印象は

見た目、しぐさ:55

声の質、トーン:38

内容:7

という法則である。

このように人は他人を判断する時には、話の内容よりも見た目や声の質に重きを置く。

その比率は見た目や声の質のような非言語情報が93%を占める。

営業や就職活動のセミナーでマナー講師はよくこの法則を説明する。

学校では人は見た目より中身が大事だと教わるが、結局は「人は見た目が9割」なのである。

ということになっているが、実のところ、メラビアン博士本人はそんなことは言っていない。

これは言葉では褒めているものの、冷たい態度で接している時に人はどちらに重きを置くかというような実験に過ぎず、メラビアン博士はこの実験結果を日常のコミュニケーションに応用できないことを認めている。

というよりも、あたかも自分がそう言ったかのように扱われて大迷惑している。

しかも、なぜかこの法則が間違った形でこんなに知れ渡っているのは日本だけらしい。

つまり、「メラビアンの法則というものがあって、人は見た目が9割~」というのは日本でのみ流行している都市伝説である。

日本にはこのような「アメリカでは~」と言って、自分の主張を裏付けるもっともらしいエピソードを語る人がいる。

その話を聞かされた我々は「へえ、アメリカ人とはそのような人たちなんだ」と(この話が本当か否か関わらずに)アメリカ人に対するイメージを植え付けられてしまう。

今日はこの手のアメリカ都市伝説を実際のアメリカ人に聞いてみた時の話をする。

今日のテーマは

アメリカ人は本当にバカでデリカシーがないのか?

(テーマがタイトルと矛盾している気がするが、「『アメリカにはこのような人がいるため、そんな社会で生きていくことがいかに大変であるか』というイメージは本当なのか?」を検証するものだと考えてもらいたい)

・何でも温められる電子レンジ

最初のエピソードはこちら。

アメリカの田舎町に一人のお婆さんが暮らしていました。

ある雨の日、お婆さんが飼っている猫が雨でずぶ濡れになり帰ってきました。

このままでは風邪をひいてしまうと思ったお婆さんはすぐに猫を暖めようとしました。

最初はタオルで拭いていたのですが、突然、あることを思い出しました。

お婆さんは最近、電子レンジを買いました。

そのパッケージには「何でもすぐに温められる」と書いてありました。

お婆さんはそのレンジで猫を温めようと思いました。

幸い、その電子レンジには「生き物を温めないでください」とは書いていませんでした。

だから、お婆さんは猫を電子レンジで温めることにしました。

しかし、突然、電子レンジが爆発して、その猫は死んでしまいました。

お婆さんは悲しみ、怒り狂いました。

そして、電子レンジを製造したメーカーに対して、「私が猫をレンジで温めてしまったのは、あんたたちがキチンと『生き物を温めないでください。』と書かなかったせいだ!!」と言って、訴訟を起こしました。

「こんなことが起こるから、企業は常に自社の製品に関する説明責任が厳しく問われる。それに引き換えに日本は…」

という話なのだが、多くの日本人にとって関心があるのはそんなことではなく、

「アメリカ人はレンジで猫を温めたらどうなるかも想像できないほどバカなのか?」

ということであろう。

その上、逆切れ甚だしく「生き物を温めないでください」と書かなかったメーカーを訴えるなど、訴訟大国のアメリカらしいが、非常識にもほどがある。

2人のアメリカ人にこのエピソードは実在するのか聞いてみた。

・1人目

アメリカ人男性A:

は!?

そんな話は聞いたことありません。

あなたはどこでそんな話を聞いたのですか?

あなたは本気でその話を信じているのですか?

・2人目

アメリカ人女性B:

あなたはアメリカ人を侮辱しているのですか?

そんなことするアメリカ人はいません。

アメリカ人はあなたたちが思うよりもはるかに常識的な人たちです。

案の定、怒っています。

このエピソードは日本でのみ通用するアメリカンジョークだが、当のアメリカ人にこの話をすると侮辱されたと感じるようである。

結論

・アメリカ人が濡れた猫を「何でも温められる」電子レンジで温めて、その後、メーカーを訴えたという話は都市伝説。

・アメリカ人は日本人が思う以上に常識がある人たちである。(あくまで本人の認識)

・アメリカ人にこの話をすると怒る。

・教育ママとバスドライバー

アメリカンドリームという有名な言葉がある。

アメリカでは貧しい家の出身者だろうが、外国出身者だろうが、成功するチャンスがあちこちに転がっている。

などと言われていたのは昔の話。

今のアメリカでは大卒の資格がなければ満足な仕事に就くことができない。

しかも、ただ卒業すればいいのではなく、卒業した後も在学時の成績が重要視されるらしい。

その上、輝かしい学歴さえあれば安定した仕事に就けるのかと言えば、そうでもなく、実際は学歴+かなりのコネが必要な社会だったりする。

「アメリカンドリームなんて嘘っぱちだ!!」という批判はひとまず置いておくが、勉強することは大切である

さもなければ、まともに暮らすことができないから。

このようにアメリカがいかに厳しい社会であるかを説明するエピソードがある。

アメリカ人の子どもが学校に通うためにスクールバスに乗ろうとしています。お見送りに来たお母さんが子どもに別れの挨拶をしました。

ママ:「今日も学校で一生懸命勉強しなさい。さもないと、将来はバスの運転手さんのようになってしまうわよ。そうなったらあなたの人生はおしまいよ。バスの運転手なんかにならないように、いっぱい勉強していい大学を卒業して、一流企業に入りなさい」

息子:「うん。わかったよ、ママ。一生懸命勉強して、将来は絶対にバスの運転手になんてならいよ」(当然、バスドライバーは一部始終を聞いている。)

※ちなみに、バスドライバーがマクドナルドの店員に変わっているバージョンもある。

このエピソードを語る人は得意げな顔で説明する。

アメリカでは学歴が大変重要であり、大学に行くチャンスは誰にでも与えられる。

だから、その機会を放棄して勉強しなかった人が屈辱を味わうのは当然で、このように侮辱されても文句は言えない。

悔しかったら大学に行けばいいだけだから。

この親子をデリカシーがないと非難するのは簡単だが、これが真の実力社会アメリカなのだ。

それにひきかえ、大学に行かなかった、もしくは大学で遊んでいただけのクセに態度だけ一人前で「ブラック企業なんかでは働きたくない!!」と言っている日本の若者はなんて甘ったれていることか。

「うちの子は、どうやったら真面目に勉強するだろうか・・・」

これは日米共通の親の悩みだろうから、日本の親もアメリカ人の親を見習って、このように振舞ってみてはどうだろうか。

…と言う前に、この話が本当かどうかをアメリカ人に聞いて確かめてみよう。

・1人目

アメリカ人男性C:

アメリカの企業は学歴を重視されます。それは本当です。

それから、「子どもに勉強しなさい」と言う親はたくさんいると思います。

でも、本人の前で「こんな人みたいになったらダメよ!!」と言うような人はいないと思いますよ(笑)。

たしかに、スクールバスの運転手は給料の低い仕事ですが、私が子どもの頃は親や先生から「スクールバスの運転手の言うことは絶対に聞かなければならない」と言われていたので、親が子どもの前で彼らを侮辱するとは思えません。

・2人目

アメリカ人男性D:

そんなこと言うわけないでしょう!?

子どもが勉強して大学に進むことは大事ですが、それは将来に就ける仕事の選択肢を増やすために言っているのであって、人を見下すために大学で勉強するわけではありません。

それに、スクールバスの運転手は毎日、子どもの安全を守ってくれています。

そんな人たちを子どもの前で侮辱する人は親になる資格がないですよ。

あれ? 話が違いますが・・・

私は婆さんとレンジと猫の話は嘘くさいと思っていたが、恥ずかしながら、このエピソードは本当にあると思っていた。

アメリカ人は熾烈な競争者社会を生きているというイメージがあったけど、意外と低賃金労働者に対して理解があるようだ。

やはり、この話も作り話である可能性が高い。

1人目はこのエピソードを笑いながら否定してくれたが、2人目は例によって怒っていた。

このようなエピソードを当事者に聞いてみる時は相手の気持ちを考えて、慎重に切り出さなければいけない。

結論

・アメリカでは学歴が重要というのは本当。

・しかし、親が本人の前で「将来はこの人のようにならないように一生懸命勉強しなさいと」と子どもに言い聞かせることはアメリカでも非常識とされる。

・アメリカのスクールバスの運転手は低賃金だが尊敬される。

・アメリカ人にも低賃金労働者に対する理解とデリカシーはそれなりにある。

・勉強しない子どもよりも、他人の職業を侮辱する親と、デマを広める人たち、それからメラビアン博士を愚弄するマナー講師たちを学校に通わせて教育しよう。

次回へ続く

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