会議中にメールを送ってくるアメリカ人

前回の記事のテーマは仕事中に私用のスマホを扱うことだった。

最近は従業員を疑う企業の劣化具合が凄まじいため、それもやむを得ないと感じているが、以前は職場で、それも勤務時間中に個人のスマホを扱うことなど(トイレの個室に長時間隠れてコソコソと使うよりマシとはいえ)言語道断だと思っていた。

しかし、実は以前、相手が仕事中であるにもかかわらず、メールが送られてきたことがあった。

しかも、緊急連絡などではなく、本当にどうでもいい会話だったのである。

・そういう意味じゃない!

あれは5年前の2018年のこと。

当時の私はInterPalsで知り合った30代のアメリカ人男性と月1回程度のやり取りをしていた。

やり取りの内容は、お互いの国の生活や休日の過ごし方のような世間話である。

ある日の夜10時頃。

私は彼から送られてきたLINEに返信すると、彼もすぐに返信してきた。

彼はニューヨーク在住で、時差を計算すると、向こうは朝の9時頃になる。

彼は週末が休みと言っており、その日は平日だったので、まだ仕事前なのだろうか?

そう考えた私は彼に状況を訊ねてみた。

すると、彼は「今は仕事の会議中」だと言った。

え!?

まさか、仕事の邪魔をしてしまったのだろうか…?

そう思った私は彼に詫びを入れた。

しかし、彼は「Don’t worry(心配しないで)」と言う。

とは言うものの、それは気を遣ったというか、社交辞令のようなものだろうから、私は「また後で連絡する」と伝える。

それでも彼は「今でも大丈夫」と言った。

「いや、会議中なのに私用でLINEのやり取りなんて出来るの?」

すると彼はこう答えた。

アメリカ人男性:「会議室でもネット回線には繋がっている。だから、こうしてメールを送っているんじゃないか?」

そういう意味じゃねえよ!!

そうツッコミを入れたくなったが、ここは冷静に話をすることにした。

早川:「今はビジネスの場で会議をしているのだから、スマホを使ってプライベートの連絡をすることは控えた方がいいのでは?」

アメリカ人男性:「今使っているのは会社のスマホではなく、自分の物だから、プライベートのLINEを送っても大丈夫さ👍」

そういう意味でもねえよ!!

彼のスタンスがアメリカ人にとっての日常なのかは定かではないが、ここまで一貫していると清々しいものである。

・信念がない人間が幅を利かせるのは日米共通

会議中に堂々と私用のLINEを楽しむ彼の様子を聞くと「そんないい加減な気持ちで会議をするくらいだから、どうせ大した企業には勤めていないんだろう?」と思った人もいたかもしれない。

しかし、彼の勤め先は100年以上の歴史を持つ世界でも有名な金融会社で、日本でもその名前を聞いたことがある人は少なくないと思われる。

彼自身もその会社で働いていることを誇っており、最初のメールでそのことを告げた。

もっとも、その会社は第一次世界大戦中にイギリスやフランスに戦費として多額の資金を投資し、連合国が敗戦すると投資の元が取れなくなるため、アメリカ政府に参戦を促し、終戦後は敗戦国に賠償金は求めないウィルソン大統領を無視し、ドイツに多額の賠償金を求めた過去がある。

その結果、ドイツ国民は憤慨、さらにその中の一人が政治団体を組織し、後にさらなる世界大戦を引き起こすきっかけとなったのだから、私はその会社に良い印象を持っていなかった。

まあ、そのことは本人に告げなかったけど…

さて、そんな彼と知り合ったのは、前段のやり取りをした2年前の2016年だった。

最初にメッセージを送ってきたのは彼で、内容は簡単な自己紹介。

彼が私にメッセージを送った理由は、詳しく聞かなかったので分からない。

彼とのやり取りは日常のたわいないものだった。

たとえば、彼と知り合ってすぐに、事前の予想に反しアメリカ大統領選挙でトランプが勝利したのだが、そのことについて話を聞いてみた。

トランプ現象は、ひと昔前であれば安定した生活を送ることが出来たであろう人たちが、その安定を脅かすグローバル化に反対する目的で投票したのだろう、というのが彼の見立て。(そんな人たちについては過去にこの記事でも取り上げたことがある)

その理屈は分かりやすいのだが、そんな人たちだって、移民や海外の安い労働力のおかげで提供される格安の商品(サービス)を手に入れている。

彼らはそのようなグローバル化の恩恵を放棄することも覚悟して、反グローバル化を唱えているんだろうか?

そのことについて訊ねると、「彼らにそんなことを考える知性も信念もない」と一蹴された。(笑)

ちなみに、日本では「反移民・反グローバル化」という主張はあまり聞かないが、「反規制緩和」という声は度々耳にする。

曰く、「昔の日本は市場原理主義社会ではなく、国が産業や労働者を適切に保護していたから、誰もが安定した生活を送ることが出来たのに、アメリカ型の競争社会や男女平等、小泉改革のせいでそのような安定が破壊された!!」という理屈である。

彼らはそのような行き過ぎた自由を是正することによって、かつての安定した社会を取り戻すと主張している。

しかし、そんなご立派な思想をお持ちの方も、規制緩和によって全国各地に展開した大型ショッピングセンターや、某外資系物流会社が提供するネット通販で堂々と買い物をしている。

日本にもこういうバカがいることを彼に伝えると、「自分は『反グローバル戦士』と思い込んでトランプを支持している人はまさにそんな感じ」と賛同してくれた。

威勢がいいことを言いつつ、何の信念を持たないバカが幅を利かせるのは、残念ながら日米共通のようである。

彼とはおよそ3年に渡りこのような話をしたが、最後に連絡をしたのはコロナ前で、もう4年ほど連絡を取っていない。

彼は84年生まれだから、もうすぐ40歳になる。

今頃は一体何をしているのだろうか?

前回の記事を書いたことで、そんなことが気になっている。

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