前回、私は日本で働きたいと思っている外国人に日本に来ることをあまり勧めないという記事を書いた。
そして、前々回は語学留学を隠れ蓑にした就労目的の「偽装留学生」を紹介した。
このような手段で来日しようとする人には、なるべく考え直すように促すが、すでに来日してしまった人もいる。
今回はそんな人の話をする。
・三度目の来日
彼はフランスの出身で年齢は29歳。
彼が日本にやってくるのは今回が三度目。
最初に来日したのは4年前で、その時はワーキングホリデービザで東京に一年間滞在。
その後、フランスへ戻り、一年間働いて、資金を貯めた後、再び来日し半年間、語学学校に通う。
ちなみ私はその時に一度、彼と会ったことがある。(その時の記事はこちら)
それが2年前のこと。
そして、もう一度、資金を貯めるためにフランスへ帰り、去年から大阪の語学学校に通っている。
彼は自分のプロフィール写真に、サッカー日本代表のユニフォームを着た写真や日本のアニメキャラクターの写真を使うほどの日本好きである。
これまで、子どもの頃の家族旅行を除けば、日本以外の国へ旅行に行ったことはないようで、日本以外の国には全く興味がないらしい。
彼と私は2年近く連絡を取り合っており、たまたま彼が私の住んでいる地方に旅行へ来た時に会ったこともある。
しかし、私には気掛かりなことがあった。
彼はこれまで一年以上、日本に滞在しているにもかかわらず日本語が全く話せない。
だから今まで、フランス語の教師を除いて、アルバイトに就くことも出来ていない。
そのため、滞在費が尽きたら帰国し、フランスで資金を貯めて、再来日ということを繰り返している。
・日本でやりたいこと
そもそも、彼がこうして日本へ何度もやって来る一番の理由はフランスでの生活が嫌いだったからだと言う。
一度、彼に将来の夢や目標を聞いてみた。彼の夢とは
「日本人と結婚して、日本に住み続けること」
である。
なんじゃそりゃ?
と思うだろうが、私が彼に「日本の何が一番好きか?」と尋ねたら「日本人の女性」だと答えた。
「フランスにも素晴らしい女性はいるでしょう?」と聞いてみたところ
という答えが返ってきた。(注:個人の感想です。)
実際には、日本人にもそういう人はいて、フランス人にも素晴らしい女性はいるだろうから一概にこういうことは言えないと思うが、彼はこのように思っていた。
なるほど、彼の留学目的は就労ではなく婚活だったのか。
「語学学校に通っているにも関わらず、日本語が全く身につかないのは、アルバイトに時間を取られて、勉強する時間が足りないからだ」というのは典型的な偽装留学生の姿だが、彼が勉強時間を削ってでも熱心に取り組んでいるのはアルバイトではなく、結婚相手を探すことであった。
女性の好みに限らず、彼はフランスではとにかく生きづらさを抱えていたと言う。
仕事とか休日の過ごし方とか。
この不満から逃れたくて日本に来たと言うが、女性以外の具体的な不満については一切、教えてくれなかった。
ちなみに、外国人から生活の不満を聞くことは結構面白かったりする。
たとえば、南アフリカの人は実年齢よりも若く見られたことをひどく不満に感じていたり、日本で留学経験があるマレーシア人の女性は、「日本では髪を切る度に、何で大学やバイト先で、恋人でもない人から「君、髪切ったでしょう?」と声を掛けられるんだ!?」と憤慨していた。
そのような不満であれば「外国の人ってそんなことに怒るんだあ」という面白い発見がある。
・ためになる不満と迷惑な不満
私は自国での生活が不満だから、海外に行きたいという選択も全然構わないと思う。
実際に働いてみることで、自国との違いを感じることが出来るし、その結果、自国の良さに気づくこともあるだろう。
しかし、これはある程度、自分は自国の何が不満で、外国の何を学びたいというようなしっかりとした考えを持っていての話だと思う。
自国の生活に不満を抱えていて、外国にやって来ても、学ぼうという意欲がない人の希望を100%受け入れてくれる国は存在しない。
そもそも、信念のない不満は一つ解決しても、新しい不満が次から次へと生まれてくる。
不本意ながら非正規雇用で働く人が、「自分が正社員になれないのは企業の新卒一括採用が悪い!!求職者の年齢と性別だけで判断するステレオタイプの経営者が悪い!!」と憤慨していたものの、正社員と働く立場になったら、「派遣やフリーターは仕事に責任感がない!!親と同居して、こんな楽な仕事しかしない奴は正社員よりも高い税金を払え!!」などと言い出すことがある。
こういう人間は自分の立場が変われば、相手の良い所だけを見て、妬み、羨み、自分の不満を人のせいにすることでしか生きていけない。
そうならないためにも、彼が「フランスの生活の何が不満なのか?」というしっかりとした考えを持っていたら、その不満を日本に来て体験する生活と比べることで、一歩前へ進むための新しい考えを見つけられるかもしれない。
少なくとも、日本在住の日本人である私と、そのことについて議論することができる。
だが、彼は漠然と「自分はフランスの生活が嫌いだから、日本に住みたい!!」と言うばかりだ。
彼が、本当に何も考えることなく、ただ現実逃避のために日本へ来たのか、それとも、しっかりとした考えを持っているものの、その不満を口にしたら、周囲から「甘ったれるな!!」と叱責された経験から、口にすることを避けているのかはわからない。
彼の今回の来日期間はそろそろ半年に達している。
来日後、アルバイトは一切していないため、残り二、三ヶ月で資金が尽きると言う。
私は彼に帰国を考えるように説得している。
幸い、彼は途上国出身の留学生のように多額の借金があるわけではない。
というよりも、
いくら日本が好きだと言っても、ここは天国ではない。
それに、日本の女性がフランスの女性よりも魅力的だとしても、子どもを愛する母親のように、無条件に愛して、すべてを受け入れてくれるわけではない。
その上、経済的にも上手くいっておらず、生計を立てることが出来ていない。
「これ以上ここにいて何になる?」
というのが私の言い分。
しかし、彼はどうしても帰りたくないらしい。
仮に資金が尽きてフランスに帰ったところで、また資金を貯めて日本に来るつもりだと言う。
私は当然、彼に「そろそろ、フランスに帰って定職につくつもりはないの?」と説得している。
それでも、彼の頭の中には日本で生活すること以外の選択肢はないらしい。
なんだか、家庭に問題があって家出を繰り返す高校生と、偉そうに説教をするものの家に戻る以外の選択肢を提示できず「分かってくれない」と言われる大人のような関係になってきた。
自国での生活に不満があるのは仕方ないにせよ、日本語が話せず、アルバイトも出来ない彼がそこまで、日本にこだわる理由は何なのだろうか?
少なくとも私には、この国が彼に受け入れてくれる優しさがあるとは思えない。