「混雑時にリュックを背負うのは前後どちらか?」という議論が不毛だと感じる理由

数日前のことだが、YouTubeを見ていると、気になるタイトルの動画を見つけた。

『マナー講師「前リュックはマナー違反です。」』

これを発見した時は正直驚いた。

・マナー講師の怠慢

マナー講師とは本来、学生や新社会人向けに社会人としてのマナーを教える職業として、他人から尊敬されることも多かったはずだ。

ところが、近年、ネット上で「マナー講師」が炎上するケースが増えている。

ビジネスマナーや冠婚葬祭の所作、果てはお辞儀の角度や名刺の受け渡しまで細かく口出しし、「これはNG」、「これが正解」と断言する。

しかも、それが歴史的な資料を参照して述べられているものであれば、まだ「時代錯誤」だとか、「現代の価値観とズレている」という面倒くさい人扱いで済むのかもしれないが、大半は何の根拠もないその場限りの勢いや思い付きだったりするのだ。

それはれっきとした詐欺ではないか?

その上、他人にマナーを強要しながら、当の本人は下品で攻撃的な口調丸出しなのが、何とも皮肉である。

SNS上では

「そんなマナー、聞いたこともない」

「また新しいルールが爆誕した」

などと嘲笑が飛び交い、「失敬クリエイター」という不名誉な呼び名をつけられることもある。

目の前のお金や名声といった短期的な利益に目が眩み、相手への思いやりというマナー本来の目的を見失っているように見えるからこそ、彼らへの違和感や反発が広がるのも自然の成生と言えよう。

ここまでは、多くの人にとっての共通前提だと思う。

しかし、私が彼らに対して不信感を持つ理由は他にもある。

それは、「彼らはビジネスや食事の場において『独自ルール』を作り出し、それをしつこく押し付けることに熱心である一方で、なぜ日常で頻繁に目にする身近なマナー違反、特に公共交通機関における行為については問題視しないのか?」という点である。

前回の記事でも取り上げた通り、電車内にはユニークなあだ名で比喩されるマナー違反が溢れている。

  • ドアの前に立ち塞がって乗り降りの邪魔をする。

  • 降車が完了していないのに、流れに逆らって強引に乗車する。

  • 満員でこれ以上入りきらないのに、他人を押し込んででも無理やり乗り込む。

  • 他人に接触しそうな場面でも沈黙を決め込み、ぶつかっても謝罪しない。

  • 電車が揺れているのに、頑なに吊革を握らない。

  • スマホに夢中で下車駅についても気付かず、乗車のタイミングで慌てて飛び出す。

これらは明らかに「他者への配慮に欠ける行動」であり、まさにマナーの問題である。

このような大バカ者たちこそ、マナー講師が厳しく躾けないといけないはずである。

その他にも、「立っている時は周囲の人へ目配りや気配りを怠らないようスマホをいじったり、イヤホンを付けない」とか「下車する時は、(混雑時を除き)立っている人が座りやすいように、到着前から余裕を持って席を立つ」などマナー講師が使えそうなネタがたくさん転がっている。

にもかかわらず、彼らがこれらに言及するシーンなど見たことがない。

おそらく、ビジネスや食事と違って、「社会人にふさわしい電車内のマナー研修」など行う会社や大学などほとんどなく、これらのマナー講座を開催したところで、ほとんど需要がないからだろう。

普段は鬼のような形相でしつこくマナー違反を咎めながら、結局自分は金かよ。

このように冷ややかな目で呆れていた。

そんな彼らが、遂に電車内でのマナーに言及するようになったとは…

彼らも成長に感動した。

・フェイク動画の幻想から覚める

と思っていたが、そうは問屋が卸さなかった。

冒頭の動画を見たが、テーマとなっている「前リュック」について言及しているのは、あくまでも鉄道会社のポスターであり、マナー講師は一切登場していない。

「もしかしたら、動画のまとめの際にうっかり入れ忘れたのか?」と思って、同趣旨のタイトルの動画も探したところ、キャプチャーに「講師『前リュックはマナー違反です。』」と書かれている動画が見つかった。

だが、内容は「ここにきてマナー講師のある発言が波紋を呼んでいます。」という切り口から、著名なマナー講師がもっともらしい発言をしたかのようなことが述べられているが、その人物の名前も、引用先も一切触れらていない。

一応、ネットでも検索してみたが、マナー講師が電車内の前リュックについて何らかの発言をしたという記事は一切見つからなかった。

つまり、「また、マナー講師が独自ルールを捏造してイチャモン付けている」という印象を利用したフェイク動画なのである。

私の感動は完全な幻想だった。

こんな悪質な動画を作ったり、本当にマナー講師がそんなことを言っているかのようなコメントを書いている愚か者たちが、

「オールドメディアがー!!」

「マスゴミの印象操作がー!!」

などと喚いているのだろう。

まあ、たしかにタイトルも「電車内で」と書いていたわけではないのに、勝手に「電車内のマナーを言っている」と脳内変換してしまった私も人のことは言えないのだが…

というわけで、結局マナー講師が信頼回復をするのはまだまだ遠い道のりのようである。

・背負う位置の問題ではない

さて、マナー講師は当てにできないものの、今回の記事のもう一つのテーマになっている(厳密に言えば「なり損ねた」)「電車内でリュックを背負うのは前か後か論争」についても個人的な意見を述べさせてもらいたい。

もちろん、ラッシュ時でなければ前だろうが後ろだろうが自由にして良いと思う。

問題の混雑時だが…

そもそも、リュックを使うこと自体止めた方が良い。

いや、ボケとかじゃなくて、真面目な話。

こちらの記事を読むと両者の言い分が載っている。

電車内で「前リュック」はマナー違反なのか、鉄道会社も配慮する“リュックは前に抱えるな派”の言い分 | from AERAdot. | ダイヤモンド・オンライン

【後ろに背負っていたら】

  • 背後の通路をふさぐ。

  • 他の利用者にぶつかるなどしても気づきにくい。

【前に背負っていたら】

  • 前に抱えてスマホを使うと肘張って邪魔。

  • 背後には気遣うくせに目の前の人間にはぶつかり倒す。

これらの意見はどちらも間違っていない。

前後に関係なく、もはや混雑時にリュックを背負うこと自体が、旅行用の大型ケースやベビーカーと同じく、少なくない人に反感を買うように思われる。

鉄道会社が呼びかけるように、「手に持ってば良いのか?」と言われても、リュックはそもそも手で持つように設計されていないため重いし、混雑時に足元にリュックがあっても気付かずに躓いたり、結局スペースを取るのだから、上辺は空いているにもかかわらず使えないことで余計に苛立ちが募る。

それでは最後の切り札である「網棚の上に置く」という選択だが、個人的にはこれが爆弾となる可能性がある。

背負うのが前にせよ、後ろにせよ、網棚に置く時は身体からリュックを降ろす必要があるのだが、その際に遠心力に引っ張られているのか、最初から配慮する気がないのか、リュックを振り回すように周囲の人にぶつける者が少なくない。

そして、お決まりのように謝らない。

それから、ショルダーストラップ(肩のベルト)を締めた時の伸びしろが、座っている人の顔に直撃することもある。

実際に私もそれをお見舞いされたことがあるし、隣に座っていた人が被害に遭い、降りる際に(多分わざと)足を踏んで報復に出る場面に遭遇したこともある。

被害者にとっては迷惑で災難であることは言うまでもないが、これはリュックを振り回すこと以上に加害者が無自覚で、当然謝罪することはないため、気付かないところで恨みを買ってしまう。

ここまで来ると、電車の中でリュックを背負うことはリスクとデメリットしかないように思える。

ビジネスバッグやショルダーバッグを使う方が、周囲の邪魔にならないだけでなく、混雑をすり抜ける時にスムーズな動きが出来て、咄嗟の時に突き出せば、歩きスマホで突進して来るバカから身を守ったり、改札やエスカレーター、乗車位置に割り込む不届き者を抑止することにも役立つ。

地方の事情は詳しく知らないが、割り込み、押し退け、突進などが暴力行為が常習化している東京の通勤ラッシュではそれくらいの自衛手段を用いなければ、悪人共の格好の餌食となってしまう。

リュックを使用することの、唯一のメリットは両手が空くことくらいしか見当たらない。

そうすれば、片手で手すりや吊革を握りながら、スマホを扱うことができる。

もっとも、前だろうが、後ろだろうが、混雑する電車でリュックを背負いながらスマホを触ろうとする発想自体がマナー違反であり、そのことに気付かない傲慢さには呆れかえる。

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