大学全入論者はいつになったら過ちを認めるのか?

前回の記事で「大学全入論者」という言葉が登場した。

高校を卒業する若者全員が大学へ進学して、ホワイトカラーの知的労働に従事して高い給料を得られる職に就くことが理想の社会だと考えている人たちのことである。

「そのお金はどこから出るの?」と問われたら、

「政治や家計のことは難しいから分かんなーい」

「他所の国はどこも大学は無償で、誰もが自由に通えるよ(ウソ)」

と逃げ、肉体労働の現場職で一生懸命働く人の気持ちや社会的な意義、経済的に恵まれない家庭の家計を一切考えない単細胞ぶり。

こんな阿呆が大学を出ているのだとしたら、そのこと自体が高等教育の敗北と、大学全入論の失敗の表れだと言える。

全くの偶然だが、記事の投稿後にネットでそれに関するものを目撃した。

・奨学金が返せない…

その記事はこちら。

月1万5,000円に苦しめられ…東京に憧れた〈手取り月16万円〉23歳女性の悪夢「こんなはずじゃなかった」【FPが解説】|資産形成ゴールドオンライン (gentosha-go.com)

内容をまとめると、

  • 東京で手取り月16万で働く23歳の女性が毎月15,000円の奨学金の返済に苦しむ。

  • 彼女は関東西北部の出身で、中学生の頃から東京への憧れが強く、東京の大学へ進みたかったが、実家の家計が厳しかったため、奨学金を借りて地元の私立大学へ進み、実家から通った。

  • 高校卒業後に東京へ出て働こうとも考えたが、祖父母や両親から「大学くらい出ておいたほうがいい」と説得され、特に目標もなく入れる大学に入った。

  • 大学卒業後は、家族の反対を押し切って東京のアパレル企業に就職して、都内にワンルームマンションを借りたが、給料は手取り16万で、家賃も8万円を超えため、月15,000円の返済に苦しめられる。

  • 周りの人と同じようにおしゃれにもお金をかけたいが、思い描いていたような生活が送れない。

  • その後は都会での生活に疲れてしまい、母親の勧めで仕事を辞めて実家に戻る。

  • 父親には「いきがって出ていったくせに15,000円程度の返済もできないのか」と怒られたが、自分の収入に見合った生活を考えると、実家に戻ったほうがベストだと判断した。

  • 再就職先での給料は若干減ったが、生活に余裕ができ、今考えると、何百万円もかけて大学に行ったことは時間とお金の無駄使いで、将来のことを考えて、もっとちゃんと勉強しておけばよかったと反省している。

記事の中にも頻繁に「奨学金返済に苦しむ若者」とか「都会は物価が高い」というようなフレーズが登場していることから分かるように、典型的な「近頃の若者は貧困で大変」という話だが、それを社会のせいにするのはよろしくない。

わたくし、上京後はずっと非正規の仕事で一人暮らしを営んでおりますが、就業期間中はコンスタントに毎月10万は貯金して、「お金がなくて生活が苦しい…」と感じたことなど一度もないのですが…(まあ、自己都合で退職することも多く、年単位で見たら、あまり貯金額は増えないけど…)

大学を出て、正社員で働いて、それ以下の生活しか送れないって一体何よ!?

・本人を上回る親の問題

どのような生活を送ったら、毎月15,000円程度の奨学金も返済できない程の堕落した人生に陥るのかは大いに興味がある。

ただ、巷に溢れている自業自得な奨学金転落人生物語と比べると、彼女はまだ擁護できる点は少なくないと思う。

手取り16万円の給料であるにもかかわらず、家賃8万円の部屋に住んだり、SNSでキラキラした生活を自慢する下品で自己顕示欲の塊の汚物と自分を比較して、勝手に満たされない気持ちになっている点は同情の余地はないにせよ、たとえば…

  • 「東京の大学へ通いたかった」と言うが、実家の経済状況を考慮して、実家に住み続けて、地元の大学へ進学した。

  • 上京が第一目標だったため、高校卒業後は進学せずに、東京へ出て働こうと考えていた。

  • 大学進学は、両親や祖父母に唆された上に、彼らは学費の負担をしなかった。

といった点を考慮すると、「自業自得」や「自己責任」と言って、気安く切り捨てることは出来ない。

・・・というよりも、大学進学の意志がない娘に借金までさせて無理やり進学させた上に、生活が破綻して実家に戻ってきたら、「いきがって出ていったくせに15,000円程度の返済もできないのか!!」と責め立てる父親のツラの皮の厚さは大概だと思う。

見ていて清々しい程の無責任さである。

彼女は実家に戻り、身の丈に合った暮らしを送ることで、生活も安定したようだから、甘さや過ちを受け止めて、今後の人生は真っ当に生きてもらいたい。

その後はきちんと奨学金の返済をしているかについては、一切触れられていないことが気になるが…

・あんたはまるで…

さて、先程の記事は元々「資産形成ゴールドオンライン」というサイトに投稿された記事であるが、同じものが「Yahoo!ニュース」でも見られる。

月1万5,000円に苦しめられ…東京に憧れた〈手取り月16万円〉23歳女性の悪夢「こんなはずじゃなかった」【FPが解説】(THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン)) – Yahoo!ニュース

Yahoo!ニュースといえば、匿名性を良いことに、知識人の顔をして説教や自慢話を展開するコメント(しかも、記事の内容を全く読んでいないと思われるものも少なくない)が大量に溢れることで有名だが、今回は先の通りの内容だけに、彼女の計画の甘さを責めるコメントが大半だったものの、随分と真っ当に見えた。

そんな中にも、例によって、大学全入論者が大暴れしていた。

代表的なものは「今の時代、高卒だと満足なキャリアや収入が得られないから、奨学金を借りてでも大学へ行かないと!!」というもの。

その姿は記事に登場したカネは出さないのに口は出す無責任な親族と1mmの違いもない。

また、少子化対策を口実に大学無償化を主張する者は、自分の意に反する(そして「正論」と呼べる)コメントの多さに対して、負け惜しみのつもりか、「記事のコメント機能は不要で、自分に都合が良い専門家だけにすればいい」とコメントしていた。

「自分の意に反するコメントは許さない!!」とか、「市政の意見を無視して、自分たちエリートだけが決めた方針で愚民を導く社会が理想」とは…

「あんたは共産主義国の独裁者かよ?」

と言いたくなる。

それとも、「プーチンか?」と言うべきだろうか?

加えて、「今の就職先に大卒という肩書が役に立ったという可能性はないのか?」という究極のポジティブシンキングなコメントもあるが、地方とはいえ、手取り16万よりもさらに低い給料しか稼げない仕事を得るのに「大卒」という資格が大いに貢献したというのであれば、「大卒の価値など所詮その程度」と言っているようなものである。

・罪悪感の欠片もない開き直り

何度でも言うが、経済事情だけでなく、本人の(東京で暮らしたいという)目標や能力も考えて、彼女は大学へ行かずに、東京で就職、もしくはフリーターになるべきだったのである。

そうすれば、たとえ東京での生活が上手く行かなくても、300万円もの借金を背負うことはなかった。

彼女を借金漬けにしたのは、無責任に大学進学を勧めた大人たちであり、もちろん、親族だけでなく、社会の問題を個人の問題を混在し、自分の理想郷の実現のために、若者の人生を踏みにじっている大学全入論者も同罪と言える。

この記事で進学に迷う高校生に「フリーターになんかなってはいけない」という理由で無謀な進学を煽り、借金漬けにした挙句、水商売へ送り込むという、おおよそ「先生」や「教師」と呼ぶに値しない「教育系のバカ共」は「奨学金問題を糾弾する側の人間ではなく、される側の人間である」と言ったことがある。

対象は違うが大事なことなので、同じことをもう一度言う。

にもかかわらず、罪悪感の欠片もなく、「彼女のような悲劇を生まないためにも、大学の学費を無償にすべきだ!!」と開き直り、一切の非を認めない彼らの信念には恐れ入る。

もちろん、理想とする社会を訴えることは自由だが、現実を無視して、無垢な若者を自分が思い描く箱庭ユートピアへ動員して、借金でボロボロにするなど言語道断である。

彼らは「自分の理想と奨学金を借りて進学する学生こそが正しい姿で、今の日本社会の方がおかしい!!」と言いたいのかもしれないが、だったら「まずは自分が今の地位を投げ売って、国政選挙に立候補して、社会を変えろ!!」と言いたい。

「自分にも生活があるから…」という逃げ腰の姿勢から、それが無理と言うのなら、せめて国会議事堂や自民党本部の前でデモをするとか。

その程度のこともやらずに、「この社会は自分が望む方へ動くはずだ!!」と根拠もなく主張して、「だから、君もそうしなさい!!」と無暗やたらに大学進学を煽ることは「この株は間違いなく値上がりする!!」と詐欺まがいの押し売り営業マンそのものではないか。

Yahooの記事に「ろくに授業を行わず、外国人や庶民から数百万の学費をせしめる商売をやっている大学は、金額が大きいだけに、巷にあふれる数多のセミナーの類より質が悪い」というコメントがあったが、それは大学だけでなく、大学全入論者に対しても言えることである。

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