先ずは自助、次に共助、最後に公助。
最初から人に頼るのではなく、先ずは自分で努力することが大事。
どこかの政治家に限らず、このような理屈は私たちの日常に溢れている。
以前、最近の会社では新入社員に対して、人に聞く前に自分で調べることを要求する傾向があると書いたが、それも同じだろう。
だが、それは本当に正しいのだろうか?
私自身が若い時に「分からないことはすぐに聞いて!」と言われるような職場で働くことが多かったため違和感を持っているのかもしれない。
しかし、心理的な抵抗にとどまらず、分からないことをすぐに聞かないことで実害が生じると思う場面がこれまでにあった。
・お客様がお待ちです!!
以前、日雇い派遣で最低の職場だと思った引っ越しの仕事の話をした。
そのエピソードの一つにこんなものがある。
仕事を開始するために必要な資材を準備しなければならないのだが、3人の社員は一切指示を出さず、
と言って、マニュアルだけを渡して、作業を丸投げした。
その結果、私たち日雇いのバイト3人で準備をしたのだが、10分近く要してしまった。
もう一つはコンビニでバイトをしていた時の話である。
ここも「習うより慣れろ!!」と言ってほとんど仕事を教えてもらえない職場だった。
ある時、客からタバコを銘柄で頼まれたのだが、非喫煙者の私は番号で指名されなくては全く理解できないため、バックヤードにいたオーナーに「○○というタバコは何番ですか?」と聞いたが、彼は
と言って、教えてくれなかった。
幸運にも客は穏やかな人物で、もたつく私に激怒するどころか、一緒に探してくれたからよかったものの、もしも違う性格の人だったらと思うと今でもゾッとする。
この2つの出来事に共通しているのは、たかだか数秒の手間を惜しむことで、客に多大な迷惑をかけていることである。
自分たちが直接お客様と接する時はニコニコとした作り笑いで尻尾を振りながら、平気でこのような背信行為をするのは何とも滑稽である。
というわけで、「人に聞く前に自分で調べろ!!」と豪語している人物に顧客に迷惑をかけていることを自覚するべきである。
このような話は極端だが、実際にすぐに教えればいいものをあえて教えないことで、本人だけでなく、後工程の担当者も待ち時間が延びたり、教えないことにより生じたミスの修正に無駄な時間と労力を費やすことになるかもしれない。
「人に聞く前に自分でやってみろ!!」
と説教を垂れる人間はそのことで生じる責任の一切を取る覚悟でいるのか?
・生活保護を受給する前にやるべきこと
先ほどの話は、「一人で頑張った後で、人に頼る」という発想は間違いであると教えてくれる事例だが、実際に損害が生じているものの、それは軽度のものである。
だが、次の話は人に助けを求めることが遅れたせいで、本人も、社会も大きな損害を受けたケースである。
10年ほど前に、ブラック企業関係の本でこんな話を見た。
ある20代後半の男性は学校卒業後に小売業のアルバイトで生計を立てていた。
収入や年齢の不安から、このままフリーターを続けることはまずいと感じた彼は、バイト先から「正社員にならないか?」と誘いを受けて、二つ返事で快諾した。
だが、正社員登用後はいきなり店長を任され、(バイトとして働いていた店とはいえ)満足な研修もなしに、商品の管理やシフトの作成、クレーム対応などの業務を負うことになった。
その職場は24時間営業の店で、彼はバイトの人員不足などから、丸一日連続して勤務することも珍しくなく、休みも月に1,2日ほどしか無かった。
そんな状況で、彼は体調を崩してしまい数ヶ月で休職。
精神科医を受診した結果、うつ病だと診断された。
診断結果を会社に報告すると、就労を継続することは難しいと判断されて、(自己都合扱いで)解雇された。
彼は精神的なダメージが大きかったため再就職は困難となり、その後は生活保護を受給することになった。
はっきりとは覚えていないが、たしかこんな話だった。
生活保護は最後のセーフティーネットである。
生活費、家賃に関する扶助だけでなく、医療費の窓口負担やNHKの受信料も免除されるため、決して多いとは言えない給料でやりくりしているワーキングプアや自称「中間層」から嫉まれ、
「甘え過ぎだ!! 自己責任だ!!」
「最低賃金で働くよりもいい生活が送れるなんて不公平だ!!」
「税金で自分たちよりも楽な暮らしをするなんて許せない!!」
とバッシングを受ける原因となっている。
生活保護に莫大な税金が費やされていることは事実だが、私が思うのは、(彼に限らず)受給者の多くは
ということである。
そもそも、彼は不当解雇である可能性が高い。
もしも、会社都合解雇であれば、すぐにでも失業保険が受給できたはずであるし、彼が燃え尽きる前に違法労働を是正勧告すれば、彼は仕事を辞めることはなかったかもしれない。
また、極端な話だが、そもそも正社員にならずに、バイトのまま働き続けて、賃金が生活費を下回る場合は、家賃補助や社会保険料の免除などを行っていれば、仕事を続けることが出来たため、生活費のすべてを公費で扶助することはなかったのかもしれない。
・もっと早く助けを求めることができれば…
生活保護の話をしていると、一人親家庭のケースを思い出した。
一人親家庭では、フルタイムで働きたくても、一人で子どもを養育することがネックとなって、パートタイムの仕事にしか就けないことがある。(同じ非正規の仕事であっても、パートタイムとフルタイムでは欠勤した時の職場への影響が異なるためフルタイムでの採用を避けることが珍しくない)
しかし、その収入だけでは生活できないため、仕事を2つも3つも掛け持ちすることになり、結果的に無理がたたり働けなくなり、結局は生活保護を受けざるを得なくなることが多い。
この場合も、先ほどの彼と同じく無理しない範囲で働いて、足りない分を公助で補えば、すべての生活費を生活保護で賄う必要はなかったのではないだろうか?
最終的に行き着く先が生活保護であればまだマシである。
ネグレクトや虐待死の報道を見ていると、加害者は極悪非道な鬼親というよりも、真面目過ぎて、職場では家庭のことで特別扱いしてもらうことを避けたり、公的扶助はおろか親族や元配偶者の支援を受けずに自分の収入だけで子どもを養おうとして、袋小路に追い込まれたということが珍しくない。
普通に考えれば「いや、そんなことできるわけないでしょう?」と思うことであっても、彼らは最後まで助けを求めることができなかった。
「人に頼る前に自分の力で解決すべきだ!!」
そんな悪魔の囁きに耳を傾けなければ、つなぐことができた命があったのかもしれないことを考えると何とも無念である。