昨日は私が「新入社員」に贈りたい言葉として、「仕事ができる人とできない人の差は本人の能力ではなく、周囲の人のサポートの違いに過ぎない」ということを紹介した。
みんな最初は仕事ができなくて当たり前で、そう思わないのはやる気や能力が高いからではなく、周りのフォローがあるからであり、本人もそれが当然だと思っているからである。
だから、その当たり前だと思っていた支えがなくなると、人は何もできなくなってしまう。
これは「一人はみんなのために、みんなは一人のために」よりも、はるかに新入社員へ協調性と周囲への感謝の心を育む標語であると自負している。
というわけで、経営者や管理職の皆様は、この標語を書いたポスターをぜひとも職場に貼ってほしい。私への断りは不要なので、好きにコピペしてほしい。
さて、本日のテーマはこちら。
私はこれまで仕事を転々としてきたが、一番楽しいと思ったのは23歳の時に働いていた職場だった。
仕事自体は退屈な単純労働だが、自由な職場で同僚にも恵まれた。
一方で、前職は時給5000円でも働きたくないと思う職場だった。
その時によく
「ウチで仕事ができないのなら、どこに行っても通用しない」
「すぐに仕事を辞めるヤツは、次の職場でも続かない」
「ウチの会社はマシな方だ。他所はもっと厳しいぞ!!」
などと言われていた。
私は結局、その劣悪な環境の職場を3ヶ月で退職したが、次の職場では仕事にも人間関係にも恵まれた。
その過程で「自分は間違っているのではないのか?」とか「自分が変わらなきゃ!」と思ったことは一度もない。
この事実だけで、その言葉はウソだと断言できるのだが、その職場と呪文のようにその言葉を唱えていた人について、もう少し話をさせてもらいたい。
・最悪な労働環境
その仕事というのはコンビニのバイトだった。
仕事そのものが私には向いていないと思ったのだが、それ以上に職場が
・レジの違算があれば差額を支払わされる。
・商品を傷つけたら買い取りさせられる。
・季節商品の販売ノルマがある。(オーナーはあえて「ノルマが達成できなければどうするか?」については言わない)
・シフトは曜日ごとに完全に固定する。もし休む時は代わりの人を見つける。当日欠勤は罰金か、ペナルティと称して翌週から勤務時間を減らされる。
・「仕事は習うよりも慣れろ」と言われ、商品やサービスの知識、機械操作の研修は一切なし。
・人手が足りない時に自己都合で退職を申し出ると、脅迫されて辞めることができない。
・副店長はこんな鬼ババア。
というように、ブラック企業のチェックリストに引っかかりそうなことがオンパレードの真っ黒な会社だった。
ガラの悪い客も多く、窃盗、誘拐、集団暴行などが起こり、3ヶ月で3度も警察のお世話になった。(大げさに言っているのではなくて本当の話である)
私はこの仕事を始めてすぐに辞めたくてたまらなくなった。
私が勤務する時間帯に、いつも一緒に入る先輩がいた。
彼は私より5つ年上で、彼の前職は自衛隊員だった。
自衛隊出身者らしく、常に大きな声で話し、上司(オーナー)には忠実だった。
彼の仮名は「軍曹」にしよう。
ちなみに、この仕事が辛いと思っていたのは私だけでなかった。
私が働き出す前月に2人が短期で退職していた。
軍曹は「ここで通用しないなら、どこに行っても通用しないよ」と嘆いて、その退職者を非難していた。
・退職不可能!?
1ヶ月後、私は「これ以上、仕事を続けていく自信がないので退職したい」とオーナーに告げる。
するとオーナーは大激怒で
「今まで、お前にいくら投資してきたと思っているんだ!?」(投資と言っても、私が商品をダメにしたらその商品は自腹で買わされたのだが・・・)
「お前は仕事をナメてんのか!?」
「どうしても辞めるのなら、代わりの奴を連れてこい!!」
と脅迫してきた。
今の私だったら、その場は「はい、はい」と言ってやり過ごし、頃合いを見てバックレるが、当時の私はバックレなど思いつくことができず、オーナーの迫力に押されて、仕方なく代わりの人が見つかるまで仕事を続けることにした。(もちろん、私はこんな会社に自分の知り合いを誘うことはしなかった。)
軍曹はその場にいなかったが、私がオーナーに怒鳴られているのに気づいたようで、オーナーが帰宅した後、私とこんな会話をした。
早川:「バイトを辞めることがこんなに大変だとは思いませんでした・・・ 」
軍曹:「まあ、それがこの店のやり方だから。他所は他所、ウチはウチだからね」
早川:「でも、今までアルバイトを辞めたいと伝えた時にあんなに怒られたことはないですよ」
軍曹:「だから、他所は他所、ウチはウチ。『前の会社はどうたった』は社会では通用しない。そんなヘリクツばかり言っているようではどこに行っても通用しない」
・「どこに行っても通用しない」と矛盾する軍曹の常套句
この職場は私が先ほど挙げたように真っ黒な(というよりも完全に違法な)会社だったが、私がそのことに不満を漏らす度に軍曹は
「他所は他所、ウチはウチ」
と言って、自分と私を納得させていた。
だが、私は軍曹が連発する「他所は他所、ウチはウチ」を聞いて、次第に違和感を持つようになってきた。
よくよく考えてみたら、おかしな話だ。
軍曹は退職者に対して「ここで通用しないなら、どこに行っても同じ」と言い続けた。
彼の言う通り「他所は他所、ウチはウチ」であり、会社が違えばルールも全く違う。
にもかかわらず、なぜ彼は「どこに行っても通用しない」などと断言できるのか?
「ここで通用しないなら、どこに行っても同じ」と「他所は他所、ウチはウチ」は矛盾しているのではないか?
1ヶ月後、私の後任のスタッフが仕事に慣れてきて、私の退職までのカウントダウンも迫ってきた日、軍曹が穏やかな口調でこんなことを言ってきた。
軍曹:
俺は君が退職するのを止める権利はない。
でも、出来れば君のためにも、この仕事を続けてほしい。
どの会社で働いても必ず不満は生まれる。
だから、今の仕事が不満という理由で退職するなら、どこに行っても勤まらないと思うよ。
私は彼が「どこに行っても勤まらない(通用しない)」を口にすることをずっと待っており、その言葉が放たれるとすかさず質問してみた。
早川:
でも、軍曹はいつも『他所は他所、ウチはウチ』って言っているじゃないですか?
会社が変わればルールも変わる。
だから、「前の職場では違った」なんて理屈は通らないと。
なのに、何で「ここで務まらないなら、どこに行っても務まらない」って言えるんですか?
軍曹は少し混乱したようだが、少し間をおいて
「そういうのをヘリクツって言うんだ!!」
と大声で返答した。
結局、彼はその言葉に深い意味を持ってはいなかった。
この職場が筋金入りのブラックだったように、「ここで通用しないなら、どこに行っても同じ」も「他所は他所、ウチはウチ」もブラック企業が黒い部分を隠すために利用しているに過ぎない。
もっとも、軍曹は経営側の人間ではないはずだが・・・
「ここで通用しないなら、どこに行っても同じ」と言われた私だったが、その後の職場環境に恵まれたのは冒頭でもお伝えした通りである。
私の経験では、新しい職場で働き始めると、前の職場の良い所だけが頭によぎるものだが、この職場に関してはそういうことが全くなかった。
「ここで通用しないなら、どこに行っても同じ」
その言葉ははっきりとウソだと分かった。
余談だが、私がコンビニの仕事を辞めたいと言った時に「コンビニの仕事も務まらないのなら、どこに行っても務まらない」と言う人は私の家族や友人の中にも何人もいた。
今でこそ、コンビニは時給と仕事量が釣り合わないバイトだと言われているが、当時は「ブラック企業」という言葉はあまり知られていなかったし、「ブラックバイト」という言葉も存在していなかった。
だから、私が職場で行われている違法行為を訴えても誰からも信じてもらえなかった。
今はブラック企業(バイト)という言葉が生まれ、その認識が変わってきている。
それだけでも世の中は少し良くなっているのかもしれない。
仕事ができる人とできない人の差は周囲のサポートの違いに過ぎないことが多い
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