この記事を投稿した2021年9月、次期総理大臣を決める自民党総裁が行われている。
候補者の一人があり、安倍晋三前首相が支持を表明していることから「初の女性総理誕生か?」と注目されているのが高市早苗衆議院議員である。
安倍前首相、ツイッターで高市氏支持を表明…「主権守る決意と国家観示した」 : 政治 : ニュース : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)
・女性の登用だけでは「輝く女性」は生まれない
安倍前総理といえば、首相を在任時から「女性が輝く社会」というスローガンの下、女性を積極的に閣僚として登用し、経済界には「女性をもっと雇ってくれ」と呼びかけていた。
彼に限らず、「日本は女性の社会進出が遅れているから、もっと積極的に女性を登用すべきだ!!」と考えている人は少なからずいる。
たが私は、管理職にせよ、労働者にせよ、ただ単に女性の数を増やそうとする考えには批判的な立場である。
その理由は何も
「女性が優遇されるせいで自分が損をする!!」
「男社会の何が悪い!!」
というような私怨や開き直りによるものではない。
私は「日本は男性有利社会」だと思っているし、多様性(ダイバーシティー化)の推進自体に反対はしない。
しかし、男性(厳密に言えば、家事や育児のようなケアを家族に丸投げできる男性)でなければ昇進できない今の制度を変えずに、女性の数だけを増やそうとすると、男社会を牛耳る「オッサン」たちに徹底的に媚を売り、自身も男性化することで、男社会に適応した女性のみが生き残ることになる。
そのような女性リーダーが出現すると、少なくない人が「何だか望んでいた女性リーダーとは違うぞ…」と違和感を持つ。
彼女たちは「輝く女性」というイメージとは程遠く、男性以上に「男性的」で、保守的で、負けず嫌いで、他人に厳しく、誰かを蹴落としてでも上へ行こうとする野心に満ちている。
アパルトヘイト(人種差別)政策が行われていた南アフリカ共和国で、非白人が差別的扱いを受け、先進諸国が経済活動を控える最中にも、取引を続けていた日本人(実際は台湾や香港も同じらしいが)は「名誉白人」として、白人と同等の権利を与えられていた。
それと同様に、男性ではないものの、徹底的に「オッサン」に迎合し、自らも男性化し、男社会で高い地位を得た(成功した)女性のことを「名誉男性」と呼ぶ。
今日はこれまでに私が過去に出会った名誉男性たちの話をしたい。
・3人の名誉男性たち
・①:老舗百貨店の常務
私が「この人はまさしく名誉男性だ」と思った女性は上京して初めて働いた職場で出会った。
その会社は老舗の百貨店で、テナントも含めた全従業員が百貨店の研修を受けることになった。
会社への入退出時に使うIDカードはその研修を受けた後で配布されるため、それ以前は仮のものを渡されていた。
無事にクソ退屈な研修を終えた私は正式なIDカードを渡され、それまで使用していた仮のカードは翌朝出勤した時に警備員に渡す手はずたったのだが、システムの反映が遅れていたようで、翌日以降も会社の出入りの際に使うことができなかった。
そのことを警備員に話すと「以前も同じことがあったけど、みんな数日後には使えるようになったから、それまで前のカードを使っても大丈夫。会社には私が言っておくから」と言われ、その後も仮のカードを持ち続けていた。
だが、2,3日経過しても正式なカードは使えなかった。
1週間後、バックヤードで作業をしていると同僚が「早川さん、呼ばれているよ」と言いながら一人の年配の女性を連れてきた。
その女は、お洒落なファッションとは無縁の堅苦しい黒いスーツ姿で、私に会うなりこのように罵倒してきたのである。
「あなたが早川さん!?」
「あなた、研修は終えたでしょう!?」
「何で仮のIDカードをまだ返していないの!?」
「何なんだ、この女…」
私がそう感じたのは、初対面の挨拶もなく、いきなり怒鳴り込んでくる無礼な物言いからだけではなかった。
「なめられないために」と常に相手を気迫で圧倒する田舎のヤンキーのような喧嘩腰、些細なミスでも絶対に許さず、人のことを細部までしつこくコントロールしてやろうと言わんばかりの鋭い目つき、これまでも多くの人を蹴落としてきたことを隠せない威圧感…
名探偵コナンの第1話「ジェットコースター殺人事件」で、薬で幼児化する前の工藤新一が黒の組織のジン(兄貴)を見てこんなことを思うシーンがある。
当時の私が感じたこともまさにそれである。
「この女、間違いなく堅気じゃない…」
その後、システムの変更の遅れと、警備員からの指示で仮のカードを持ち続けていたことを告げたことで、無罪放免となったが、私のことを心配してくれた上司がこんなことを言った。
名誉男性とはまさしくこのような経緯で生まれる(変質する)のである。
結局、私が彼女と会ったのは一度切りだったが、初対面でこうも分かりやすく「これが名誉男性か」と理解させてもらう貴重な体験となった。
・②:コンビニの副店長
名誉男性とは社内での出世、もしくは経営者として成功するために、男社会に過剰適応することで生まれる。
そのため、先ほどの某百貨店の常務のような人物が典型的で、非正規労働者とは無縁だと思われがちである。
だが、私が初めて出会った名誉男性は「副店長」という肩書こそあるものの、コンビニのパート女性だった。
私が彼女と共に働いていた職場はこの記事で紹介したコンビニである。
今でも、その職場のことは過去に働いた会社でワースト1位を争うひどい場所だったが、その原因の一つはこの副店長でもある。
初対面の日、私は彼女に挨拶をしたが、その返事は「先ずは、手を洗う!!」という一言であしらわれた。
この副店長、オーナーが経営する多店舗で10年以上働いた経験があり、彼の息子たちに対しても指導的な立場にある。
そして、パートであるにもかかわらず土日も含めた週6日勤務である。
本人が仕事熱心であるだけなら大いに結構だが、他人の仕事にも厳しい。
自分が認めない相手は基本的に無視で対応し、こちらから訴えかけても「あ、そう」の一言で済ませる。
前段の常務もそうだが、名誉男性の特徴の一つである「なめられない」ための先制攻撃である。
私も3日の研修中に何度も
「声が小さい!!」
「姿勢が悪い!!」
「動きが遅い!!」
と何度も叱られた。
そんな彼女に抱いた印象はもちろん「嫌な奴(クソババア)」である。
初めてアルバイトに就いた学生や新社会人が
「お金を稼ぐことってこんなに大変なんだ…」
「これが社会の厳しさか…」
と痛感することがある。
私は最初に始めたバイトは親のコネ入りだったし、その後もこのような緩い職場が続いていたため、そのような感覚とは無縁だったが、この職場で始めてその言葉を実感した。
研修終了後、深夜のシフトとなったことで、彼女とは別の時間帯の勤務となったが、彼女と勤務時間が重なる退勤30分前は恐怖だった。
前出の記事に書いた通り、オーナーの教育方針は「習うより慣れろ!!」である。
そのため、宅配の引き受けや商品券での支払いのようなイレギュラーな業務が出てくると、そこで初めてやり方を教わるのである。
その時、副店長にやり方を教わろうとすると、必ず「まだ、やったことないの!?」と呆れられるため、先ず副店長に「すいません!!」と謝り、もたついたことを客に謝るのは二の次だった。
彼女が出勤して最初にやることは深夜の業務が問題なく行われているかのチェックである。
もしも、廃棄の回収漏れや、掃除に甘い点が見つかると、帰る前に長々と説教されることになる。
自衛隊上がりで、ブラック企業のオーナーに対しても一切の陰口を叩かない程従順だった相棒の軍曹(仮名)も彼女のことを恐れていた。
後に聞いたが、本気で離職を考えている時期もあったらしい。
また、これは彼の推測に過ぎないが、「この店が開店した直後に、新規採用したスタッフが3人ほど研修中に退職したのは、彼女の指導が厳しすぎたため」とも言っていた。
そんな自分にも他人にも厳しい副店長であるが、実は彼女は母子家庭で子ども育てていたのである。
自身と子どもの生活を守るために厳しくならざるを得なかった点は、ビジネスでの成功や名誉を得るために他人を蹴落とそうとする名誉男性たちよりも同情的な目で見ないといけない。
だが、母子家庭でも無理にハードワークをせずに生きていくことができる社会だったら、彼女もあそこまで性格が尖ることはなかったのかもしれない。
ちなみに、その後の私は母子家庭の女性と10人近く共に働くことになったが、全員が彼女のようなメンタリティだったわけではないことを補足しておく。
・③:毎度お馴染み「派閥のボス」
最後に取り上げるのはこのブログでも何度も登場した派閥のボスである。
これまで何度も彼女の政治批判をしてきたが、一人の人間として紹介するのは今回が初めてである。(彼女の暴虐エピソードは過去の記事①、②、③をご覧いただきたい)
私たちが働いていた職場は工場だったが、彼女は元々金融業界の出身だった。
私はその業界のことは知らないから迂闊なことは言えないが、後に彼女の一派からクーデターを起こされた元工場長はこんなことを言っていた。
彼女と共に働いていた(いじめられていた)のはおよそ5年前で、当時の彼女は40代前半。
年齢的には就職氷河期と呼ばれ就職に苦労した世代である。
しかも彼女が若い時はまだ「ブラック企業」という言葉はなく、「セクハラ・パワハラ」も一般化していなかった。
そんな時代を生きた彼女たちはセクハラ・パワハラ男に徹底的に媚びて生き延びてきたのではないだろうか?
言われてみれば、彼女はタバコこそ吸わないものの、それ以外の面は典型的な昭和のサラリーマンだった。
先ず、自分が贔屓にしている仲良しグループは職場だけでなく、プライベートな時間もLINEで連絡を取り合い、頻繁に飲み会も行っていた。
台風で翌日の出勤が危ぶまれた日は「私は会社に泊まってもいい」と言い出すなど、「雨が降ろうが、槍が降ろうが会社へ向かうべき」という「社畜の教え」にも忠実だった。
男性社員の下ネタにも積極的に乗ってきたし、私が被害にあったことはないものの、自らネタを振ってきたこともあった。
私と世間話をした時に、決して男子校ではなかったものの、男子生徒が90%を超えていた私の高校時代の話を聞いて、「私も(※:女子生徒ではなく男子生徒として)そんなノリで高校生活を送ってみたかった」と感想を述べたこともあった。
ちなみに、彼女が機嫌が悪い時はよく「お前」という呼び方を使用していたのだが、そのイントネーションは完全にオヤジが使うそれであった。
表現が難しいのだが、数年前に「このハゲーーー!!」という暴言・暴行で有名になった女性国会議員の音声データ集に含まれている「おまっ(お前)、ふざけんなこの野郎!!」という発音と瓜二つである。
彼女が見せた派閥支配や暴言は男社会に順応した人間に生まれた負の側面だったのかもしれない。
・自分らしくあることを諦める
私が「名誉男性」だと思う3人の女性を紹介してきた。
彼女たちは仕事に厳しく、豪快で男勝りだが、俗にいう「肝っ玉母ちゃん」とは違う。
肝っ玉母ちゃんとは厳しいことを言いつつも、最後まで温かく見守るわけだが、名誉男性は狡猾で残忍で、ヒステリックで、攻撃的で、自分が生きるために他人を蹴落とすことも厭わない冷徹な面が際立っている。
このような女性が生まれる原因は男社会に無理やり女性をはめ込もうとしたことである。
「女であること諦める」という言葉がある。
これはキャリアのために結婚や出産、その他にもお洒落な服装やプライベートの友人を犠牲にすることを意味するが、彼女たちが捨てたのはそれだけに留まらず、人として大切なものさえ失っている気がする。
「男らしさ」や「女らしさ」など関係なく、「自分らしく」生きていくことができれば彼女たちもあそこまで壊れることはなかっただろう。
そう考えると、彼女たちも男社会の被害者なのかもしれない。
もっとも、理由がどうあれ、最終的には行動を取った本人に責任があるため、同情の余地はないが、彼女たちのことを知れば知るほど、怒りではなく、哀れみを感じてしまう。
制度の前提を変えないまま、女性の頭数だけを増やしても何も解決しない。
もちろん、女性が働きやすい職場環境の整備自体に反対することはバカげている。
職場で権力を握っている名誉男性に虐げられている人たちは
「『女性だから』といって無条件に優遇することは反対!!」
「これ以上、女を甘やかすな!!」
と憤るかもしれないが、彼女たちは男社会が生んだ悲しいモンスターであることを忘れてはいけない。