アメリカで起きたブラックバイトの加害者の末路を教えてくれそうな事件

皆さんもご存じだと思うが「ブラックバイト」という言葉がある。

アルバイトは元々、学生や主婦が行う正社員の補助労働に過ぎなかったが、正社員の数が減らされると、

・正社員=仕事は大変だが、給料は高い

・バイト=給料が低いが、仕事は簡単

という前提が徐々に崩れて、

・正社員であっても低待遇

・アルバイトでも責任のある仕事

というように悪い面が互いに浸食し合っている。

確かに、私自身の経験を振り返ってみても、高校生の時に初めて働いたバイト先では、ここまでがバイトとパートの仕事であり、ここからが正社員である部門責任者の仕事であるという境界線があった。

・もはやバイトは気楽な仕事ではない

しかし、仕事を転々とするうちに、同じ職場で働く正社員の数が徐々に減ってきて、「何でバイト(たまに派遣)の私がこの仕事をやらなくてはならないのだろう?」と思うことが増えた。

まあ、単純に私の年齢が上がるにつれて、相応の責任を押し付けられただけかもしれないが…

例えば、この記事にも書いた通り、私はコンビニで深夜のバイトをしていたことがあるが、この時に初めて「バイトとは、重要な社員は社員に丸投げできて、シフトの融通が利いて、入るのも辞めるのも簡単な仕事」という図式が成立しないことを思い知った。

まず、バイトなのになぜかシフトの融通が利かない。

勤務の初日に「シフトは何曜日に入れる?」と聞かれたので、「今週は何曜日から何曜日までの間働けます」と答えて、その希望を通してもらったのだが、翌週から毎週その曜日が自分の勤務日として固定され「その日に休みたい時は代わりに入ってくれる人を自分で見つけろ!!」と言われた。

また、月曜から金曜までの昼間に働いていたフリーターが風邪で2日休んだことがあったのだが、彼女は店に迷惑をかけたペナルティとして、翌週から勤務時間を一日5時間に減らされた。(結局、彼女はその週限りで退職した)

その他にも、レジで1000円以上の違算があれば弁償させられ、旬物のクリスマスケーキやおせち料理などの販売ノルマが達成されなければ、自腹で買い取るような圧力をかけられた。

当然、私はこんな仕事は続けられないと思い、1ヶ月で退職を申し出たが、

「今は人がいない!!」

「どうしても辞めるなら、お前が代わりに働く奴を連れてこい!!」

と言われて(脅されて)、退職を認められなかった。

その後、何とか退職することはできたが、報復のつもりか給料の振込を止められて、手渡しで取りに来るようにという手紙が送られてきた。(もちろん、平気な顔で取りに行きましたよ

また、この記事で取り上げたスーパーでは、部門内で最も勤続年数の長いおばあさん(本人が聞いたら怒るから「あ」は発音しないこと)を「班長」として雇っていたのだが、彼女は60歳を超えたパート労働者ということで、責任者にもかかわらず、給料は最低賃金(+小遣いのような手当)であった。

こうなると、自分の待遇の低さを根拠に「これはバイトである自分の仕事ではない」と主張することもできない。

しかし、企業も人件費を抑えようと必死であるにせよ、経営者(+経営者気取りのバカ)を除いて、このような流れを歓迎する声を聞くことは先ずない。

試しに「ブラックバイト」というキーワードでネット検索してほしい。

何らかの事例が載っているが、その記事のコメント欄は次のような言葉で溢れている。

「責任のある仕事は正社員の仕事じゃねえのかよ!?」

「バイトにそんなことさせて、こいつはよくも店長なんて名乗れるなあ?」

「本社も人件費をケチってないで、しっかりと正社員を雇えよ!」

・「正社員だって大変なんだ!!」という擁護論

そんな中で、数は少ないが、バイトを酷使する社員を擁護する声もある。

「バイトも大変かもしれないけど、社員だって大変なんだ!!」

たとえば、今から5年ほど前、ある飲食店でアルバイトをしていた大学生が4ヶ月間無休で働かされた上に、過度な業務、自腹購入を強要、(店長からの)殺人予告、暴行などの被害を受けた結果、学生生活を送れなくなり、その後、会社と店長を訴えるという事件があった。

これは被害者の大学生にとっては悲惨なことではあるが、実は加害者である店長も(被害者の大学生よりも長い)半年以上の間無休で働かされていたことが判明した。

なるほど。

たしかに大学生のアルバイトが本業そっちのけで、バイトに強制的に動員させられることは理不尽かもしれないが、店長(正社員)だって何カ月も休めず、毎日十数時間と働かされているのだから、店長を一方的に悪者扱いするのは間違っているというわけだ。

このような視点で考えると店長に対して同情できなくもない。

あの事件は極端な例だから、ここまで大きな事件になったのかもしれないが、巷に溢れるアルバイトに責任を負わせてこき使うブラックバイトの加害者(社員)も、本当はアルバイトの学生を酷使したくないけど、そうせざるを得ないほど自分も追い込まれており、「アルバイトを極限まで追いつめて働かせよう」という考えは上(本部)の方針で、すべてはその指示に従っているだけなのかもしれない。

「店長だって本当はこんなことをしたくない!!」

「上(本部)がそうするように要求するから仕方なくやっているだけだ!!」

こんなことを書くと、まるで加害者の正社員を擁護するような流れになりそうだが、私は自分が追い込まれていても、他人から命令されたことであっても、実際に手を下した人間が責任を取るべきだと考えている。

人によっては「それは残酷な考えだ!!」と思うかもしれないが、私がこの考えに至った理由の一つはアメリカで起きたある事件の話を聞いたからである。

・ストリップサーチいたずら電話詐欺事件

その事件とは「ストリップサーチいたずら電話詐欺事件」である。

詳しくはWikipediaに書いているので、ここでは簡単に説明する。

これは1990年代から2000年代にかけてアメリカで起きた事件で、警察官を名乗る男がレストランや雑貨店に電話かけて「あなたの店の従業員が会社の金品を盗んだという通報があったから捜査に協力してほしい」と社員に要求し、女性店員に対して身体検査と称して、性的な嫌がらせを強要した。

この犯行は計70回以上行われたが、最後に起こされた2004年の事件が最も有名になり、日本でも世界仰天ニュースなどの番組で取り上げられたことがあるので、知っている人も多いと思う。

その事件を大まかに説明すると

2004年、当時37歳で刑務所勤務の男(以下:犯人)がケンタッキー州にあるマクドナルドに警察官を偽って電話をかける。

その日は店長が不在だったため、店長補佐の女性(以下:A)が対応する。

犯人はAに「その店で勤務している若い女性従業員に窃盗の容疑がかけられているから、直ちに拘束して身体検査をしてほしい」と要求。

Aは犯人がその日のシフトに入っていた女性従業員(以下:B)のことを言っているのだと思い込み、Bを事務所に拘束して、犯人に要求された通り、服を脱がせる。

1時間後、Aは仕事に戻らないといけないことを犯人に告げると、信頼できる誰かを呼ぶように要求され、婚約者の男(以下:C)を呼ぶ。

Aが業務を行っている間はAに代わってCBに対して、検査と称した性的な嫌がらせをするように命令される。

その後、Aが店長に電話したことで、店長にはそのような連絡は一切入ってきていないことが分かり、電話はいたずらだと気づく。

その後の捜査で犯人は逮捕されたが、女性従業員(B)に対する監禁と性的暴行の罪で店長補佐の女(A)と婚約者の男(C)も逮捕され、裁判にかけられた。

そこで彼らは

「命令されたから従った」

「問題を起して今の立場を失いたくなかった」

と弁解したわけだが、これを聞いた聴衆は

「命令されたからって、普通に考えればおかしいと思うだろ?」

「自分だったら、こんなことはしない」

「自分の保身のために従業員をこんな目にあわせるなんて最低の人たちだ!!」

と大いにあきれ返り、誰も彼らに同情しようとはしなかった。

実際、アメリカは法治国家であるため、自分の意に背く命令であっても、それを行った者は法的な責任を取らなくてはならず、店長補佐の女はマクドナルドを解雇され、婚約者の男は性的暴行の罪で5年の懲役刑が課せられた。

事件の黒幕は別の人物であり、彼らも事件に巻きこまれた被害者のようだが、(命令されていたとはいえ)犯罪に手を染めた瞬間、被害者から加害者に転じてしまった。

・ストリップサーチ事件の加害者とブラックバイトの加害者

ブラックバイトの話に戻るが、「本当は自分もこんなことはしたくない」と言いつつ、バイトの従業員に過酷な仕事を課す社員はこの事件の2人と似た立場にいると思う。

だから、私は声を大にして彼らに言いたい。

今のあなたは「本当は自分もこんなことはしたくないけど、自分も追い込まれているから、(もしくは、上に命令されているから)仕方なくバイトを酷使するんだ」と考えているかもしれない。

「一時の正義感で会社に逆らって、上から目をつけられたら、これから出世コースから外されるかもしれないし、下手したらクビになるかもしれない」

「今の地位を守るためには、バイトに泣いてもらうしかない」

「これは上の命令だ。好きでこんなひどいことをやるのではない。自分も巻き込まれた被害者である」

しかし、その理屈は社会では通用しない(私がこの言葉を言うのも奇妙だが)

「追い込まれた自分も被害者だ」と主張するのであれば、少なくとも、ストリップサーチ事件の話を聞いて、「加害者は命令に従っただけだから悪くない!!」と全面擁護するくらいのことは考えただろうか?

もしもあなたが従業員から告発されたとする。

その時、あなたは犯罪者として全国に報道され、ネット上にはあなたの実名、住所など個人情報が書き込まれて、一生かけても再起不能な程のダメージを負うことになる。

その損害は、社内人事で冷飯し食らいにさせられたり、会社をやめて再就職したりするしんどさとは比べ物にならないくらい大きいものだろう。

その覚悟があなたにはあるのだろうか?

そんなリスクを背負ってでもアルバイトを搾取し続けるのだろうか?

それでもまだ「自分も本当はこんなことしたくない…」と言い訳を続けるのだろうか?

やりたくないなら、やらなければいい。

そして、自分を苦しめる会社のことを加害者として告発するべきである。

今なら、まだ間に合うかもしれない。

「被害者として会社を告発するのか? それとも自分が犯罪者として告発されるのか?」

それはこれからのあなたの行動次第である。

次回へ続く

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