無自覚にテレビドラマの悪役を担っている人たち

前回の記事では高校生のアルバイトを禁止している学校の奇妙な理屈を取り上げた。

一流大学を目指すために、とにかく勉強を精を出す学校はともかく、工業校や商業校のような学校までも、進学校の猿真似をして、「高校生は貴重な時間をアルバイトのような小遣い稼ぎに費やしてはならない!!」と言いながら、自らの長所を破壊している哀れな姿は滑稽であり、開いた口が塞がらない。

昨今、実業校は生徒数の確保に苦労していると聞くが、そんな学校が生徒から避けられるのは自業自得と言えよう。

その記事は結構長めの内容になったため、当初は紹介しようと思ったものの、割愛することになったエピソードもあった。

・生徒のことを考えない学校

前回の記事でも触れた通り、私が高校生の時、地元で明確にアルバイト禁止の方針を打ち出した学校が2校あった。

1校は地元でも屈指の進学校である。

このような学校が、学業の支障にならないよう学生にアルバイトを禁止することは分かる。

そして、もう1校は、私の一学年上が入学する代に2つの学校が合併した高校である。

この学校、商業校と普通校が合併して誕生した経緯があるために、建前では「多様な教育」を謳っているが、田舎の公立校にそんなご立派な教育など提供出来るわけもなく、かといって「進学校」を自称する程の高い学力を誇るわけでもない。

まあ、生徒が集まらず潰れかかった高校同士が合併したのだから無理はないが…

非エリートであれば、それなりに楽しい学生生活を送ることが出来たら良いのかもしれないが、この学校は、後にアルバイト全面禁止に舵を切る他の実業校に先駆けて、私が現役の頃からすでにアルバイトを禁止して、学生を勉強や部活動に埋没させていた。

つまり、「バカの先駆者」と言えるのだが、その動機は新設校にありがちなキモい「学校ナショナリズム」の発想が大きいようだった。

聞いた話によると、合併前は至って穏やかな学生だったものの、合併後は「規則」を重んじる校風(=事なかれ主義)に変わったことから、アルバイト禁止もその一環だったのだろう。

ちなみに、小中学校の同級生で、高校卒業後も付き合いもあるマサル(仮名)はこの高校に通っていた。

当然、彼もアルバイト禁止の身であるはずだが、冬休み期間中に当たり前のようにバイトをしていた。(しかも、私の身内が働いている会社で)

まあ、あの年代の子どもは「やるな!!」と言われても、やるものだから、「校則で定められているからバイトなんてやるはずがない」と本気で考えている方がバカなのかもしれないが…(笑)

彼は要領が悪く、隠れて悪いことをしたら、必ず見つかるタイプだが、幸いにもバイトをしている姿を学校関係者に見つかることはなかった。

そんな彼とは対照的に、運悪くスーパーでバイトをしていた所を学校関係者に見つかった同級生がいた。

ちなみに、彼はあまり家庭が裕福ではなく、卒業後の進学で、少しでも両親を楽にさせたいという動機でバイトをしていたという。

マサルによると、彼は校則違反ということで、その後、謹慎処分となったらしい。

前述の通り、その学校は合併を機に規則を重んじる校風に変わったため、勉強を怠りバイトなどやっている不届き者は問答無用に処分の対象となるのだろう。

彼らはそんなやり方を自画自賛して「自分たちは立派な学校」だと信じて疑わないようだが、その話を聞いた私は率直にこんなことを思った。

そのような生徒の事情よりも校則を優先する学校には、ぜひともドラマ、キッズ・ウォーに実名で登場して頂きたい。

そこで、生稲晃子演じる今井春子に

「規則、規則って、規則がそんなに大事なのかよ!? 」

「あんたらは、自分たちの責任を追及されることが怖いから、規則で生徒を縛ることしか考えていないんだろ!?」

「○○君は、不良なんかじゃなく、お父さんとお母さんに少しでも楽をしてもらいたかったから、バイトをしていたんだよ!!」

「そんな生徒の気持ちに寄り添ってあげるのが、教師の仕事じゃねえのかよ!? ええ!!」

と罵倒されて頂きたい。

そして、娘の茜(演:井上真央)に

「ざけんなよ!!」

と一喝されて、椅子を蹴とばされて、「な、な、な、な、なんでしゅか、あなたたちは?」と卑屈な顔で怯えている(悪)役を担って頂きたい。

本人は自覚してないかもしれないけど、彼らがテレビドラマに登場したら、れっきとした悪役である。

・悲しき見栄による借金

学校関係者ほど極端な悪者ではないが、同番組には家族の中で嫌な奴の役割を与えられる者もいる。

祖母の友恵(演:島かおり)と里香(演:宮崎真汐)である。

二人ともエリート志向が強く、元ヤンキーの春子や、勉強せずに遊んでばかりいる茜を見下している。

それだけにとどまらず、リストラされて主夫をやっている大介(演:川野太郎)に対しても、

「男が台所に立って、料理をするなんてみっともない」

「平日の昼間に買い物をしている姿をご近所や知り合いに見られたくない」

と小言をこぼし、大介が再就職として料理人になることを考えていることについても、断固として反対して、リストラ直後の彼が目指していた司法書士のような頭脳労働や出世の道がある仕事に就くことを強く望んでいる。

それに対して、春子や茜が

「男の人が家のことをやっても良いじゃないか!!」

「大介の人生なんだから、大介の好きなようにさせてあげましょうよ!!」

と反論して大ゲンカへ発展するのがお馴染みのパターンである。

彼女たちが、大介に主夫や料理人ではなく、頭脳労働や大企業で働いて欲しいと思うのは、率直に言うと見栄である。

一流大学を卒業して、大手企業で働いていた自慢の息子(父親)だから、周りから「凄いですね!」と尊敬される人であって欲しい。

そうじゃない父親など一家の恥以外の何者でもない。

実に嫌な奴である。

ただ、彼女たちは、見栄っ張りでも、愚痴を言うだけだから、まだマシな方なのかもしれない。

キッズ・ウォーと同じく、1999年に放送が開始されて、第5シーズンまで続いた昼ドラに「温泉へ行こう」という番組があった。

同番組については、かつてこの記事でも少し取り上げたことがある。

主人公の椎名薫(演:加藤貴子)が、幼い頃に別れた実母が大女将を務める旅館「蔵原」で働くことになるのだが、蔵原の経営は芳しくない。

蔵原の経営がここまで悪化した原因は、薫の兄にある。

兄はドラマ相棒の伊丹刑事役で有名な川原和久が演じ、バブル期に銀行の口車に乗せられて実家の旅館を担保に3億もの借金をしてリゾート開発に乗り出した。

だが、バブルの崩壊と共に事業は失敗に終わり、多額の借金だけが残り、銀行からは借金の返済が厳しいようであれば担保の旅館を差し押さえて、競売にかけると迫られている。

銀行の甘言があったとはいえ、筋金入りのバカ息子で商才などあるはずもない彼が、無謀な事業開発に乗り出した理由は、妻に対する嫉妬心からである。

彼の妻である悠里子(演:藤吉久美子)は蔵原の若女将を務め、接客、従業員の人心掌握共に申し分ない。

その上、美人であることから、姑である大女将の志津江(演:藤村志保)以外の、誰から見ても完璧な若女将であり、妻である。

敦志は、妻が輝く程、自分がいかに甲斐性なしのダメ夫であるかが身に染みて、バカ息子(夫)としてのコンプレックスはどんどん肥大化していった。

母の志津江が悠里子のことを頑なに認めなかったのも、そんな息子の心情を理解していたからである。

彼は妻に相応しい夫になるための一発逆転の方として、リゾート開発に賭けたのだ。

その結果、見事に大コケして、実家の旅館を失う寸前まで追い込まれている。

ろくでなしのバカ息子としての自分を受け入れて、大人しくしていた方が何倍もマシである。

こうして文字にすると、とんでもない大バカ者であるが、同じような過ちを犯す人間は現実世界にも珍しくない。

この記事を始め、奨学金について何度か取り上げたことがある。

奨学金の返済が滞り、生活苦に陥っている若者は多い。

中には、事故や病気、突然の勤務先などのやむを得ない理由で経済的に困窮してしまった人もいるのだろうが、そもそも、何の目標も、学力もない者が、借金をしてまで無謀な進学をしたことが間違いだったケースが圧倒的に多い。

彼らがそんな愚かな進学をした理由は、本人や家族が、進路未定のまま高校を卒業したり、名もなき地元の中小企業に就職することを恥じて、「とにかく、社会的に認められる肩書が欲しい」という動機だったりするのだ。

彼らも、自分の出来の悪さを薄々悟り、「一流大学に進学して、卒業後は公務員か大企業」というエリート人生を歩むことは出来ないと分かっているのだろう。

だからこそ、少しでも「普通」であるための肩書を欲するのだ。

そのために、破産覚悟で数百万もの借金を厭わないのだから、見栄や浅はかなプライドというものは本当に恐ろしい。

額は違えど、彼らもテレビドラマにブラックシープとして登場するバカ息子と何ら変わりない。

こんな連中を「フリーターよりもマシ」だと考える社会は、いい加減過ちを認めるべきである。

・まとめ

我々は映画やドラマを見る時は、主人公に感情移入し、ついつい自分を投影して、同一視してしまうことがある。

そして、悪役の言動にはついイライラしてしまう。

しかし、現実社会においては、自分がその役を担っていることが往々にしてある。

もちろん、自覚など全くなしに。

我々は誰しもが、日常ではドラマの悪役として振る舞っていることもあるし、逆に「悪役たちも私たちと同じ普通の人間である」という考えを常に認識していなければならない。

さて、本日取り上げたドラマはどちらも20年以上前の作品であり、若い人にとっては馴染みがなかったかもしれず、ピンと来なかったら、その点については申し訳なく思っている。

この歳になると、新しいものよりも、過去に親しんだ作品ばかり好んでしまう。

今年のゴールデンウィークは帰省も旅行もせずに、ずっと家で過ごしていたので、ネット動画ばかり視聴していたのだが、そこでも同じく20年以上前の作品ばかり目にしていた。

現在の作品を否定するつもりはないが、私も「老害」という名の悪役になりつつあるのかもしれない。

次回もゴールデンウィーク中に観た動画について取り上げることにする。

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