友達のために自分の夢や本当にやりたいことを諦めるのは友情じゃない

4月に入り2週間が経過した。

新年度を機に就職や進学した人は徐々に新生活に慣れてきている頃かもしれない。

だが、職場や学校に慣れてきても、「すでに気兼ねせず話ができる友達ができた」という人は多くないだろう。

新生活に馴染めないわけではないが、地元を離れ、知り合いがいない世界に飛び込んだ人はそのことを心細く感じるかもしれない。

そんな時に連絡したくなるのが、ついこの間まで、毎日のように話をしていた地元の友人たちである。

具体的なアドバイスを求めているわけでも、弱音を吐きたいわけでもないけど、ただただ声が聴きたい。

だけど、彼らは、地元を去って別の世界で生きることを選んだ自分のことをどう思っているのだろうか?

もしかしたら「自分たちを見捨てた裏切り者」と拒絶されるかもしれない…

そんな不安から、電話やメールを躊躇している人もいるだろう。

今日の記事はそんな人に読んでもらいたい。

・初めての親友

先ず、結論から言わせてもらう。

これはあくまでも私の意見であるが、たしかに、常に一緒にいることを「友情の証」だと思い、自分から離れた世界へ旅立つ人のことを「裏切り者」のように感じる人はいる。

だが、そのような人たちは「本当に友達なのだろうか?」

「自分がやりたいことを犠牲にしてでも、近くにいて自分を支えて欲しい」という考えは、人のことを都合がいい道具(玩具)としか見ていないのではないかと私は思う。

友達であれば、「自分の隣に居られなくても、その人に輝いて欲しい」と思うのではないだろうか?

それは決して、仕事としての成功や、社会から「立派な人」として認められる存在になることで知り合いである自分の価値も高めて欲しいというようなエゴではなく、相手の幸せを第一に考える「思いやり」から生じるものである。

今から20年ほど前、TBSの昼ドラで「温泉へ行こう」という番組が放送されていた。

その番組に今回のテーマに通ずるシーンがあるため、少し長くなるがその話をさせてもらいたい。

主人公である椎名薫(加藤貴子)は病死した母親から旅館「蔵原」の女将の座を引き継いだが、経営は上手くいかず、銀行は融資の条件として、総合職のエリートである三沢怜子(鮎ゆうき)を女将に就けることになり、薫は仲居見習いへ降格されることになった。

怜子が徹底的な合理化を推し進めた結果、蔵原は以前のような温かみある旅館ではなくなったものの、短期間で黒字化を達成。

支配人の武藤健司(田中実)や仲居たちも彼女を女将として慕うことになった。

その実績から、彼女は完全に薫を打ち負かしたと思い、自分の方針を無視して以前のように宿泊客のプライバシーに立ち入ろうとする薫を厳しく批判していた。

だが、怜子は一部の宿泊客や、彼女のかつての同期でライバルでもあったものの、銀行を辞め、蔵原で下働きをすることになった海堂慎也(神保悟志)が、優秀である自分よりも薫に好意を抱いていることがどこか気に入らない。

そんな時、銀行から呼び出された怜子は蔵原を廃業してゴルフ場を作ることを前提に、外資系ファンドへ売却する計画を聞かされる。

元々、旅館の経営に興味がなく、一刻も早く銀行へ戻りたかった彼女は秘密裏にその計画を進めようとした。

しかし、その計画がバレた彼女は、蔵原を自分の家のように思っていた支配人や従業員から「裏切り者」と糾弾される。

その日以降、仲居たちに無視されながら、黙々と仕事をする日々が続く怜子だったが、薫は「怜子にとっての銀行は、自分たちにとっての蔵原だ」と仲居たちに説明して、彼女を庇った。

そんな薫の優しさに触れ、海堂からも「それが薫という人間なんだ」と言われた怜子は、薫が「今まで友達など一人もおらず、常に誰かと競争して勝つことしか考えていなかった自分の遥か高みにいる存在」であることに気付いた。

そして、そんな彼女のことを、初めてできた親友であり、人を思いやる気持ちを教えてくれた恩人と思うようになった怜子は、銀行のエリートというキャリアを捨て、仲居見習いという立場になりながらも蔵原に残り、女将となった薫の隣で生きていくことを決意する。

・自分の居場所で輝くことが私への一番の応援

その後、怜子は慣れない肉体労働に苦戦したり、薫に言われた「人にはその人の居場所があり、その場所に立って初めて輝ける」という言葉にどこか複雑な思いを感じつつも必死に働いていた。

今はまだ蔵原の経営も不安定で、薫と結婚式を挙げる予定だった武藤が突然失踪したこともあり、自分がやりたいことを犠牲にしてでも、彼女の傍で支えることが「親友のため」と信じていた。

そんな時、学生時代の知人である湯川(三貴将史)が宿泊客としてやって来て、彼女にヘッドハンティングの話を持ち掛ける。

その仕事は彼女が銀行に勤めていた時からの夢だった「女性起業家への支援」であり、湯川は

「君ほどの経験とセンスを持っている人間が仲居の仕事をやっているのは勿体ない!!」

「君の力はもっと別の形で社会に役立てるべきだ!!」

と全力で彼女を口説く。

だが、怜子は

「今は社会のためじゃなく、椎名薫という親友のために働きたい」

「以前の私は誰かと競争することしか考えていなかったけど、これからは人と助け合って働きたい」

と言って湯川の誘いを断る。

その答えを聞いた湯川は「ますますウチに来て欲しくなった。いつでも待っているから、気が変わったら連絡して欲しい」と告げる。

湯川が去った後、彼から直にヘッドハンティングの話を聞かされていた海堂は怜子に「あの仕事は君がずっと昔から『やりたい』と言っていた仕事だったのに、本当に断って良かったのか?」と訊ねた。

怜子は湯川と話した時と同様に「薫は親友であり、今は婚約者の武藤がいなくなって辛い思いをしているからこそ、夢を諦めてでも、彼女の助けになりたい」と説明するが、その様子を聞いていた薫が二人の会話に割って入る。

「ダメだよ! そんなことされても嬉しくない!」

やりたいことを犠牲にして助けるなんて本当の友達じゃない!

「怜子さんが自分の居場所で輝くことが私への一番の応援なんだよ!

薫はそう言って、怜子に湯川の誘いに応じて、蔵原を卒業することを促す。

その夜、仲間たちは怜子のお別れパーティを開き、翌日、怜子は「すぐに里帰りするから見送りは要らない」と言って、颯爽と旅立って行った。

・本当の友達とは?

この番組が放送されていたのは20年ほど前であり、番組の公式サイトはすでに閉鎖されているが、第3シリーズまではこちらのファンページで登場人物やストーリーを目にすることができる。

ちなみに、前々段の話はシーズン2の出来事で、前段で出てきた湯川のヘッドハンティングの話はシーズン3 こちらのページに載っている。

先ほどの薫の発言のように、私も「友達だからこそ、やりたいことを犠牲にしてまで、自分の隣にいて欲しい」とは思わないし、「その人が自分の居場所で輝いていてくれることの方が支えになる」と思っている。

というわけで、冒頭で取り上げたような新生活を機に地元を飛び出したものの、「地元に残った友達と話がしたい」と思っている人は「地元を捨てた自分がどのツラ下げて彼らに連絡すればいいのだろうか?」と悩まずに、思い切って連絡を取ればいいと思う。

むしろ、新しい場所で頑張っていることや、「離れて暮らしていても友達のことを忘れていない」ことを伝えるためにも、連絡した方が良いと思う。

私もかつて遊び仲間が就職を機に次々と離れて行った時は孤独を感じていたが、もしも彼らから電話やメールを一年に一本でも貰えれば、たとえ会えなくても、つらい思いをせずに済んだのかもしれない。

もちろん、自分から離れたことを怨んでいる人もいるだろうが、そんなの人間は友達ではなく、仲良くしていた時も、あなたのことを「身近にあって、自分の寂しさを埋めてくれるための都合がいい道具」位にしか思っていなかったのだろう。

たとえ離れることになっても相手の幸せを願い、再会した時は以前と全く同じような付き合いができる間柄が友達である。

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