母親主体が前提の育児を批判するなら、夫に養われることが前提の結婚願望も批判すべき

先日、こんな記事を読んだ。

母子手帳「お父さんも育児を」に批判「母親主体が前提?」 こども家庭庁「誤解生じうる」…サイト掲載内容見直し: J-CAST ニュース【全文表示】

概要をまとめると

  • 7月末、東京都のある区の母子手帳に、1歳までの乳児期に関する育児の心得のひとつとして、「お父さん」や「手伝う」という「育児は母親主体が前提」と思える表現があると話題に。

  • 同じ内容を母子手帳に採用している地域が他にもあると判明し、こども家庭庁のウェブサイト「母子健康手帳情報支援サイト」でも当該文章が書かれていた。

  • こども家庭庁は「父親が育児において従たる立場かのように誤解を生じうる記載であり、いただいたご批判は真摯に受け止めております」と述べ、「お父さんも育児を」という項目は削除し、新に「共に子育てを」という項目を追加。

この記事を読んだ時は特に何も感じなかった。

「いちいち、こんな些細なことで文句を言うな!!」と思うこともなければ、こども家庭庁の文章も、男性の育児参加を促すだけ、尾道市が妊婦向けの文章に載せた(妊娠・出産後の)妻の嫌な態度」ランキングに比べればよっぽどマシであり、「役所がこんなことを書くとはけしからん!!」とも感じなかった。

市の妊婦向け文書に「妻の嫌な態度」ランキング掲載 批判で配布中止:朝日新聞デジタル (asahi.com)

このように、私にとってはすぐに忘れるであろう記事だったが、残念ながら、そうはならなかった。

・よくもこんな破廉恥な調査をできたな…

読み終えた後にホーム画面に戻ると、見出し一覧の下にこんな記事が表示された。

「ここに勤めてる人と結婚したい」ランキング、3位トヨタ、2位地方公務員、1位は?(@DIME) – Yahoo!ニュース

例によって、高収入で身分が安定している大企業と公務員がランキング上位を占めて、「立派な会社に勤めている人が理想の結婚相手」とみなされているらしい。

先日も、元サッカー日本代表の本田圭佑氏の羽生結弦氏の結婚へのお祝いコメントが物議を醸した。

「たくさんお子さんを」本田圭佑の羽生結弦祝福コメントが物議「昔の結婚式のスピーチ」「余計なお世話もいいとこ」(SmartFLASH) – Yahoo!ニュース

影響力があるとはいえ、社会や経済の専門家ではないスポーツ選手ですら、他人の結婚への口出しに対して、ここまで敏感になってしまうこのご時世に、堂々とこんな恥知らずでデリカシーがない調査をしたり、記事を書くことの神経には驚かされる。

こんな調査に少なくとも800人が答えたことにも感心する。

「自分たちがバカにされている」と思わないのか?

私がこんな破廉恥な質問をされたら、「それは私が、お金と肩書目当てで結婚する人間だと侮辱しているのか!?」と大激怒する。

そもそも、こんな調査をすることに何の意味があるのか?

「若者よ! 結婚したいのなら、この会社に就職せよ!!」とでも言いたいのか?

そんな不純な動機で就職されたり、仕事をされたら、名前を出された会社も迷惑するのではないか?

5年前に週刊SPA!が発表して抗議が殺到した「ヤレる女子大学生RANKING」と何が違うというのだろうか?

「週刊SPA!」ヤレる女子大生RANKING、1位〜5位の大学が厳重抗議「女性軽視」「名誉及び尊厳を損なう」|男子ハック (danshihack.com)

調査そのものも問題だと思うが、ランキングの結果も呆れる。

2位の地方公務員は違うかもしれないが、大企業勤務や国家公務員は全国転勤が宿命となる。

共働きの場合、配偶者が他の地方へ転勤になった場合、「自分も離職覚悟で相手の赴任地へ同伴するか、今の仕事を続けるために単身赴任をお願いするか」を悩むことになる。

その点を考慮すると、結婚後も仕事を続けたい人にとっては、そのようなリスクを抱える職業に就いている人が「結婚相手として理想的」といえるとは思えない。

(※:もちろん、結婚の動機は経済的観点だけではないのだから、「大企業勤めや国家公務員が結婚相手には適さない」と言っているわけではない。念のために)

そもそも、結婚相手に安定や高収入を求めること自体、自分にそのような能力が欠如しており、「その欠点を埋め合わせて欲しい」と言っているようなものだ。

つまり、「養ってもらうために結婚したい」というスケベ心が満載なのである。

以前、この記事で、「日本人女性は、パートナーの収入を自分のお金として扱う人の割合が世界一高い」という話をしたが、家計を支える意識の低さはこんな調査からも裏付けられている。

冒頭で紹介したこども家庭庁の件では、

「母親主体が育児の前提なのはけしからん!!」

「夫も子育てをする(「手伝う」ではない)のが当然だ!!」

と、「家事・育児を行う時間が先進国で最低水準」として悪名高い日本人男性に憤慨する人たちが登場した。

女性を育児の主体のように扱うことがけしからんのであれば、自身は稼ぐ気が全くなく、相手に養われることが前提で、夫のことを「給料の運び屋」くらいにしか思っていない女性も同様に批判されるべきではないのか?

・取り繕っても本音は隠せない

さて、先ほどの調査であるが、対象者は男女であり、タイトル、本文共に「女性が結婚相手に求める」という類の文言は一切ない。

それを根拠に

「いや、女性だけが結婚相手の職業を重視しているわけじゃない!!」

「『結婚相手に経済力と安定を求めている人=女性』という解釈自体が、偏見だ!! 差別だ!!」

と否定や逆ギレする(頭が悪い)人も出るかもしれない。

そのような方には、記事の見出しに使われている画像について問いたい。

もしも、下記のような写真を用いていれば、「男女公平」という主張にも頷ける。

新婚夫婦が手を取り合って、「これから二人で力を合わせて頑張ろう」という様子が伝わってくる。

だが、実際はどうだろう?

「ここに勤めてる人と結婚したい」ランキング、3位トヨタ、2位地方公務員、1位は?(@DIME) – Yahoo!ニュース ページ最上部より)

ウエディングドレスを着て、「さあ、今から結婚!!」ということは分かるが、写っているのは花嫁(とドレスを整えているスタッフの手)だけで、花婿の姿は見当たらない。

そして、理想の王子様と結ばれて幸せいっぱいと言わんばかりの笑顔で、顔が見えないダーリンを見つめている。(※:写真の選定を批判しているのであって、モデルの女性の容姿を貶しているのではない)

極めつけは「結婚相手として人気の勤務先は固定傾向…?」という画像下の説明文。

これはどう解釈しても、「結婚に胸を膨らませている女性=選ぶ側」、「顔が見えない花婿=ランキングで選ばれている側」と言っているようなものである。

こんな露骨な写真を用いていながら、「いや、男性に安定した勤め先を求めているわけじゃない…」という幼稚な言い訳が通ると思っているのだろうか?

このブログで何度か登場している「21世紀家族へ第4版 落合恵美子(著)有斐閣」という本がある。

その第7章では「記事や雑誌に掲載される図柄は、書き手と読み手の暗黙の前提が反映されている」ということが述べられている。

文章でどれだけ取り繕っても、そういった図柄に本心が薄っすらと透けて見える。

たとえば、70年代に発行された「クロワッサン」という雑誌では、それまでの家父長制、夫は仕事人間という結婚から脱却し、友達のように対等な夫婦関係を築くニューファミリーへ向けた雑誌である。

ところが、その広告として使用されている写真は、自転車をこぐ彼氏の背中に、彼女が笑顔で寄りかかるという構図だ。

そこには、どれだけ文章で「これからは男女平等の家庭だ!!」と主張しても、本音は「家庭」という自転車をこぐのは相変わらず男性で、女性は彼にもたれかかっているに過ぎないという本音がはっきりと表れている。

実際に70年代以降も、それまでのような男性主体の家庭が変わることはなかった。

このように、「たかが写真だよ」と侮ってはいけない。

・こんなオチを付けるのなら大賛成

先ほどの記事が投稿されておよそ10日が経過したが、こども家庭庁や本田氏の発言程大々的な話題にはなっていない。

これは、おかしな話ではないか?

少なくとも「やる気はある」こども家庭庁や、社会問題の専門家ではない本田氏があそこまで叩かれているのに。

調査そのものに対してもだが、前段で触れた「理想的な結婚相手の勤め先」というテーマと「笑顔に満ちた花嫁」の写真という組み合わせを見れば、「女性だけが男の勤務先を気にしているかのような印象操作は止めろ!!」と激怒することがフェミニストとしては当然だろう。

口では「男女平等」を叫びながら、自分たちが被害に遭う時以外は無視を決め込む、連中の思いやりと節操のなさには呆れる。

なお、記事のコメントには私の問題提起に近い意見が数件見られた。

ヤフコメに対して「民度が低い」、「ノイジーマイノリティ」とレッテルを貼ってバカにしている者も少なくないが、自称フェミニスト(クソフェミ)の人権及びジェンダー意識の欠如はそれ以下と言えよう。

ちなみに、私はあのような調査には批判的だが、

調査結果だけでなく、現実の厳しさを教えるデータも載せて

「甘ったれるな!!」

と一喝したり、肩書だけで結婚相手を選ぶことに

「恥を知れ!!」

とぶった斬る、もしくは、最後に本人の職業を質問して、理想と一致していなければ「なぜ、あなたはその会社に就職しようとしないのですか?」と問うのであれば、大賛成であることを付け加えておく。

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