
近年、多くの企業がカスタマーハラスメント(いわゆるカスハラ)対策に本格的に乗り出している。
カスタマーハラスメントに対する方針|経営の信頼を高めるために(コーポレートガバナンス)|サステナビリティ|企業サイト:JR東日本
トヨタ お問い合わせ・よくあるご質問 | ~お客様にご満足いただき、安心してご利用いただける対応を従業員が継続して行っていくために~ | トヨタ自動車WEBサイト
カスタマーハラスメントに対する基本方針|伊藤忠アーバンコミュニティ
MUFGカスタマーハラスメント対応ポリシー | 三菱UFJ銀行
背景には、過剰なクレームや理不尽な要求によって従業員が精神的・肉体的な負担を強いられ、離職やメンタル不調に繋がるケースが増えている現状がある。
特に接客業やコールセンターなど、顧客対応が業務の中心となる職場では、「お客様第一」という従来の価値観だけでは現場を守れなくなっている。
企業側も、従業員の安全配慮義務や人材確保の観点から、毅然とした対応方針の策定やマニュアル整備、研修の実施などを進めざるを得ない状況にある。
こうした流れを踏まえると、「カスハラ対策に取り組んでいる企業であること」を第三者が認定する仕組みを導入してはどうかと思う。
個人情報の適切な管理体制を評価する「プライバシーマーク」や、女性活躍推進に取り組んでいることを認定する「えるぼし認定」のように、一定の基準を満たした企業に認定マークを付与する制度があれば、企業の姿勢を対外的に示す指標となりうる。
採用活動においても「従業員を守る企業」であることをアピールできるほか、取引先や顧客に対しても、一定のルールのもとでサービス提供を行っていることを伝える効果が期待できる。
というわけで、今日は責任を持ってカスハラ対策を行っている企業を認定するマークの創設を目指す提案をしたい。
・カスハラ対策の共通基準

では、そのような認定マークを設ける場合、どのような審査項目が必要になるだろうか。
そもそも、認定マークの名称だが、
-
カスタマーハラスメント対策認定
-
カスタマーハラスメント防止認定マーク
-
Noカスハラ認定
-
カスハラ・セーフティマーク
などを思い浮かべたが、私のセンスではプライバシーマークのような定着しやすい名称は見つけられなかった(笑)
ここでは仮名として「カスハラ対策マーク」とすることにしよう。
このカスハラ対策マーク認定のためには、「自社がカスハラの被害に遭う場面」において、従業員を守るための具体的な取り組みが求められるわけだが、主な実施項目は以下の通りである。
-
カスハラ対策の基本方針の策定・公表
-
カスハラの定義および対応基準の明確化
-
現場対応マニュアルの整備
-
エスカレーション体制の構築(上司・専門部署への引き継ぎ)
-
対応記録・ログの管理
-
従業員による対応中断権限の付与
-
相談窓口およびメンタルケア体制の整備
-
定期的な研修・教育の実施
-
再発防止のための分析・改善(PDCA)
それぞれの項目について詳しく見ていく。
まず、「カスハラ対策の基本方針の策定・公表」だが、企業としてどのような行為をカスハラとみなし、どのように対応するのかを明文化し、社内外に示すことで、現場任せではない組織的な対応が可能になる。
また、顧客に対しても「どこまでが許容される範囲か」を示す抑止効果が期待できる。
次に、「カスハラの定義および対応基準の明確化」である。
単に「迷惑行為を禁止する」といった抽象的な表現ではなく、暴言、長時間拘束、過剰要求など具体的な類型を示し、それぞれに対する対応レベル(注意、警告、対応打ち切りなど)を定めることが重要である。
これにより、現場の判断のばらつきを防ぐことができる。
「現場対応マニュアルの整備」も欠かせない。
実際のやり取りの中でどのような言葉遣いや対応手順を取るべきかを具体的に示すことで、従業員は過度な心理的負担を感じることなく対応できるようになる。
特に新人や経験の浅い従業員にとっては、大きな支えとなるだろう。
さらに、「エスカレーション体制の構築」も重要である。
すべての対応を現場の担当者に任せるのではなく、一定の段階で上司や専門部署に引き継ぐ仕組みを設けることで、個人に負担が集中するのを防ぐ。
組織として一貫した対応を取るためにも不可欠である。
「対応記録・ログの管理」は、後からの検証やトラブル防止の観点で重要である。
やり取りの内容を記録しておくことで、事実関係を客観的に把握できるだけでなく、悪質なケースに対しては法的対応を検討する際の証拠にもなり得る。
「従業員による対応中断権限の付与」は、実効性のある対策の核心と言える。
どれだけ立派な方針やマニュアルがあっても、現場の従業員が「対応をやめてはいけない」と感じてしまえば意味がない。
一定の条件下で対応を打ち切る権限を明確に認めることで、初めて従業員を守る仕組みが機能する。
「相談窓口およびメンタルケア体制の整備」も不可欠である。
カスハラ被害は、対応が終わった後も心理的なダメージを残すことが多い。
安心して相談できる窓口や、必要に応じて専門家の支援を受けられる体制を整えることで、従業員の回復と定着を支えることができる。
「定期的な研修・教育の実施」によって、これらの取り組みを形骸化させないことも重要である。
カスハラ対応はマニュアルを読むだけでは身につかないため、ロールプレイングなどを通じて実践的なスキルを養う必要がある。
最後に、「再発防止のための分析・改善(PDCA)」である。
発生した事例を蓄積・分析し、マニュアルや対応方針の見直しに反映させることで、組織としての対応力を継続的に高めていくことが求められる。
このような共通基準を設けて、毅然と対応することでカスタマーハラスメントから従業員保護することを目指す。
・怠ってはいけない重大なこと

ただし、ここまではあくまでも「自社がカスハラの被害に遭った」場面についてである。
当たり前の話だが、カスハラの被害者が生まれるのは、加害者が存在するからである。
そして、その加害者とは、決して自分たちとは全く異質の異常者であるとは限らない。
時折、治安対策で「不審者や犯罪者は魔界のような自分たちとは隔絶された世界に住んでいる」という無意識の前提で、「いかに外敵の侵略から自分たちの社会を守るか」という見当違いの対策が見られるが、そのような加害者はあくまでも我々と同じ人間社会の住人である。
カスハラという言葉は一般に「顧客から企業・従業員へのハラスメント」を指すことが多いが、取引先や下請け企業、子会社に対して、優越的な地位を背景に無理な要求を押し付けてしまうこともカスハラである。
例えば、「この納期で対応してほしい」、「この価格でなければ発注できない」といった交渉自体はビジネスとして自然かもしれない。
しかし、それが相手の能力やリソースを明らかに超えたり、事前の取り決めに一方的に反するものであったり、断れば取引停止を示唆するような圧力を伴ったりする場合、それはもはや正当な交渉ではなく、れっきとしたハラスメントである。
また、「親会社の指示だから」、「ウチは大口の取引先だけど~」といった言葉も、受け手にとっては強い心理的圧力となり得る。
「カスハラを否定して、毅然とした態度で対応することを宣言する企業」であることの認定を受けるからには、当然、自社がこのようなカスハラの加害者であることも許されるはずがない。
したがって、企業自身が加害者とならないための自律的な取り組みも、審査項目として明確に組み込む必要がある。
具体的には、まず取引先に対する不当な要求を禁止する社内規程の整備が求められる。
価格や納期の設定においては、合理性と透明性を確保し、一方的な条件の押し付けとならないような仕組みを設けることが重要である。
また、発注や購買を担当する部門に対しては、優越的地位の濫用に関するガイドラインを周知し、逸脱行為があった場合の是正措置や懲戒規定を明確にしておく必要がある。
さらに重要なのが、外部からの相談・通報を受け付ける窓口の設置である。
自社の従業員向けの相談窓口だけでなく、取引先や委託先の担当者が安心して利用できる仕組みを整えることが不可欠である。
匿名での通報を可能にし、通報を理由とした不利益取扱いを厳格に禁止することで、初めて実効性が担保される。
可能であれば、第三者機関の関与を取り入れることで、より中立性の高い運用が期待できる。
加えて、「加害者にならないための教育」も欠かせない。
多くの場合、ハラスメントは明確な悪意というよりも、「これくらいは許されるだろう」「ビジネスだから仕方ない」といった思い込みから生じる。
これを防ぐために、典型的なNG発言や行動例を具体的に示し、それがなぜ問題なのかを理解させることが重要である。
そして、加害行為が認められたら、認定取り消し、3年間の再申請資格停止、さらに公式サイトで社名公表などの厳しい制裁を行う。
・彼らはきっと同意してくれるはず

このように考えると、「カスハラ対策マーク」とは単なる対策認証ではなく、企業の在り方そのものを問う制度であると言える。
顧客に対して過剰な要求を許さないと同時に、自らもまた立場の強さを濫用しない。この双方向の自律があって初めて、「ハラスメントのない社会」に向けた一歩となる。
カスハラ対策が広がる今だからこそ、「自分たちは守られる側である」という発想にとどまらず、「自分たちもまた誰かを傷つける側になり得る」という視点を持つことが重要である。
その視点を制度として可視化することこそが、本当に意味のある認定マークの条件なのではないだろうか。
公式サイトで威勢よく「弊社はカスタマーハラスメントには毅然と対応します」と宣言している一流企業の皆様はきっとこの提案に同意してくれるはずである。
加害者にならないための自戒も含まれるこのカスハラ対策認定マークに批准せずに、独自にカスハラ対策を打ち出すのは、「自社が被害者になることは嫌だけど、加害者としてやりたい放題する特権は手放さないぞ!!」と言っているようなものである。
他者の暴挙は厳しく批判するが、自分だけは例外いう意識は、カスハラと呼ぶのもおこがましい幼稚で最低な「いじめっ子」の発想と言えるだろう。









