前々回の記事で、「失業ネタは今後下火になる」とお知らせしたが、早くもその言葉に反して、失業ネタに近しい退職のテーマを取り上げさせてもらう。
・餞別の品は…
先月末に退職した職場は毎月理由を付けて何かと従業員向けのイベントを行っており、粗品や景品を渡されることも多かった。
そんな会社なので、退職する際に「餞別の品として何か用意してくれているかも…」と密かに期待していたが、そのような品は一切貰えなかった。
一応、会社(及び、私)の名誉のために言っておくと、彼らは決して私に意地悪をしていたわけではなく、元々そういうスタンスのようだった。
思い返すと、私が働き出して1ヶ月後に退職した派遣社員の方は勤続10年だったが、そのような長年勤続した人が退職する時でも、会社からは何も贈られていなかった。(それよりも私は「なぜ、派遣社員が3年以上同じ職場で働くことができていたのか?」という点の方が気になっていた)
餞別の品を貰えなかったことは少し残念だったが、私はそのことに対し、嫌な気持ちや恨みを持つことは全くなかった。
その理由は2つある。
ひとつは、私自身が菓子折りの類を一切用意していなかったからである。
別に会社への当て付けなどではなく、私はいくつもの職を転々としてきたが、これまで退職日に菓子折りの品を贈ったことなど一度もない。
自分は会社や同僚へお世話になったお礼を用意せずに、餞別の品だけを受け取ることは少し心苦しい気がする。
そういった事情を踏まえると、残念というよりも、「貰えなくて良かった」のかもしれない。
そして、もうひとつは、物は渡されなくとも、一人ひとりから別れを惜しむ言葉をもらったからである。
彼らから貰った言葉は「今日までありがとう」や「ご苦労様」といった誰に対してでも使える汎用性が高いものではなく、私の仕事ぶりを評価してくれたり、「あの時は本当に助かった」というように、私のことを認めてくれる言葉だった。
それなりに地位がある人からは
「次の職場で上手く行かなかったら、また戻っておいで」
「皆、歓迎しているから」
とまで言ってもらえた。
餞別の品はなくとも、その言葉を貰うだけで私は十分満足だった。
・今でも大切にしている物
前段でも述べた通り、私は過去にいくつもの職場を転々としてきた。
そのため、勤務最終日には同僚から餞別の品を貰うことも多かった。
「その中で、一番嬉しかった物は何だろう?」と考えて見ると、それは今回の退職と同様に、感謝と労いの言葉だった。
もちろん、物を貰って迷惑ということはない。
中身はどうあれ、辞める人間に対して、そのような品物を購入するために、わざわざ時間やお金を割いてくれていたことには頭が下がる。
だが、そのようにしてまで贈ってくれた物で、今でも大切にしている物がどれだけあるだろう?
お菓子は美味しいけど、一度食べたら無くなってしまう。
ハンカチなどの日用品はなかなか使うことが出来ず、未使用のまま収納している。
一方で、別れの言葉は私の胸の中にいつまでも綺麗なままで残っている。
この記事で、かつて同僚だった私と同じ年齢の女性の話をした。
彼女は親しかったもう一人の同僚と共に、餞別の品としてハンカチや入浴剤、お菓子を贈ってくれた。
この時は今までで一番多くの品を贈ってもらえたが、それでも私にとっては、退職する2週間前に、食事の席で彼女から掛けられた言葉が一番嬉しい贈り物だった。
あの時のことは3年以上経った今でも忘れることができない。
ちなみに、以前の職場は正社員、派遣社員にかかわらず当番業務があり、数日間休暇を取った時などは、「お世話になったお礼」としてお菓子を配ることが習慣になっていた。
私はそのような品を受け取ることも気が進まなかった。
同僚の穴をカバーすることも仕事の内だし、わざわざそんな物を配らなくても「あいつは人の世話になっておきながら、気持ちの印一つ用意できないのか!?」なんて一切思わない。
それよりも、次の機会で人を助ける仕事をすればいいのではないか?
もっとも、私も昔から、このように贈り物に固執しない考えを持っていたわけではない。
子どもの頃は、誕生日などの特別な日にプレゼントを貰うごとに一喜一憂しており、そのような品を贈ってくれることが、自分への愛情の証だと思っていた。
そして、達観した様子で
「特別な贈り物なんて要らない」
「気持ちだけで十分だ」
と宣言している大人が理解できなかった。
だが、気付いたら、自分もそんな大人の一人になっていたようである。
今から10年ほど前、当時20代前半だった私は、出勤前に車が故障したため、親に職場まで送ってもらったことがあった。
帰りも親に迎えに来てもらうことになったのだが、その時間は私の退勤時刻の1時間後になるため、迎えに来てもらうまで近くの大型ショッピングモールで待つことになり、60代の同僚男性であるシモヤマ(仮名)に車でその場所まで送ってもらうことになった。
彼は私よりも後に職場にやって来たが、その道で数十年の経験があり、仕事に対するプライドも高い男だった。
私はお礼の品として、職場の自動販売機にあるコーヒーを一本買った。
目的地に到着し車から降りた時、私は彼にそのコーヒーを渡したのだが、彼はとても迷惑そうな顔で「要らん!!」と言って、突き返した。
いかにも職人気質という「ツッパリ魂」と言えなくもないが…
当時の私は、「気持ちを込めた贈り物だから、受け取ってくれたらいいのに…」と思っていたが、今では彼のツッパリ魂がよく分かる気がする。
私の考えが他の人にも当てはまるのかは定かではないが、この記事を読んでいる方が、「退職する同僚に何を贈ったらいいか…」と迷っていたら、品物は何であれ、先ずは言葉を大切にしたらいいと思う。