私は先月末に前の職場を退社し、今月から新しい職場で働くことになった。
そこまで長い期間働いたわけではなかったため、退職日である3月31日に派手なお別れセレモニーなどはなかったが、忘れられない出来事が2つもあった。
だが、それは面白いことではあっても、決して喜ばしいことではない。
むしろ、それに遭遇したのが勤務最終日で良かった。
・あの有名CMの再現!?
退職の日、私はいつもと同じように出勤していた。
だが、電車を降り、職場へ向かって歩いていると、「もうこの道を通ることもないだろうなあ…」という少し寂しい気持ちになった。
そんな思いで、少し立ち止まって、それまでは全く意識しなかった景色を見渡して、今まで当たり前だった光景を目に焼き付けようとした。
すると、たまたま宝くじ売り場が目に入った。
今までは、ここで宝くじが売られていることなんて全く知らなかった。
そんな感情に浸っていると、そこに見慣れた人物がいることに気付いた。
その人物とは所属部署こそ異なるものの、同じフロアで働き、仕事でかかわることもある同僚だった。
つまり、私は偶然、同僚が宝くじを買っている様子を目撃してしまったのだ。
彼が私に見られていることに気付いたかは不明である。
それでも、私にとっては思わず「あ!?」と声を出してしまいそうな程、見てはいけないものを見てしまった気がした。
宝くじの購入自体は犯罪ではなく、ポルノメディアのように購入している所を知り合いに目撃されて、恥ずかしくなることでもない。
ただ、その人物は、職場では真面目な堅物として知られ、同僚が競馬やパチンコといったギャンブルの話に熱を入れている様子を見て「くだらない!!」と一蹴したこともあった。
そんな人物がこっそりと宝くじを購入して一攫千金を狙っているとは…
昔、柳葉敏郎と妻夫木聡(共に敬称略)が出演する宝くじ(ロト7)のCMがあった。
シリーズは5年間の長期に渡り、次から次へと笑える新しいストーリーが生まれる有名なCMである。
その第1話は、楽しそうに宝くじの話をする妻夫木を、上司である柳葉が
「興味ない!!」
「お前の夢は金で買えるのか?」
と切り捨てるのだが、後に購入している所を彼に目撃されるという話だった。
同僚が真剣な顔で宝くじを購入している様子がたまたま目に入った私は、思わずそのCMのことを思い出した。
ちなみに、その日は職場で彼と会話することはなかった。
もし、そんなことがあれば、「今朝、宝くじを買っていたでしょう!?」と周囲に聞こえるような大声でいじることはないにせよ(そもそもそこまで親しい関係ではなかった)、無意識に笑ってしまっていただろう。
彼の意外な姿を目撃したのが勤務最終日で良かった。
その後も一緒に働かなければならないのであれば、絶対にどこかでボロが出てしまいそうだから。
・あっちの方はすぐに流せそうで良かった
朝の宝くじの件だけでも、その日は忘れられない一日になりそうだが、餞別の(?)思い出は出勤後も提供してもらえた。
この記事で取り上げた通り、私は午後の業務に入る前に、必ずトイレで心と体を整えることが日課になっている。
その日もいつも通り、午後の勤務開始15分前にトイレに入った。
トイレに足を踏み入れた瞬間は、5つ並んでいる個室すべてに先客がいたようだが、すぐに一つの部屋から人が出てきた。
その人物は私の上司にあたる男性である。
知り合いが出た直後のトイレに入るのは少し気まずいが、他のトイレがすべて使用中だから仕方ない。
だが、私が部屋に入ろうとした瞬間、上司は物凄い形相でこちらを睨んだ気がした。
え!?
どうして!?
もしかして、すれ違った時に、気付かずに接触してしまい、謝らなかったために怒っているのだろうか?
それでも、普段の彼からは想像できない表情だった。
底知れぬ恐怖を感じながら、トイレに入った瞬間、私はすべての謎が解けた気がした。
彼が鬼の形相でこちらを振り返った理由は…
トイレを出た後に便器の水を流し忘れたことに気付いて、「ヤベエ!!」と思って振り返ったからなのだ。(あくまで私の推測だが)
しかし、時すでに遅しで、私が部屋に入ってしまったため、もう彼にはどうすることも出来なかった。
もっとも、流し忘れたといっても、お〇っこやウン〇のような排泄物は残っておらず、鼻でもかんだのか、数枚のトイレットペーパーが捨ててあるだけだった。
それでも、知り合いにトイレを流し忘れたことを知られた上に、残骸を見られたことは屈辱的な思いだったことだろう。
ちなみに、彼も翌月から別の職場に異動することになった。
もし、彼が同じ職場で働き続けることになったら、私が退職しても、「ひょっとして退職前に自分の秘密を同僚に言いふらされたのでは?」と怯えることになっていたかもしれない。(笑)
彼はトイレの水こそ流し忘れたものの、お互いにその職場では最終勤務日ということで、不安や気恥ずかしさはすぐに流せたことだろう。
・恥かしい過去
今回はうっかり出くわした他人の恥かしい話をしたが、実は私自身も退職日にやらかしたことがある。
数年前、事務の仕事をしていた時のこと。
短期の派遣ということもあり、普段から服装には全く気を遣わず、いつもヨレヨレのYシャツを着て働いていた。
だが、最終日は試着の意味も込めて、次の職場に備えて購入していたワイシャツを着て出勤することにした。
その時は隣の席の同僚も気付いたのか、「お!! 今日は随分といいシャツを着ているね!?」と声をかけてくれた。
その時は率直に褒められたのだと感じていい気になったが、帰宅後、洗濯機から取り出したシャツを干そうとしたら、襟の裏から開封前の形状保持用の用紙が出てきて唖然とした。
つまり、私は襟の中に台紙が入った状態で職場に行っていたのだ。
シャツも用紙も白であり、大きさ的に恐らくはみ出してはいなかっただろうが、「シャツを褒めてくれた同僚は、もしかしたら、それに気付いた上で、皮肉を込めてあんな言い方をしたのでは?」と疑心暗鬼になった。
私は恥ずかしさで心が苦しくなったが、同時に「何とかの恥はかき捨て」ではないが、「これが最終日で本当に良かった」と胸を撫で下ろした。
それ以降、私は気持ちが緩んでしまう最終日付近は一段と警戒するようになった。
お世話になった人には心がこもった挨拶をして、気持ち良く別れることが最高かもしれないが、先ずは安全第一である。