先週こんな出来事があった。
熊本・木村敬知事「一般事務や高校普通科は要らない」と発言 「不快な思いさせた」と陳謝 – 産経ニュース (sankei.com)
木村知事「事務職はいらない」発言 「訂正しておわびしたい」|NHK 熊本県のニュース
概要はこちら。
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20日に開かれた熊本県の会議で、同県の労働者不足がテーマになる。
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木村敬熊本県知事が、求人が多いのは医療や介護などエッセンシャルワーカーだが、就職希望者は事務職に偏っており、そのような仕事は将来AIが導入されることで減少する可能性も高く、就労のミスマッチが起きていることを取り上げる。
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その際に「一般事務とかはいらない。そういう若者を育ててはいけないんですよ」と発言。
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さらに教育長に対しても、「普通科なんかいらない」と言い放つ。
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22日になって趣旨を十分に伝えられなかったとして「訂正しておわびしたい」と陳謝。
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同日の記者会見で「事務職を無くすとか、県内の普通科高校を全廃するとか、そういうつもりはまったくない。教育福祉をしっかりやっていきたく、そういうエッセンシャルワーカーの人をもっと増やしたいとの思いでの発言だ」と釈明。
要するに・・・
「我々が必要としているのは、夜勤や土日出勤のような勤務形態でも、文句を言わずに現場で肉体労働をする者だけだ」
と言いたかったのだろう。
経営者であれば誰しも心の中で思っていることだろうが、袋叩きになることを想定して、絶対に公式の場では口にしないであろうことを県知事が発言するのだから驚きである。
そんな本音をバカ正直に堂々と告白する姿はある意味一貫しており、清々しさすら感じる。
もちろん、同意はしないけど。
・「自分は特別な仕事をやっている」という根拠なき前提
木村知事の発言を巡っては「職業差別だ」と批判されたが、同種のテーマについては、4月にこちらの記事で当時の静岡県知事である川勝平太氏の発言を取り上げたことがある。
川勝元知事はその後辞任したこともあり、彼の発言を擁護したり、賛成する者は皆無だったが、今回は木村知事が述べる「一般事務不要論」は正論とみなして、同意する者も少なくない。
この記事にも書いたのだが、この社会には、自らが就職活動を行う時は、年功序列や終身雇用を信じて、「『どんな仕事をするか』など全く考えず、ひたすら『いい会社(大企業)に就職する』」こととしか考えていないにもかかわらず、対AIの話になると、意味不明な意識高い系に変心して、「すぐにAIに取って代わられるような仕事をしてはいけない!!」と他人のキャリアプランの浅さを猛烈に(そして、嬉しそうな顔で)批判する不思議な(頭がおかしい)たちがいる。
入社時に職種が定められていないことが多い公務員や大企業の総合職は、本人の意に反して、スキルが身に付かない単純作業や、すぐにAIに代替される職務ばかり担当させられるリスクもあるわけだが、彼らの理屈が正しいなら、「そんな世界に自ら飛び込む者は愚かな情報弱者」ということになる。
だが、実際は公務員や大企業の正社員として安定した身分を手にした上で、そのように楽な仕事をしていたら、彼らは「ノルマに追われることもなく安定した生活を送れて、老後の安泰も保障されている!!」と羨ましがり、よだれを垂らして焦がれているではないか。
究極のダブルスタンダードであり、その変わり身の早さは木村知事の一貫した発言とは正反対だが、こちらも同じくらい清々しくて、爆笑ものである。
彼らには思想など微塵もなく、ただ他人の職業を貶めて、マウントが取れれば、ロジックなど何だっていいのだ。
また、「一般事務」という言葉は非常に幅が広い。
特に専門性がなく「どんな仕事をしているんですか?」と聞かれたら、「サラリーマンです」と(もしくは会社名を)答える人は、部署内で様々な事務仕事を掛け持ちしていることが多い。
「組織の調整という重要な職務を担っている」と思っている人もいるかもしれないが、それだって転職市場のような社会から見ると、貿易や会計、ITのようなイメージしやすい事務職でなければ「社内、または取引先企業とのローカルな関係性に長けただけで、掴み所がない事務仕事」すなわち「一般事務」ではないか?
つまり、「一般事務はいらない」という発言は、「サラリーマンはいらない」と限りなく同義なのである。
「あなたの仕事は何ですか?」と聞かれて、「サラリーマンです」と答える人は、一般事務不要論では共に粛清対象となる。
先述の川勝元知事の発言についての記事でも取り上げた通り、かつて私は野菜売りの仕事をしていたことがあり、異業種で職探しを行っていた際に面接の場で、その仕事を「何も考えずに突っ立って、やって来たお客さんの相手をするだけの仕事だ」と侮辱された経験がある。
その時の応募先は野菜の生産団体であり、まさに川勝氏に「頭を使わない」とコケにされて、「職業差別だ!!」とブチ切れていた人たちである。
このように、当人は他人の仕事を見下して「自分はあんな低レベルな奴らとは違う」と思い込んでいても、客観的に見れば目くそ鼻くその違いに過ぎなかったりする。
専門性もないルーティンワークに終始していながら、何の根拠もなく「自分は一般事務のような単純労働者ではなく、付加価値を生む仕事をやっていて、決してAIには淘汰されない」と思い込んでいるのも、AI万能論兼一般事務不要論者(=バカ)の特徴なのだ。
なお、「サラリーマンなんていらない」という主張にすら同意する過激派に対しては、もはや私から何も言うことはない。
そういう人たちに対しては、代わりに、普段は全然「味方」だと思っておらず、大嫌いなのだが、「正社員信仰者」の皆様に思いっきり大騒ぎして、大喧嘩をしてもらいたい。
・会社の中心で「自分はパワハラDV野郎です!!」と叫ぶ
事務職を見下す発言として、大真面目な顔でこんな理屈を展開する者もいる。
「事務職は金を産まないから、俺たち営業の稼ぎで食わせてやっているんだ!!」
初めてこの発言を聞いた時は率直に、
バカか、こいつは!?
と思った。
会社とは各々が業務分担しており、当然、材料を調達する人もいれば、生産する人、事務作業をする人、社内インフラを整える人、経営方針を立てる人などの様々な人によって支えられている。
営業もそれらの仕事の一つであり、材料を調達する人や生産する人が居なければ、お金を生む製品を作れない。
にもかかわらず、「なぜ自分(一人)が金を稼いでいる」と錯覚しているのだろうか?
そんなに自分が有能だと思っているのなら、自分の稼ぎを他の従業員に取られるような割りの悪い仕事を辞めて独立するか、社長に対して、「この会社は俺が稼いだ金で経営できているんだから、俺にはあんたより高い給料と地位をよこせよ!!」と啖呵を切ればよろしい。
「こんなに優秀な僕が会社を辞めたら、仕事が回らなくなるだろ?」みたいなドヤ顔をして。
自分は会社という組織に守られておきながら、「俺が食わせてやっている」と一丁前を気取るダサい姿は凄まじい小物臭がする。
先のような発言が出てくるのは、「自分はこんなに頑張っているのに、事務は楽(そう)な仕事をしていてずるい」という嫉みからだろう。
事務職は他の職種と違って、同じ事務所に居ることが多く、どんな仕事をしているか見えやすいから格好の標的になる。
もっとも、「そんなに羨ましいなら、あなたも事務員になったらどうですか?」の一言で解決するのだが。
加えて、「誰のおかげで飯が食えているんだ!!」という言葉自体が、収入面で劣る配偶者に対して、暴言を吐くDV男(女の場合もあり)の発想である。
もちろん、そんなDV野郎(ババア)だって、配偶者が家事や育児を無償で担ってくれているからこそ、社畜活動に専念できるケースが圧倒的である。
そのようなサポートを当然だと思って、「自分が稼いでやっている」と思い上がった発言をするのは、事務職に対する勘違い甚だしい妄言と瓜二つである。
そういえば、この記事に登場した某学習塾業界でバイトをしていた時の変態パワハラマネージャーも「コンビニのバイトはただの作業だけど、営業や客の呼び込みはお金を稼ぐ仕事だから、そういう仕事の方が価値がある」というキモいことをほざいていた。
というわけで、「事務職は金を産まないから、他人の稼ぎで食わせてもらっている」などと宣う人間は、「亭主関白宣言」ならぬ「DV野郎宣言」とみなせるので、皆さんは絶対に近づかないようにしましょう。
ちなみに、木村知事が「一般事務なんかと違って」必要としていた介護や医療従事者も、決してお金を産むことが目的の職種ではないこともお忘れなく。
・どこまでも迷惑をかける愚か者
最後に木村知事が元々取り上げていた「事務職の希望者が多過ぎる」という人材のミスマッチについて話をさせてもらいたい。
事務職の倍率が極端に高いことは事実だが、「求職者は事務職ばかり希望する!!」と憤慨したところで、この記事で述べた通り、それは当たり前である。
私自身が就業前に想像していて事実だったことや、実際に就業して感じた事務職の特徴はざっとこんな感じになる。
①:冷暖房完備で綺麗なオフィスで快適に働く
②:土日祝日は休日
③:仕事中でも自由に飲み物やお菓子を口にできる
④:包丁や電動工具などを使う危険な業務は一切なし
⑤:体への負担も一切なし
⑥:座り仕事なので、多少体調が悪くても無理なく仕事ができる
⑦:最終確認はすべて責任者が行うため、ミスは大ごとになる前に気付く
⑧:自分のペースで仕事を調整できる
⑨:自由にトイレへ行ける
⑩:仕事場やトイレの掃除のような雑務は業者へ外部委託
⑪:肉体労働よりも給料が高い
これらの条件を半分でも満たしている会社であれば、「人手不足!! 人手不足!!」と嘆いたりはしていないのではないでしょうか?
たとえ、採用枠が限られていても、こんなに恵まれた労働条件であれば、多くの人がそこを目指すことは何の不思議もない。
そんなこと、「この社会では大企業や公務員として働ける定員は限られている」と分かっていても、中小企業との労働環境の格差が激しいため、「自分の子どもには何としても、いい会社に入って、安定した人生を送ってほしい!!」と願って、子どもの意思に反して、木村知事が「いらない」と切り捨てた普通科の高校に通わせて、返せる見込みがなくても「奨学金」という名の借金を背負わせて、大学に通わせている(そう計画している)哀れな親御さんなら十分ご存じでしょう?
この記事でも取り上げたが、この国では、自分が劣悪な環境で働いていても、労働運動や市場からの撤退を通じて環境を改善するのではなく、子どもをいい大学に通わせて、大企業や公務員として就職させることで、自分も底辺からの階層移動を実現した気になる情けない大人が少なくないせいで、いつまで経っても労働環境が改善しない職種も多い。
だが、どうしても事務職の供給過剰を是正したいのであれば、「自分の子どもを通して階層移動する(厳密に言えば、「その気になる」)」という抜け駆けの発想から足を洗って、地道にエッセンシャルワーカーの労働環境を改善していくしかない。
まあ、それを邪魔をしているのは、この記事でも散々問題視した
「そんな仕事は誰でも出来るし、すぐにAIに淘汰される!!」
「お金を産む仕事じゃないから、給料が低くて当然!!」
とか言っている人たちなんだろうけど…
バカはどこまで行っても迷惑しか掛けない。
そもそも、彼らがこの社会に産んでいる価値って何かあるんでしょうかね?
「AIガー!! AIガー!!」と宗教のように崇拝するなら、まずは自分が体を張ってAIに淘汰される可能性が低い肉体労働の最前線で働くべきである。