野菜売りの仕事をバカにしているのは川勝知事だけではない

今月(20244月)の2日、川勝平太静岡県知事が辞職を表明した。

川勝氏は前日1日に県の新規採用職員への訓示で「県庁はシンクタンク。野菜を売ったり、牛の世話をしたり、モノを作ったりとかと違い、皆さまは頭脳、知性の高い人たち」と発言。

この発言に対して、職業差別との批判が殺到し、抗議の電話やメールは400件を超えたという。

川勝平太知事が辞職表明、静岡 「野菜を売るのと違う」に批判殺到:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)

このニュースを聞いてあることを思い出した。

・目くそ鼻くその争い

公人、しかも選挙で選ばれ知事が冒頭のような発言をしたら批判されるのは当然である。

しかし、残念ながら、そのような考えの人間は決して少なくない。

何を隠そう、かつて私は野菜売りの仕事をしていたことがあり、その仕事を無能呼ばわりされたことは一度や二度ではない。

具体的な話をしよう。

4年前の2020年、私がハローワークで職探しをしていた時の話をした。

前職を突然クビになった私は、何とかハローワークで野菜売りの仕事を見つけたものの、その職場はかなりの零細企業で、テナント先のスーパーの陰謀に巻き込まれて、ジワジワと内部崩壊が始まり、私も数ヶ月で退職した。

次の職探しはなかなか上手く行かず、何社受けても不採用が続いた。

その時、受けた面接でこんな体験をした。

相手は年配の男女3人だったのだが、その中の一人の男が踏ん反り返った態度でこんなことを言った。

「君みたいな人は、前の仕事みたいに何も考えずにお客さんの相手をする仕事の向いていると思うよ」

まさに、今回、川勝知事が言ったことと同じで、「野菜の販売は頭を使わない仕事」と言っているのである。

ちなみに、その時の私が面接を仕事だが…

青果物の生産と収穫だった。

つまり、川勝知事の発言を受けて、直々に抗議声明を出したような人たちである。

川勝知事発言は「農業者を愚弄」JAグループが県に声明文|NHK 静岡県のニュース

本人は「自分たちは販売のような頭を使わない底辺職じゃない!!」と本気で信じているのかもしれないが、川勝知事にとっては、目くそ鼻くその違いに過ぎない。

少なくとも、あの時のオッサンに今回の知事の発言を非難する資格があるのかは甚だ疑問である。

・無能だからブラックでも当然!?

続いては、東京へ出てきてからの話。

上京直後の私は派遣社員としてデパートで販売の仕事をしていた。

その職場で働き出して間もない頃、派遣元の社員がこんなことを言った。

「派遣社員だと、ボーナスや家賃補助もないから大変でしょう?」

彼は私が泣きべそをかきながら「そうなんですよ~😢」と言うことを期待していたのかもしれないが、全くそんなことを無かった。

東京へ出てくる直前の私は半年程アルバイトをしていたのだが、その時の職場はこの記事に書いた通り、たとえ正社員として雇われていても、時給換算にすると1,000円ちょっとの給料で、勤続30年の大ベテランでも、手取り25万円以下だった。

もちろん、ボーナスや家賃補助などあるはずもない。

ついでに退職金もない。(おまけに交通費もない)

その上、インフルエンザに感染した社員の休養すら認めず、出社を強要するのだから、病気休暇など言わずもがなであり、傷病手当の手続きを行ってくれるか、すら怪しい。

ちなみに、その仕事も野菜の販売だった。

上京前はそんなブラック企業で働いていたので、

「今の自分が貧しいのは派遣社員だからだ!!」

「正社員になればもっと良い暮らしが送れる!!」

と思ったことは一度もない。

問題なのは、前職の環境を伝えた後の、彼の反応である。

こんなブラックな職場だったため、てっきり「なんて酷い会社だ!!」と憤慨すると思いきや…

「それは、そんな会社にしか就職できない(=そんな仕事しかできない)自分が悪いよ()

「野菜売りのような仕事しかできない人間は、労働基準法無視のブラック企業で働いていても自己責任」だというとんでもない暴論。

ここまで非人道的な扱いを肯定されたら、「頭を使わない仕事」と言われる方が遥かにマシだと思う。

・自覚がない差別主義者たち

今回の川勝氏の発言を受けて、「職業に貴賎なし」という言葉が多く聞かれた。

貴い職業・賎しい職業というような格差などない、職業によらず労働はすべて貴い営みである、というような意味合いを込めて用いられる。

職業に貴賎なしの意味や読み方 わかりやすく解説 Weblio辞書

2022年に大学生向けの就職活動情報サイト「就活の教科書」が「底辺の仕事ランキング」なるものを発表したところ、ネット上で拡散され批判に晒された。

「底辺の仕事ランキング」批判集めた6つの問題点 “誰でもできる”の罪深さ、差別で片づけられず | 災害・事件・裁判 | 東洋経済オンライン (toyokeizai.net)

その時も、多くの批判と共にこの「職業に貴賎なし」という言葉が用いられた。

記事に対する批判自体は至って真っ当だと思うのだが、そのフレーズを聞くと、どうも不安になる。

なぜなら、「職業に貴賎なし」という言葉を用いて、「自分は差別なんかしない!!」と高潔な精神をアピールしていながら、その舌の根も乾かぬうちに平然と職業差別をする人間もいるからである。

以前、「恋人が欲しい!!」と懇願する人がお気持ちを表明する動画を見たことがある。

そこで、望む相手について、いろいろと答えていたのだが、相手の仕事についてこんなことを言っていた。

「『職業に貴賎ない』ので、どんな仕事をしていても、きちんと正社員として働いている方であれば問題ないです!!」

おい!

「職業に貴賎なし」と言いながら、早速、職業差別をしとるがな。

先ずはその差別意識を改めなくては、恋人など出来るはずもない。

また、「職業に貴賎なし」という言葉こそ使っていないものの、上京直後に、シェアハウスを探していた時にこんな人物がいた。

物件のオーナーであるその人物は、若い時に周囲の反対を押し切って就職しなかったり、多くの苦労をしながらも自分がやりたいことを貫いた経験があり、「今はシェアハウスの提供という形で、かつての自分と同じような若者の支えになりたい」という。

「お金がなくても、東京で夢を追う若者を応援します!!」

その志をサイトのトップページに掲げている程である。

しかし、そんなシェアハウスへの入居条件は…

「正社員の方、もしくは親御さんが正社員として働いてる学生の方」

「正社員として働いていない者は、信用できないから取引できない」という本音が丸出しであるにもかかわらず、「夢を追う若者を応援」などと綺麗事を並べるツラの皮の厚さには恐れ入った。

そもそも、あんただって若い時は就職していなかったではないか!?

川勝氏は発言は撤回しつつも、近いうちに知事を辞職するようである。

今回の彼の発言に対して「職業差別だ!!」と憤慨している方は、「自身も無意識に同じようなことをやっていないか」を今一度考えてみて欲しい。

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