1ヶ月くらい前にこんな記事を読んだ。
氷河期世代は「人生再設計第一世代」、政府検討会議で新たな呼称 地方への人材移動も検討(キャリコネニュース)
記事の内容は私には直接関係ないことかもしれないが、読んでいると複雑な思いが湧き上がってきた。
・高齢フリーターは地方で正社員になるべきなのか?
この国には1990年代から続く不況の影響で学校を卒業する時に正社員になる機会に恵まれなかった「就職氷河期世代」と呼ばれる人たちがいる。
これは90年代中盤から2000年代前半にかけて学校を卒業した人たちを指す言葉なので、彼らは2019年現在、30代後半から40代後半の人たちということになる。
2000年代前半までは、彼らが正社員になれないのは本人の意識の問題にされ、彼らはいずれ真面目になって正社員として働くものだと思われていた。
しかし、さすがに彼らが30代後半になった頃から、高齢フリーターの増加に危機感を持った政府は、彼らの支援策を行ってきた。
それでも根本的な解決には至っていない。
そんな中で出てきたのが、先ほどの「人生再設計論」である。
要するに、こんなことを言っているのである。
この考えの裏では
「東京でダラダラとフリーターを続けるくらいなら、地方で地道に働いて、家庭を持って、真っ当な人生を送りなさい!!」
と真顔で説教している姿が容易に想像できるが、彼らは「なぜ(就職氷河期世代に限らず)地方で働こうとする人が少ないのか?」を考えたことがあるのだろうか?
ちなみに、(2019年)現在20代の私はいわゆる氷河期世代ではない。
ただ、地元で正社員になる誘いを断って、東京で非正規労働者になることを選んだ私には「早く東京でのフリーター生活から足を洗って、地元で正社員になれ!!」というメッセージがとても他人事だと思えないのである。
だから、私はこの議論の当事者として参加する資格があると自負している。(もちろん、それは誇るべきことではないことは分かっている)
というわけで、今日のテーマは私が地元で正社員になる道を捨てて、東京で非正規労働者になることを選んだ理由である。
(なお、本題から外れるが、就職氷河期世代と地方生活の因縁は90年代からすでに始まっていたことである。そのことに関する記事はこちら)
※お願い
本来「フリーター」の意味はパートやアルバイトの従業員のことだが、今回は話の都合上、契約社員や派遣社員などの非正規雇用者全般を「フリーター」と呼ぶことがある。責任のある仕事をしている契約社員や派遣社員の方は違和感を持つかもしれないが、今回の記事で取り上げる人たちの頭の中は「非正規雇用者全般=気楽で無責任なフリーター」となっているので、どうか、ご容赦願いたい。
・地元の正社員よりも、東京の非正規労働の方が稼げる?
結論から言うと、私が東京で非正規の仕事を続ける理由は「お金のため」である。
今の私は東京に住んでおり、非正規雇用の身であるが、時給は1700円ほど頂いているので、何とか経済的自立を果たしている。
ここで少し、私が地元に住んでいた時の話をさせてもらいたい。
私は成人した後、「自立しなければ」と思っていたこともあったが、同時に「それは経済的には厳しいこと」だと悟っていた。
実家を出て生活した時もあったが、その時も完全に独立できるだけの余裕はなく、(一応、家賃は払っていたものの)親戚の家の間借りという形で生活していた。
以前の記事にも書いたが、地方にも正社員の仕事はある。
ただ、その給料では、とてもではないが、自分で家賃や食費などの生活費を払って、それから、地方では必須である車の維持費を払い、その上、(2000万だか、3000万だか知らないが)老後のための資金を毎月コツコツと貯めていくことなど不可能だと思った。
ちなみに私が「これなら経済的に安定した生活を送ることができる」と思える仕事の必須条件は次の3つである。
①:給料が手取りで20万(ボーナスは必須ではない)
②:完全週休2日(休日は土日にこだわらない)
③:定時退社が基本で、残業代は15分単位で支給
東京で生まれ育った人にとっては当たり前すぎて
とツッコミを入れられそうだが、私の住んでいた地方ではこの条件の仕事すら見つけることが難しかった。
・地方の正社員の現実
たとえば、私が東京に出てくる直前に働いていた職場を例にしてみよう。
私はバイトだったので、これは人から聞いた話に過ぎないことを断っておくが、その職場で正社員として働いた場合の給料は手取りで月に18万だと言われていた。
手取りで18万だとすると、額面では20~21万といったところか。
間を取って、月額20.5万ということで考えてみよう。
205000(月給)÷21.5(勤務日数)÷8(1日の勤務時間)=1192(時給)
というわけで、時給は約1200円になる・・・
と考えた人は甘い。
この計算式を聞いたら、その会社の社長は平然とこのように言い放つだろう。
大事なことなので、もう一度繰り返す。
そう。この手取り18万とは週6日勤務の場合の給料である。
つまり、実際の計算式は
205000(月給)÷25(勤務日数)÷8(1日の勤務時間)=1025(時給)
となり、時給換算では1025円となる。
ちなみに
と寝ぼけたことを言う人がいるかもしれないが、この会社にはボーナスや退職金、扶養手当などの給料以外の支給は一切なく、厚生年金と社会保険といった法律で義務付けられた最低限の福利厚生しかない。(交通費すら支給されない)
と思った人には、私が帰省中にそのバイト先へ顔を出した時の、パートのおばさんとのやりとりを見ていただきたい。
おばさん(失礼):「またここに戻って来てよ。今なら正社員にもなれるよ」
早川:「はい。今の職場と給料が同じなら、この職場の方を選びます」
おばさん:「今の給料はいくらなの?」
早川:「多い時で月に手取り25万(適当)くらいですかね」
おばさん:「それはここの店長よりも高いから、無理だよ(笑)」
早川:「ハハハ…」
ちなみにその店長は勤続30年以上の大ベテランである。
彼のように地方で何十年も同じ仕事を週6日勤務で続けている正社員よりも、私のように、ちょいと東京へ出てきて未経験の職に就いた非正規雇用者(完全週休2日)の方が給料が高いのである。
まるで、途上国に生まれた子どもが一生懸命勉強して、その国のエリート階級の職について得られる給料よりも、海外で出稼ぎの単純労働をする方が何倍も高い給料を稼げるのだから、真面目に勉強するのが馬鹿らしく思える話とよく似ている。
多くの人が地元の仕事に就かずに東京へ出てくるのは、「給料が低いだけでなく、将来への希望がない」からだと思う。
念のために言っておくが、この会社が特段に劣悪な条件だというわけではない。
ハローワークで仕事の検索をかけると、ほとんどは似たような条件の仕事ばかりである。
・地元で就職や結婚を勧める無責任なオッサン
とはいうものの、私は周囲の人に恵まれている方だと思う。
私は家も仕事も見つけずに東京に出てきたわけだが、両親からは「そんないい加減な生き方は許さん!! 地元で真面目に働け!!」と反対されたことはないし、逆に「ここにいても将来の希望が全くないから絶対に東京で成功しろ!!」とプレッシャーをかけられたこともない。
それから、先ほどのバイト先の人たちも、ブラック企業の経営者のように「若いんだから、給料が安くても、がむしゃらに働け!!」と言って人を貶めることなく、「ここで正社員になっても、今の仕事(東京での非正規の仕事)よりも高い給料は払えない」と正直に話してくれた。
その上、「この給料でいいならいつでも戻ってきていいよ」とも言ってくれた。
一方で、相変わらず頓珍漢なことを言う人もいる。
これは数ヶ月前に、5年ほど前に同じ職場で働いていた60代の男性から電話で言われたことである。(余談だが、彼はこの記事で一度登場している)
バカか、お前は!?
年上の相手に対して失礼だが、思わずこのように言いたくなった。
地元では自分一人が自立した生活を送れるだけの給料を稼ぐことすら難しかったから、東京で非正規の仕事をしているのに、なぜ、それ以下の給料しか得られない仕事で働いて、結婚して家族を養うことができると思っているのだろうか?
悲しいかな、「地方で正社員になれ!!」と気安く言っている人は、くだんの「人生再設計第一世代」なるものを考えた人にせよ、このオッサンにせよ、この程度の認識なのである。
そこまで地方で働いて欲しいなら、「私が先ほど挙げた3つの条件を満たす仕事を紹介してくれ!!」と言いたいものである。
事実、その仕事を地元で見つけることができたら、私は上京などしなかった。
もしくは「地方は経済が疲弊しきって、多くの企業が、月20万の給料すら払うことができない」と主張するのであれば、家賃や車の維持費を税金で補助してもらって、それ以下の給料でも生活できるようにしてもらいたい。
そうすれば、少なくとも私は地元に戻る。
このような現状から目をそらして「いつまでも東京でフラフラしてないで、地方で真面目に正社員として働け!!」というメッセージを発する人がいかに無責任なことかお分かりいただけたと思う。
・東京はストレスフルな環境だが・・・
私は東京で働くことが生きがいだとは思わないし、永住するつもりもない。
家賃は高いし、電車の混雑はひどいし、おまけに道路や電車の中ではマナーの悪い人が多い。
たとえば、列に並ばなかったり、電車が満員にもかかわらず無理やり乗り込んだり、一言も声をかけず人の背中を押し除けて進もうとしたり、赤信号でも一人が渡り出すと、それに釣られて一斉に信号無視で歩き出す人たちを見た時は
何? このバカ達!?
どのツラして爆買い*国人観光客のマナーの悪さを批判できるんだ!?
と思った。(もちろん、東京に住んでいる人にも、ルールやマナーを守る人はたくさんいる)
このように東京にいると常にストレスを感じて生きることになるのだが、それでも生計を立てることができる仕事があるだけマシだと思って生活している。
・金は出さないが口は出す
最後に、先ほどの説教おやじについて補足させていただきたい。
彼は私と一緒に働いていた時から、安月給でも、看護師の奥さんと力を合わせて、娘二人を育てて、嫁に出したことを自慢気に語っていた。
ちなみに、娘二人は家計を考えて高卒での就職を希望していたが、彼が半ば強引に大学と短大へ進学させた。
しかし、その学費は親である自分が工面できずに、奨学金を借りて、本人たちに返済させて、結婚後は娘婿に返済を肩代わりしてもらっているらしい。
随分とご立派な自立した社会人ですねえ。
私も彼と同じような人な、迷惑をかけても、それを当然だと思うような神経があれば、もう少し楽に生きていくことができたかもしれない。
これは無責任な人間の共通点なのだろう。
地元へ戻って就職、結婚することをしつこく勧めるオヤジとの決着をつけに行く①
(お金以外に私が地元を捨てた理由を説明している)