西日本の田舎で働いていた東北出身の店長の話

先日、仕事中に同僚がこんな話をしていた。

同僚A「昨日、久しぶりに実家の親と電話で話したんだけど、また『早くこっちへ帰ってこい!!』っていう説教ばっかりでウンザリだよ!!」

同僚B「そういえば、Aさんってどこの出身なんですか?」

同僚A「○○(東北の某県)だよ」

それを聞いた時に今日のテーマが思い浮かんだ。

私は、そこを訪れたことは一度もないが、そこの出身者と共に働いたことはある。

一人は、この記事で紹介した上京後最初に働いた職場の社員A(仮名)。

そして、もう一人が今回の主役である。

・夫婦で同じ職場で働く

その人物は地元で最後に働いた職場の店長だったノムラ(仮名)という名前の男性である。

社員Aが上京後最初に働いた職場で出会った人物に対し、彼は上京前最後に働いた職場の上司というのも奇妙な因縁を感じる。

ノムラと初めて会ったのはバイトの面接時だったが、正直なところ、彼は私より年上なのか、年下なのか分からなかった。

茶髪でピアスという若者風の外見だったが、同時に年齢から生まれる貫禄のようなものも感じた。

そして、何よりも、私が学生時代に親しくしていた同級生とよく似ている風貌だったため、名前を聞くまでは「もしかして、あの人(元同級生)なのでは?」と思いもした。

結局は別人だったが、年齢は最後まで分からなかった。

さて、彼の下で働くことになった私が感じたのは、「彼はとても人当たりが良さそう」だということ。

先ず、私のことを「今まで見たパートやバイトの中でもトップクラスに仕事ができる」と認めてくれた。

また、常連客や他のテナントの従業員といつも親しく話をしていた。

そして、彼の妻も同じ職場でパートタイマーとして働いていた。

この記事で紹介した同じ職場で働く夫婦というのは彼らのことである。

彼らにはすでに子どもが一人いて、彼女がもう一人の子どもを身籠っていることも聞かされていた。

ちなみに、彼は元々、アルバイトとして働いていたが、後に社員へ登用されたらしい。

・どのような経緯でここへやって来たのだろう…

周囲の人間と良好な関係を築き、妻と同じ職場で働き、バイトとして入社した会社で正社員になる。

そんなノムラの姿はまさにこの記事で紹介した「地元型」の生き方に見えた。

だが、冒頭でも触れた通り、彼は東北地方の出身だったのである。

これまでも東京や大阪のような都市部で暮らしていたらしいが、どのような経緯で私の地元へ流れ着いたのだろうか?

私が住んでいた県の県庁所在地はそれなりに栄えている。

私が上京後にその県の出身であることを告げると「わざわざ東京まで出て来なくても、地元にも仕事はたくさんあるでしょう?」と驚かれることも少なくない。

しかし、私の地元はそのような都市部からおよそ50km離れた場所にある田舎町である。

私たちの勤め先は全国の学生が新卒採用で就職を目指すような企業ではなく、彼もアルバイトとして働き始めたわけだから、わざわざ就職のために他所から出向いたとは考え難い。

劣悪な労働環境に耐えかねての脱走が度々話題になる外国人実習生のように、別の場所で暮らしていた時にリクルーターから「いい仕事ありますよ」と誘われてやって来たが、脱走して、アルバイトとして食い繋いでいた可能性もあるが、私が思いつく限り、地元には大人数の労働者を抱え込めるような働き口は存在しない。

そんなことから、彼が以前からそこに住んでいたことは想像できるが、詳しい経緯は不明である。

というのも、この記事で書いた通り、私は働き始めてわずか2週間で別の店へ異動となったため、彼と共に働く時間もすぐに終わりを迎えた。

その後は週一で彼の店を掛け持ちで働くこととなったが、その日は彼が休みであるため、開店前に見回りにくるわずかな時間や電話でやり取りをすることくらいしか接点はなかった。

彼が東北地方の出身だと聞かされたのも随分後のことだった。

・店長の裏の顔

私の目には、ノムラはとても気さくで人が良いように見えた。

だが、次第に別の一面も知ることになった。

転勤先の主婦パートの人たちが彼のことを快く思っていなかった。

私が転勤して半月ほど経過した時、ノムラが私の勤務先へ商品運んできたことがあった。

彼は品物を冷蔵庫へ保管した後、私たちの店長に向けてこんなことを言った。

ノムラ:「それでは、ちょっと売り場を覗かせてもらいまーす」

店長はそれを快諾したが、彼が売り場へ出た後、パートのおばさんが彼の発言に嫌悪感を示した。

パートのおばさん:「本当にうっとうしい!! 早く帰ればいいのに!!」

その発言を聞いた私は驚いたが、他のパート女性も彼女の発言に同調していた。

数ヶ月後、その理由が少し判明した。

その頃になると、私がノムラの店へ週一でヘルプに入ることになっていたが、たまたま私が休みの日に彼も休みを希望したことがあった。

その結果、他の誰かが彼の店で働くことになったのだが、そこでこんなやり取りがあった。

パート女性A「そういえば、Bさんは前にアイツと仲良く話をしていたから、行ってあげたらいいじゃないの?」

パート女性B「いや、だってあの時はまだアイツの本性を知らなかったんだもん!!」

そのやり取りを聞いた私は後日、Aに「そういえば、あの時~」と先のやり取りを今しがた思い出したフリをして、彼女たちがノムラを嫌う理由を尋ねることにした。

Aによると、半年ほど前に勤務先の店舗が新規開店した時はノムラが応援に来ることがあったらしい。

その時の彼は彼女たちに対して、私に見せた対応と同じような温和な態度で接していたが、店長や他の社員と二人きりになった時は、未経験で仕事の要領を掴んでいなかった彼女たちの陰口を言っていたようである。

それが、彼女たちの耳に漏れ伝わって、ノムラへの不信感が生まれたらしい。

そして、今度は彼女たちのノムラに対する感情が彼にも伝わり、以降、両者は犬猿の仲になったそうである。

たとえば、私が彼女たちからは

「早川君、前の店ではあの店長にいじめられていなかった?」

と聞かれたことがある。

一方で、ノムラからは

「今の店でおばさんたちにコキ使われてない?」

と心配されたこともある。

それくらい、両者はお互いのことをまるで悪魔のように認識していた。

私には、どちらも悪い人には思えなかったが…

・衝撃の結末

私がノムラと共に働いたのはおよそ2週間で、その会社自体にも半年しか在籍していなかったため、彼と身の上話をする機会は多くなかった。

しかし、意外にも事の顛末を見届けることはできた。

私が退職する半月前、同じ職場で働いていた正社員が翌月からノムラの店へ異動することになった。

ノムラの店は店長の妻が出産のために退職し、彼女の後釜となるパート女性もすでに働いていた。

そこに、正社員である彼が異動するということは、ノムラがその店を去るということであることは容易に想像できた。

妻の出産に合わせて、彼も職場を離れるとは、もしかして育児休暇だろうか?

まさか、正社員であってもボーナスや退職金がなく、年末調整すらやってくれない会社にそんな福利厚生があるとは思えない。

私にとってそれは大きな謎だったが、数日後、店長がこんなことを言った。

店長:「ノムラは離婚して仕事も辞めるよ」

ええ!!

その話を聞いた私は思わず声を出してしまうほど驚いた。

彼はつい先日まで、妻と仲良く一緒に働いており、近々2人目の子どもも生まれてくる予定である。

にもかかわらず、仕事も家族も捨てるとはどういうこと!?

店長の話では、彼は妻と二人だけでは仕事が回らないため、増員を求めていたらしいが、社長は再三にわたる要望を拒否し続けたため、彼は休日も職場へ来ざるを得ないことが多かった。

そんなイライラが溜まってか、家では妻や子どもに当たることがあったらしい。

そして、年末の繁忙期にインフルエンザに掛かったものの、休ませてもらえなかったことで社長への怒りが爆発。

退職を決意し、そのことを妻に話したことで離婚へと向かうことになった。

本当はすぐにでも別れたかったが、さすがに、出産直前の妻を一人置き去りにすることは躊躇したため、数ヶ月後に正式に離婚する予定となった。

その後は東北の実家へ帰るつもりだと言った。

「離婚して地元に帰る」というのは妻の側から聞かれる言葉である気がするが、彼らの場合は、妻の地元で住んでいたため、田舎へ戻るのは彼の方である。

私と共に働いていた時のノムラは、家族とも、職場の仲間とも良好な関係を築いていた。

そんな彼がおよそ半年で、仕事も家族も失うとはまさかの展開だった。

彼が退職した後、私も仕事を辞めて、上京することになったわけだが、上京後、初めて帰省した時に、かつての職場を訪れた。

その際に、店長へノムラのことを尋ねたが、彼が職場を去った後は一切の連絡がないらしい。

彼はどのような理由があって、東北地方から、縁もゆかりもない私の地元へ来ることになったのだろうか?

そして、今は一体何をしているのだろうか?

私の携帯にはまだ彼の電話番号が残っているが、連絡する気にはなれない。

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