・マクドナルドの仕事は大変!?
前回の記事のテーマはマクドナルドで働く高齢者への偏見の眼差しだった。
本人は前向きな気持ちで働いているというのに、なぜこの社会は現場で肉体労働をする高齢者をこうも哀れみの目で見てしまうのだろうか?
その理由を私なりに3つ挙げた。
①:肉体労働者への蔑視
②:「高齢者は年金だけで生活できるはず」という幻想
③:「男は妻子を養えてこそ一人前」という家父長制
無意識の内にそんな価値観を有しているため、そのような仕事をしている人を見ると、痛い目で見てしまうのである。
ちなみに、主題はあくまでも「アルバイトとして働く高齢男性」で、彼の職場がたまたまマクドナルドだった。
しかし、投稿直後に偶然にもこんなネットで記事を見つけて、同じようにマクドナルドで働く人への自覚なき偏見が垣間見えた。
企業を辞めてマクドナルドで働き始めた女性、シフト1 日目でつらくて大号泣 – フロントロウ -海外セレブ&海外カルチャー情報を発信 (front-row.jp)
内容を要約すると、
・イギリスに住む女性が「外に出たい」という理由から在宅勤務の仕事を辞めてマクドナルドの店員に転職。
・在宅勤務か出社かハイブリッドか、どれが合うかは人それぞれで、彼女は外に出たほうがモチベーションが上がると感じていた。
・勤務初日、彼女は出社前から1日の終わりまでを動画で撮影した。
・最初は新しい仕事が楽しみだという様子だったものの、動画が進むにつれて顔は曇っていき、勤務終わりには大号泣。
・号泣の理由は仕事量に加えて、接客で相当嫌な思いをしたため、「家の外へ出ていくほうが確実に気分は良くなるけど、仕事は長いし人が嫌い」とも説明。
・彼女がシフト2日目も現れたかどうかは不明。
記事の内容については特に驚かない。
私もかつては、「誰にでもできる」と言われることが多いコンビニの仕事で働いたものの、研修初日で早くも辞めたくなった経験がある。
かろうじて、2ヶ月ちょっとは続いたが、結局こんなことになったのだから、迷わず初日で退職すればよかったと思っている。
きっとマクドナルドも同じように大変な仕事だったのだろう。
・その仕事も「企業で働く」ことでは?
さて、先の記事で私が驚いたのは、タイトルにある「企業を辞めてマクドナルドで働き始めた女性」という言い回しである。
もしも、彼女が勤め先を退職して、ウーバーイーツのような個人事業主として働き始めたというのであれば、そのタイトルには納得できる。
だが、彼女が新しい仕事として選んだのはマクドナルドの店員であり、その仕事もれっきとした「企業で働くこと」ではないのか?
にもかかわらず、なぜ「企業を辞めて」なんて言い方をするのだろうか?
通常の転職では、そんな言い方はしないだろう。
「マクドナルドはまともな企業ではない」とでも言うつもりなのだろうか?
もしそうなら、マクドナルドへの名誉棄損級の爆弾発言だが、転職先が同じマクドナルドでも、管理職や事務職だったら、同じように「企業を辞めてマクドナルドで働き始めた」などと書いただろうか?
そんなところに、「マクドナルドの店員という仕事をどう思っているのか」が薄っすらと透けて見える。
しかも、以前の仕事は在宅勤務であることは明かされているが、どんな会社で、どんな仕事をしていたのかは一切取り上げられていない。
にもかかわらず、なぜその会社は立派な仕事をしていた「企業」であるかのような前提で話をしているのだろうか?
そこには「よく分からないけど、とりあえず、マクドナルドの店員よりは立派な仕事のはず」という本音を感じる。
そもそも、「企業」という言葉には単なる「会社」や「勤め先」以上の意味が込められている気がするのは私だけだろうか?
「ただ仕事をする場所ではなく、責任を持って所属し、一生のすべてを捧げる場所」、それが「企業」であると。
表現がストレート過ぎて、不愉快に感じる人がいることを承知で書かせてもらうと、「マクドナルドの店員の仕事など何の責任もマニュアル作業だから、それは『企業で働く』という言葉に値しない」とでも思っているのだろう。
彼らにとって、「マクドナルドで働く人は、たしかに会社に雇われているけど、企業には雇われていない」のである。
・いや、就職しとるやん!!
同じように、厳密に言えば該当するが、個人的な偏見で勝手に特定の人たちを除外することに「正社員」という不思議な概念がある。
以前、こんな記事を書いた。
私は高校生の時に、周囲の大人から「ゆくゆくはちゃんと『正社員』として就職しなさい!!」と言われ、当時は「ああ、毎度お馴染みのフリーターバッシングをしているのね」と思っていた。
だが、その「正社員」という言葉は「世間に名の通った大企業の正社員」の意味であり、たとえ正社員であっても、私の地元にある従業員10人程度の小規模な会社で働く人は「正社員」とみなされていないことを後に知った。
実際にそのような会社でバイトをしていた時に、社長がある正社員のことを「彼は大学生の時にここでバイトをしていたけど、卒業の時にどこにも就職できなかったから、そのままここで働いている」と言っているのを聞いたことがある。
思わず、「いや、彼はちゃんとこの会社に就職しとるやん!?」とツッコミを入れたくなったのは言うまでもない。
こうして、改めて文字にすると不思議な感じがするが…
それじゃあ、田舎の零細企業で正社員として働いている人の立場って一体何よ?
正社員であっても、「正社員」ではないのだから、「幽霊正社員」か?
それとも、もっとえげつない言い方で「二等正社員」とでも呼ぶつもりなのだろうか?
表立って口にはしないが、彼らはそのように思っているのである。
今回の「企業を辞めてマクドナルドで働き始めた女性」というタイトルも、同じように、そんな無意識な差別意識が表れたのだろう。
下記の文章は記事の内容の抜粋である。
これは一般論を述べているのかもしれないが、その敬意の払われなさは記事のタイトルに表れている気がしてならない。
ちなみに、記事のタイトルというのは読者の気を引くために、間違いなく読み手の反応を意識して作られる。
そして、現時点では、その記事に対する表立った抗議活動などは起きていない。
従って、「マクドナルドで働くことは企業で働くこととみなさない」というのは編集者の個人的な偏見などではなく、その価値観を共有する人間が少なくないという社会の病理を表しているのかもしれない。