12年で20回以上転職した男が感じる短期の仕事で働く時の心地良さ

今から1ヶ月程前にバックレをテーマにした記事を投稿した。

その記事では過去4件に渡る私のバックレ体験談()を紹介したが、その記事を読んだ人が感じたことは様々だと思う。

「社会人としてあるまじき行為だ!!」

と反発した人もいれば、

「そのようなことをしたのは自分だけじゃなかったんだ…」

と安堵した人もいたことだろう。

今回の記事は後者の反応を示した人からメールを頂いたことがきっかけで生まれた。

(※:念のために断っておくが、その記事で私が「バックレ」として扱ったのは、あくまでも「即日退社」のことであり、無断欠勤や音信不通で会社を去ったことは一度もない)

・高卒12年目で経験した職場は20社以上

私にメールを送ってくれた人物の名前はカワサキ(仮名)。

西日本の大都市で暮らしている30歳の男性である。

これまでの彼の人生を語る上で最大の特徴は仕事が続かないことである。

彼は高校を卒業して仕事を始めたので、数え年では今年が12年目になるが、その期間に入退社した職場は20を超える。

彼がこのブログを定期的に読むことになったきっかけも、プロフィールを読んで、私がこれまでいくつもの仕事を転々としてきたことを知り、親近感を持ったからである。 

これまで就いてきた仕事の約1/4は契約期間の満了、もしくは雇用主都合による解雇だが、残りの3/4は自己都合で退職した。

彼が20代の時に、勤続年数が1年を超えた職場は2社のみであり、最後に1年以上同じ職場で働いたのは23歳の時である。

ちなみに、勤続半年以上の職場(1年以上続いた2社を除く)は5社で、ここ3年はすべて半年未満で退職している。

そんな人生を送っているためか、バレンタインデーの義理チョコにまつわる記事を読んだ時にふとこんなことを思ったらしい。

カワサキ:「そういえば、俺はここ5年間、バレンタインの日は無職だったなぁ…」

私もその日は職に就いていないことがあったため、それを聞いた時は思わず笑ってしまった。

また、2019年は当時10連休だったゴールデンウィーク期間中に「そういえば、俺がゴールデンウィークに職に就いているのは4年ぶりだな…」と感じていたらしい。

それくらい、彼の職歴は無職の期間が多い。

だが、20以上の職場を転々としていることから分かるように、彼は決して働く気がないわけではない。

・放浪人生のきっかけ

カワサキが高校卒業後に就職したのは地元の文房具店である。

その店は中小企業であるが、地元では比較的有名な会社であり、彼も学生時代に客として利用していたことがある。

その会社は3年ほどで退職することになったが、結果的にこの仕事が今の彼にとって最も勤続年数が長い職場となった。

ちょうど彼が入社した年から経営が悪化し、彼に限らず、これまで正社員には定期的に支給されていたボーナスも雀の涙ほどになり、翌年からは完全に廃止された。

それだけで済むのなら、まだマシだったのかもしれないが、業績悪化により、次第に社長や上司のイライラをぶつけられることが増えた。

そして、遂に彼の勤務先のパート労働者を解雇する話が持ち上がった。

それを聞いた彼は、「これ以上、この会社で働き続けていても未来はない」と悟って、退職を決断した。

その時はハローワークへ通い、すぐに近所の工場(製造業)に就職することができた。

しかし、実際に働き出すと、労働条件はハローワークの求人票とは全く異なり、事前に知らされていなかった夜勤のシフトを数多く押し付けられた。

人が良く、頼まれことを断ったり、異議申し立てをすることが苦手な彼は、その他にも「若い正社員だから」という理由で散々コキ使われた。

その挙句、少しでもミスをすれば罵声を浴びせられることもあった。

そんな職場では、精神的にすり減ってしまい、結局半年で退職することになった。

後々振り返ると、この会社での経験がその後の放浪人生のきっかけとなった。

そこからは、バイトや派遣の仕事を転々し、気付いたら今日までにおよそ20回の転職を繰り返してきた。

バックレも5社ほど経験し、以前働いていた職場への出戻りも2社経験している。

一度、東京へ働きに出たこともあったが、それでも3社ほど転々として、1年半で地元へ戻った。

今は、実家を離れて、出身地の県庁所在地が存在する都市部で働いている。

この生活は3年ほど続いているが、その間に半年以上続いた仕事は1ヶ所だけで、残りはすべて半年未満の仕事だった。

「よくそれで生き延びることができたな」と感心せざるを得ない。

・何で自分はこんなに仕事が続かないんだろう

正社員の仕事を退職してからのカワサキは非正規の仕事を転々としてきたが、その多くは半年未満で退職した。

しかも、皮肉なことに、正社員退職後に半年以上続いた仕事は、期間限定と都会へ出稼ぎに行くための資金を貯めるために、自ら前もって期限を区切っていた仕事だった。

多くは長期の仕事を自らの意志で半年以内に退職した。

新しい職を得る度に、「今度こそ、長く勤めよう」と思うが、なかなか続けられない。

彼が退職の意志を表明すると、職場の人はとても驚き、毎回説得される。

このことから、彼は特段仕事ができないわけではなさそうである。

だが、仕事が続かない。

若い時は勢いがあり、経済的な基盤も親に依存することができたため、「次こそは…」と思えたが、それは叶わなかった。

そうしていると、あっという間に20代後半になり、仕事が続かないことへの自己嫌悪や将来の不安に苛まれることが増えてきた。

そんな彼だったが、最近は物事を逆に考えるようになった。

「長期の仕事はすぐに辞めたくなってしまうけど、何で短期の仕事は頑張れるんだろう?」

これまで、短期の仕事は5ヶ所ほど経験してきたが、すべて任期満了で退職した。

大量募集の職場も多く、そこでは契約期間中で姿を消す人も珍しくなかったが、彼はそのような人たちとは違い、契約期間中で仕事を投げ出したことは一度もなかった。

たまたま短期で働いた職場が自分に合っていた可能性もあるが、そのような会社でも嫌な思いをした時はあった。

しかし、短期の仕事では嫌なことがあっても、自分にこう言い聞かせれば、一気に気持ちが落ち着くのである。

「残り、○ヶ月だから大丈夫」

長期の仕事であれば、そうはいかない。

たまたま、嫌なことがあったにせよ、仕事自体が嫌でたまらないにせよ、「この職場でこれから何年も働かなくてはいけないのか…」と思うと、憂鬱で仕方がない。

一方で、期間限定の仕事は終わりが見えるため、「この苦痛もいつまでの辛抱だ」と期限を冷静に見極めることができ、それが自分への励みとなる。

彼曰く、この出口があるから、安心して働くことができる。

終身雇用復活論の主張で「終身雇用があるから労働者に安心して働ける」というものがあるが、彼にとっての安心感とは全く逆に、「この仕事は終わりがある」という期限の定めなのである。

皮肉なことに、それがないことの方が、彼を退職へいざなってしまう。

・就業先は短期の労働者に期待しない

カワサキによると、短期の仕事を難なく続けられる理由はもう一つある。

それは周囲の期待が低いことである。

どの雇用形態であっても、長期の仕事であれば、最初は簡単な仕事から初めて、徐々に核となる仕事を任されることになる。

しかし、雇用期間が数ヶ月程度の仕事は最初から最後まで同じ仕事を続けることがほとんどである。

場合によっては、当初とは違う仕事を担当することもあるかもしれないが、その時は担当の上司もかなり気を使う。

この「次から次へと新しい仕事を覚える必要がないこと」も、彼にとっては安心感をもたらした。

彼が最初に半年で辞めた工場の仕事のことを思い出してほしい。

その職場では、ハローワークの求人票とは違う雇用条件で働かされ、断り方を知らなかった彼は、面倒な雑用も次から次へと押し付けられ、覚えられなければ罵倒されて、精神的に蝕まれた。

彼曰く、あの時の体験が後の仕事へ悪影響を及ぼすことになったらしい。

長期的に働けば、次第に今以上に仕事を覚えなければならない。

だけども、今の仕事でも一杯一杯なのに、これ以上、スピードアップを求められたり、担当業務が増えることは酷である。

そんな時には、先の職場のことを思い出して、「だったら、この仕事は自分には…」と退職する方向へ意識が向かうようになってしまった。

早い話が「逃げ」なのだが、もしもあの時、「今はまだ無理です」、「できません」と拒否することができて、職場でも彼の意志を尊重されたら、「今すぐ仕事を覚えられないから辞める」と思うことも、終始単純な仕事を繰り返すだけの短期の仕事に心地良さを感じることもなかったのかもしれない。

ちなみに、彼は工場の仕事を退職して以降、正社員として勤務していない。

これも、正社員特有の「会社に言われたことは何でもやらなければならない」ことへの恐怖心からである。

そう考えると、短期の派遣の仕事は彼にとって、この上ない好条件の働き方なのである。

今年で30歳になる彼にとって、これ以上、短期の仕事を繰り返すことが最適なのかは分からないが、今の働き方以上のメリットがない限り、この生活を辞めることは困難のようである。

今の仕事は9月から年末までの仕事であり、来年の1月からは、確定申告の仕事に就く予定である。

その仕事はもちろん期間限定であり、その後は別の仕事を探さなければならないが、幸い、彼が住んでいる場所は(東京程ではないにせよ)不自由しないくらいに求人が存在している。

・私たちが望むこと

12年で20回以上という転職数の多さには舌を巻いたが、私も似たようなものであるため、カワサキの気持ちはよく分かる。

というよりも、彼の話はとても他人事と思えなかった。

私も彼と同じように、断ることが苦手な人間だから、仕事の内容や勤務地、勤務時間は契約できっちりと定めておいて、決められた仕事だけを続けていきたい。

こんなことを言うと、必ずと言っていいほど横槍が入るが、

   同じ仕事ばかり続けていてもスキルが身に付かないぞ!!

「いや、別にスキルなんか身に付けたいと思わんし」

   スキルがないと給料が上がらないぞ!!

「いや、別に給料は今のままでも不満はないし」

と思う。

ただ、「今の派遣社員という働き方がベストか?」と言われればそうではない。

彼のように数ヶ月単位で職場を変え続けることはあまりにも極端だが、今の派遣のルールでは最長3年しか同じ職場では働くことができない。

30歳の彼が若干の不安を感じていたように、私もこれ以上の転職は避けて、できるだけ同じ会社で働き続けたい。

だが、私が欲しいのは終身雇用的な様々なポジションへの配置換えを前提とした正社員としての雇用ではなく、仕事がなくならない限り、今と同じ条件で働き続けることができる職務保有権である。(職務保有権についての詳しい説明はこちらの記事をご覧いただきたい)

そのような安心して働ける土壌があれば、私も彼もあえて派遣社員という生き方を選択することはなかっただろう。

本来であれば、契約社員がそのようなニーズの受け皿となるべきだが、この記事で書いた通り、契約社員という制度は、正社員と同じように(会社の一方的な都合で)様々な仕事を押し付けられるが、「雇用の期間だけは定めがある」という悪い所取りの制度となっているため、全く期待できない。

これから先、私たちは一体どうなるのだろうか?

彼の話に自分の姿を重ね合わせてしまったせいか、すっかり、主語が「私」もしくは「私たち」となってしまった。

彼とは定期的に連絡を取り合う関係になっていないが、10年後くらいにまた話ができたらと思っている。

スポンサーリンク