私は9月に仕事を辞めて以来、10月の後半に次の仕事に就くまでの間は失業していた。
そのことはこのブログでも散々取り上げていたからご存じの方も多いだろう。
その時に体験した今でも忘れられないこととは…
・実は不安だった
私はプロフィールに書いている通り、これまでも職を転々としてきて、今回も「無職ネタ強化月間」などという自虐ネタを展開するくらいだから、読者の皆様も特に心配することはなかっただろう。
だが、実を言うと失業中は少し不安だった。
一つ目は派遣先、派遣会社の強い引き留めがあったにもかかわらず退職したこと。
派遣先は「契約の切れ目が縁の切れ目」で終了するが、これからも利用する可能性がある派遣会社にとってこれでは印象が悪い。
私の勤続期間は半年。
極端に短いわけではないが、派遣社員であっても3年を超えて働いている人が珍しくない職場であったため、当然、派遣先も年単位で働くことを期待しての仕事の依頼だったのだろう。
その期待を見事に裏切ったわけだから、印象が良いはずがない。
これまでに比べ、社内選考を突破するハードルが高くなり、次の仕事探しが難しくなることは容易に想像できる。
それでも、9月中に一社は職場見学まで漕ぎつけることができた。
そして、無事に営業担当の代理人から内定の連絡が入り、勤務開始日も決まった。
「ふぅ~、これでひと安心」
…と思ったが、ひとつ確認したいことがあった。
このことは仕事を紹介された時点で担当者(コ―ディンネーター)に確認していたが、面談の時に派遣先の担当者と話をしていなかったので、正式契約前に念のため確認して欲しかった。
翌日、彼から再び連絡が入り、「申し訳ありません。先方の話ではやっぱりその件は…」と言われ、私もその条件に同意しなかったため交渉破談になって内定も取り消しになった。
その時はまだ就労中だったので、心理的にも経済的にも余裕があったが、無職になると「せっかく社内選考を突破した数少ない会社だったから、あの時…」というようなどうしようもない思いでいっぱいだった。
・あなたは中国人ですか?
そんな暗い気持ちに満ちていた10月中旬、私はHi! Penpal!を利用していた。
数日前に立て続けに送られてきたメールへの返信のためである。
すべて送り終わった頃、新しいメッセージが届いた。
「先ほどのメールに対して、早くも誰か返事を書いてくれたのかな?」と思っていたが、新規の人だった。
内容は「こんばんは。よかったらお話しませんか?」という日本語のメッセージだった。
送ってくれた人のプロフィールを見ると、中国籍の女性で、言語も中国語、日本語となっていたから、「日本語を勉強中の中国人だろう」と思った。
私はお礼も込めて簡単なメールを送るとすぐに返事が届いた。
だが、その内容には少々驚いた。
!?
「いいえ。私は日本人です」
そんな日本語学習の初心者向けの教科書に書いていそうなこと以外に思い浮かばなかったため、仕方なくその内容を送ると、彼女からこんな返事が届いた。
彼女のプロフィールをよくよく見直すと、国籍こそ中国だったものの、居住地は日本になっていた。
私はプロフィールの使用言語欄に中国語も入れていたため、私のことを「もしかして自分と同じ在日の中国人なのでは?」と思ったのだろう。
残念ながら、私は中国人ではないし、そこまで中国語が得意ではないので(これを機にプロフィールから外した)、彼女の希望には応えられそうにない。
ただし、当時の私は彼女と同じ無職の身である。
普段は、たとえ無職であっても、初対面の相手に自分が無職であることを打ち明けることはない。
仕事を聞かれたら、前職の話をして、「実はその仕事を今月で辞める予定なんだ…」ともっともらしい説明をするのである。
だが、今回は「少しでも彼女の励みになれば…」という思いから、あえて失業中であることを告白した。
・同じような境遇
私は彼女と同じ歳で、それも彼女が私にメッセージを送るきっかけの一つだったらしい。
中国出身ではないものの、私が同級生で同じ失業中であることにホッとしたのか、彼女は自身の境遇について話をしてくれた。
彼女は中国で大学を卒業したが、日本のアニメや漫画が好きで、「どうしても日本で暮らしたい!!」と思い、20代半ばの時に語学留学生として来日。
その後、どのような経緯だったのかは不明だが、日本で仕事先を見つけ事務職に就いていた。
だが、その会社はコロナによって業績が悪化し、彼女は数ヶ月前に雇い止めになったという。
幸い、当面の生活費は残っているが、今年いっぱいで仕事が見つからなければ、中国へ帰国するつもりでいる。
私も同じく20代半ばで上京してきたこと、実家が遠方にあるため、生活費が尽きたら東京を離れなくてはならない状況に直面していることを伝えると、彼女は私に対してさらに心を開いてくれたようだった。
東京で暮らして楽しかったことや新鮮だったことを教えてくれて、難しい漢字が書かれた画像を送って、「読み方と意味を教えて!!」と聞いてくるなど、すでに数週間交流がある相手と行うような雑談をした。
そんなやり取りを3時間近くしていた。
Hi! Penpal!はInterPalsやLINEと違い、やり取りがチャット形式では表示されないため、短時間でこんなにやり取りが進んだのはたぶん今回が初めてである。
日付が変わった頃、私は「もう今日は遅いから…」と言って、別れを切り出した。
彼女も「今日はありがとうございました」と返事をしてやり取りは終了。
私は良い気分でやり取りを終えることができ、次回のやり取りが楽しみだった。
・良い終わり方をしたからこそ…
彼女は私と同じく東京に住んでいるため、ゆくゆくは直接会うこともあるかもしれない。
そんな期待もあった。
しかし、今回に限らず「おやすみなさい」というメッセージで別れた後は、次回のメッセージを送るタイミングが結構難しい。
それも、今回のように良い終わり方をした時の方が、拒絶されることを恐れて、及び腰になってしまう。
彼女とやり取りをしたのは週末だったので、彼女からの連絡がなければ、私は翌週に再度連絡を入れるつもりだった。
「もっと仲良くなりたいから」といって、ガツガツし過ぎると、相手にプレッシャーを与えてしまい、ある程度時間が空いた方が、次のネタも見つかる可能性も高い。
翌週の半ば頃、私は働き口を見つけることができた。
この話は次回の彼女とのやり取りのネタに使える。
だが、私には別の考えが頭をよぎった。
彼女がまだ失業中だったとしたら、私が無邪気に「次の仕事を見つけたよ!!」とアピールしたらどんな気持ちになるだろうか?
言葉では祝ってくれつつも、内心では「他人の気持ちに鈍感で無神経な人」と思うかもしれない。
ましてや、彼女は失業によって寂しさを抱えていたことが理由で私にメールを送ってきたのだから。
そんな彼女に対して、仕事を見つけたことの報告などできるわけない。
そう思って、結局、翌週は連絡しなかった。
しかし、当日はあれほど盛り上がったにもかかわらず、一週間以上連絡をしなかったため、今さらどのツラして連絡をしたらいいか分からなかった。
そして、彼女からの連絡も一切ない。
Hi! Penpal!ではやり取りから1ヶ月以上経過したらメールが削除されてしまい、連絡先すら失う可能性もある。(詳しい説明はこちら)
3週間が経過した頃、「さすがにこれ以上放置するわけにはいかない」と思った私は彼女にメッセージを送ろうとした。
だが…
彼女はすでに退会していた。
あの日以来、彼女とやり取りをすることはなかったので、理由は一切分からない。
もちろん、LINEなど他の連絡先も一切聞いておらず、二度とやり取りをすることもできない。
今の彼女は話が盛り上がったにもかかわらず、二度と連絡をすることがなかった私のことをどう思っていたのだろうか…
私は彼女が国に帰ったにせよ、まだ日本に留まっているにせよ、幸せな日々を送っていることを祈っているが、その思いは彼女に届いていないのかもしれない。
皮肉な話だが、拒絶されることを恐れたことで、一番大切なものを失った気がした。
こんなことになるのなら、「探り探りで良いから、もっと早く連絡しておくべきだった」と後悔している。
だけど、これだけは言える。
私はあの夜、彼女と話ができて楽しかった。
虚勢を張りつつも、孤独だった私の心にささやかな癒しを与えてくれたのは彼女である。
たとえ一晩だけのやり取りであっても、彼女のことはこれからも忘れないだろう。