ACが他人の尻拭いの前にやるべきこと

・蘇る震災直後の光景

私は平日の出社前は毎朝めざましテレビを見ている。

過去の記事で何度か取り上げたことがあるが、私はこの番組の報道姿勢を評価していない。

毎朝「世界中に今、朝が訪れてる」という明らかなウソ(日本が朝の時間帯は、イギリスは夜だし、アメリカは夕方)を歌にして垂れ流すのは、天才バカボンであれば許されるだろうが、曲がりなりにも報道番組がやっているのだから開いた口がふさがらない。

ここまで言うと、「だったら見るな!!」と言われるかもしれないが、天気予報が良い時間帯に流れたり、紙兎ロペやちいかわなどのショートアニメが面白いことから、結局は見続けている。

そんな日々が何年も続いていたが、最近はある変化が起きた。

今年に入ってから同番組を見ていると、突然「あれ、またか…」と感じた。

厳密に言えば、番組中ではない。

CMが流れている時間帯である。

かなりの割合でACジャパンのCMが流れているのだ。

公益社団法人ACジャパン

中居正広氏の性加害にフジテレビも関与していたという報道、誠実さを欠く社長の会見を経て、スポンサーが次々と離れていることから、「CM枠がスカスカになったから、急遽差し替えられているんだろうな…」と察しがついた。

フジCM撤退50社超 「サザエさん」提供8社→4社に業界衝撃 数百億円減収も 港社長の会見から急拡大― スポニチ Sponichi Annex 芸能

これまでも同法人のCMは度々目にしていたが、こうも立て続けに流れていると、東日本大震災直後の自粛ムードを思い出す。

当時はフジテレビ以外の局も同じような放送で、何よりも天災に起因することだったので、「どこも大変だな…」くらいにしか感じなかったが、今回は同局の不祥事が発端なので、次から次へ流れるACCMを見ていると、まるで必死に尻拭いしている感が溢れて少し同情してしまった。

・悪いのは自転車じゃないだろう!?

しかし、一瞬そんな健気な気持ちがしたものの、震災直後に繰り返し流れていたACCMを思い出すと、そうも悠長なことも言っていられない気もした。

かつてこの記事に書いた通り、当時は自転車による事故が社会問題になっていた。

無灯火やスピードの出し過ぎといった危険行為は遥か前から存在していたが、その頃は中学生や高校生が当たり前のように携帯電話を持つ時代になり、自転車に乗りながら操作することで、事故を起こすことが増えてきていた。

ACはそのことに対する注意喚起として、高校生くらいの年代をイメージした若い女性が片手に携帯を持って自転車を運転し、歩行者の女性と接触事故を起こして、「ぶつかった代償は、とても重かった」という台詞で、一生が台無しになるような恐怖感満載の演出をしていた。

もちろん、自転車の危険性を訴えること自体は否定しない。

だが、当時の私が違和感を持っていたのは、「自転車も車です」、「マナーアップ自転車運転」というように自転車の運転のみを問題視して、携帯の濫用については全くの不問としていたことである。

CMの演出を見る限り、「あれは自転車の運転ではなく、携帯の使い方も問題だろ!?」とツッコミたくなったのは私だけではないだろう。

極端な話、携帯を見ながら歩いている(現在の言葉では「ながらスマホ」)者と、全く運転に落ち度がない自転車が衝突したとして、自転車の運転手のみを「お前は事故の加害者だ!!」と糾弾して、ケータイ持ったサル…、じゃなかった、歩行者は無罪放免だと言っているようにしか思えない。

これはおかしな話ではないか?

平時であれば、「変なCMだなぁ~」くらいにしか思わないが、震災直後に民放各局でしつこくあのCMを見せられたら、まるで「自転車の運転が罪で、行動で周囲に気にかけず携帯に夢中になることは、な~んも悪くない」と刷り込んでいると言われても文句は言えないだろう。

今でも問題となっている頻発する歩きスマホはあの時、携帯の濫用を問題視しなかったACにも責任の一旦があると私は思っている。

・今こそ過去を清算できるチャンス

一応フォローしておくと、ACはその後、スマホの使用について注意喚起するCMを何本か製作しているので、全く無関心というわけではなさそう。

しかし、どれも昔話でコミカルに描いていたり、スマホ依存という少なくとも自己責任の範囲で完結するものばかりで、自転車事故のような「あなたも加害者になる」というインパクトを与える作品は見受けられなかった。

そもそも(状況が違うのだから仕方ないにせよ)放送頻度が全然違う。

というわけで、彼らにはフジテレビでバンバンCMを流せる今こそ、かつての自転車追放キャンペーンように、歩きスマホに対して強烈な加害者意識を持たせる素晴らしいCMを作成して、何度も繰り返し放送して頂きたい。

東南アジアやアフリカの子どもたちの話をしながら意図が不明な同情や共感を求めている場合ではない。

かつての過ちを忘れ、遠い異国のことを気にかけている能天気な姿勢には、自社の従業員の死亡が労災認定された直後に、他人事のような態度でバングラデシュに学校を作ることの話を展開していた某企業の経営者と同じサイコパス臭いを感じてしまうのは私だけだろうか?

ワタミ、過労自殺社員の遺族へ頑なに謝罪拒否した渡邉氏が会長復帰…「過去振り返らない」 (2019年11月15日) – エキサイトニュース

ちなみに、今流れているCMだと、「決めつけ刑事」はなかなかの良作のように感じる。

彼らはせっかく過去の行いを清算するチャンスを得たのだから、歩きスマホ撲滅へ向けて、見る者の心に訴える素晴らしいCMを作ってもらいたい。

それが出来ないのであれば、他人の尻拭いをする資格などないだろう。

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