先の水曜日(1/24)の朝、私はフジテレビの報道番組である「めざましテレビ」を見ていた。
同番組が大々的に取り上げていたのは、前日23日にJR東日本で発生した停電による新幹線の大規模な運転見合わせのニュースだった。
原因は「架線引っ張る重りを支える部品が破断」か 23日の停電による新幹線運休トラブル JR東日本が明らかに | TBS NEWS DIG (1ページ)
私は、前日は東京で仕事をしていたので、新幹線の運休の影響は全く受けておらず、言い方は悪いが他人事として見ていた。
ところが、番組を見ていると非常に不愉快なシーンがあった。
・どんな神経をしているんだ!?
私が最初に目を通していた時に、同番組が流していた映像は、駅で乗客を取材したり、ヘリコプターを使ったのか、立ち往生した新幹線から避難するために線路上を歩く乗客を上空から撮影したものだった。
そこまでは、ニュース映像としてはごくありふれたものである。
ところが、上空からの撮影に続いて、避難中の乗客が歩きながらスマホで撮影したと思われる映像が流れ、視聴者が撮影したことを示すテロップも出されていた。
まるで、鬼気迫る現場の緊張感を撮影した貴重な映像の如く扱われていたが…
撮影者はそんな状況で何をヌケヌケとスマホで撮影などしているのか!?
乗務員や作業員が必死に誘導し、他の乗客たちは疲れやイラ立ちを抱えながらも、順序を守り、慣れない線路の上(または脇)を懸命に歩いているなかで、一体どんな神経をしたら、スマホで映像を撮影など出来るのだろうか?
飛行機に乗る時は離陸の前に、緊急時の行動のアナウンスが流れ、避難の際はスマホで画像や動画の撮影を禁止することが告げられる。
航空:非常脱出時における適切な対応のお願い – 国土交通省 (mlit.go.jp)
それは当たり前で、わざわざそんなことを周知しなければならないほど、この国のモラルは低いのか?
事故を起こした機体からは、全員が一刻も早く脱出しなければならず、そんな中、物珍しさで撮影などしていたら、自分が逃げ遅れて死ぬだけなら自業自得であるにせよ、他の乗客にも甚大な危険を及ぼす。
停電で停車中の新幹線が爆発炎上するとは考え難いが、そんなことをしている暇があったら、列を乱さないようにしっかり歩くとか、周囲の乗客を気遣い、代わりに重い物を持つなどやるべきことがあるだろう!?
昨今、事故や災害の現場に居合わせながら、救助活動を行わずにのうのうと撮影を続ける報道関係者を「マスゴミ」と呼んで蔑む者が少なくない。
彼らが、「ゴミ」だの「クズ」だの罵倒されるのであれば、この撮影者も同じ言葉を向けれらるべきではないか?
・緊急停止した電車と対応にあたる鉄道員
私が避難中の様子をスマホで撮影していた大バカ者にこうも腹を立てるのは、かつて自分も同じような状況に遭遇した経験があるからである。
数年前、私はJR東日本の某ローカル線に乗っていた。
電車は順調に走行していたが、突然駅でもない所で停まった。
最初はただの停止信号かと思ったが、電車はなかなか走り出さない。
すると、運転士(その電車は車掌が乗務しないワンマン運転だった)が、「この先の信号が故障したため、復旧するまで運転を見合わせます」とアナウンスした。
それを聞いた時は「せいぜい2,30分だろう」と思っていたが、停止から30分過ぎても電車は動き出さない。
運転士も指令室に連絡したり、乗客に目的地を聞いて周るなど、一人で慌ただしく対応に追われていた。
そして、停車から1時間ほど経った頃にこんなことを告げられた。
ちなみに、手前の駅まで引き返す手段は…
もうすぐ近くにやって来て緊急停車する反対方面へ向かう電車に乗り移ることだった。(その路線は複線だったため、反対方面へ向かう電車は動いていた)
もちろん、駅ではないところで乗り換えるため、今乗っている電車から降りて、反対方面の電車に乗るためには、線路を2,30m歩かなくてはならない。
しかも、ホームがないため、通常の客用ドアは使えず、足元に乗降用のステップがある乗務員用の扉を使って乗り降りすることになった。
乗務員用の扉は想像したよりもかなり幅が狭くて、線路の上はバラストと呼ばれる石が敷いてあるのでデコボコして歩きづらかった。
私に限らず、こんな経験は初めてという人がほとんどだったと思うので、かなり驚いたが、乗っていた電車と反対方面へ向かう電車の両運転士、さらに応援に駆け付けた作業員が懸命に誘導してくれた。
正直に言うと、避難の方法を知らされ、順番待ちをしている間は「こんなことを滅多にないから、記念として、貴重な資料としてスマホで動画を撮ろうかな…🤗」と思った。
だが、必死に対応にあたる彼らを見ていると、そんな破廉恥で不謹慎なことなど出来るはずもなかった。
・ジャーナリストの誇りはどこへ?
私が乗車していた電車は決して多くの客が乗っていたわけではなく、おそらく編成全体でも100名もいなかっただろう。
その人数でも電車から降りて、線路を歩きながら避難することは大掛かりな労力を必要とした。
一方で、今回の事故で新幹線から避難することになった人数は100人どころではなく、対応にあたった職員もかなりいたことだろう。
もしかしたら、非番であるにもかかわらず、急遽現場にかけつけた人もいたかもしれない。
乗客の安全を第一に考え、必死に誘導を行っている彼らが、興味本位でスマホで撮影する人間を見たら、どんな気持ちになるのだろうか?
そんな彼らを見て、何も考えることなく、ヌケヌケと撮影などしている人間は倫理観の欠片もないと言えるだろう。
加えて、こんな映像を堂々と流す番組にも呆れた。
彼らにはジャーナリストとしての使命や誇りというものがなく、センセーショナルな映像を流して、視聴率が稼げれば良いとでも思っているのだろうか?
撮影者が「いい映像を撮ったどー!!」と笑顔でスマホを見せ、映像の提供を申し出たのであれば、
恥を知れ!!
と一喝して、スマホを投げつけることが、報道という仕事にプライドを持った人間がやるべきことである。
もっとも、彼らが職業倫理の欠片も持ち合わせていない正真正銘の「マスゴミ」であれば、こんな不埒な撮影者ほど仕事には適任な人物はおらず、大金を積んでヘッドハンティングする必要があるだろうが…
事故後、JR東日本が迅速に在来線の臨時列車を走らせたことを称賛する声もあるが、同時に人間の醜い一面も垣間見えたことを忘れてはならない。