新しい仕事が難しいと感じた時に思い出す言葉

前回からゴールデンウィーク明けの憂鬱に悩んでいる人へ向けた記事をお送りしている。

今は5月の中旬。

41日に新しい仕事を始めた人の中には、前回の記事で取り上げたようにすでに退職した人もいるかもしれないが、続けている人であれば徐々に慣れてきた頃かもしれない。

しかし、入社直後の研修期間も終了し、独り立ちを期待される中で「この仕事は自分に出来ない…」というプレッシャーに圧し潰されそうになっている人もいることだろう。

今日はそんな悩みを持つ人に知って欲しい話をしようと思う。

・有能な後任者

これはかつて勤めていた事務職を退職する数日前の話。

退職前の一週間の内に後任スタッフへの引継ぎを行うことになった。

私が担当していた仕事はすべて私一人で行っていたわけではなく、退職後も同様の業務を担う人もいるため、資料こそ作成していたものの、そこまでプレッシャーがかかる引継ぎではなかった。

ちなみに、私が後任者に教えることになった仕事は、人事異動や従業員から依頼があった際に提出された情報を人事管理用のデータベースへ登録する業務である。

やることは単純なのだが、一度に大量の情報が送られてきたり、ひとつの書面に記載されている情報をパソコンでは複数のページに入力したり、その逆もあったりとかなり面倒なのだ。

そして、記入されていない情報は、他のファイルから引用する必要があるなど、いくつもの場所を行ったり来たりしなければならない。

それでも慣れたら全然難しい仕事ではない。

さて、私の後任者は派遣社員としてやって来た60代の女性である。

これまで田舎で肉体労働をやっていた時でも、ここまで年上の人に仕事を教えたことはほとんどなかった。

しかも、同じ仕事を大勢でやりながら教えるのではなく、マンツーマンで教えるのだからそんな経験は初めてである。

だが、面接担当者から報告を受けていた通り、彼女は60代とは思えない程、Excel等のパソコン操作に慣れており、不明な点も過去の記録を参照して補ったりと頭の回転も速いようだった。

これで私も安心して退職することが出来る。

そう思っていた。

昨年退職した時もそうだったが、私は職を転々としているが、後任者には恵まれているようである。

・心の中は不安だった

そんな感じで私としては順風満帆な引継ぎをしたつもりだったが、彼女の本音を違っていた。

退職の2日前、私は退勤後にエレベーターを待っていると、たまたま彼女もやって来たので、少し話をすることになった。

そこで彼女からこんなことを言われた。

「早川さんって今週で退職されるんですよね?」

「今の仕事は覚えられそうにないから、いなくなったらとても不安です」

「せめて、1ヶ月は一緒に居てもらいたかったです」

え!?

ウソでしょう!?

面倒とはいえ、そこまで難しい仕事ではなく、彼女は順調にこなしていたから、その言葉を聞いた時は驚いた。

それに対して私はこう返した。

「ファイルの場所を探すことは大変かもしれませんが、慣れたら全然簡単な仕事ですよ」

「私は元々別の仕事をやっていたけど、やることがなかったから時間潰しが目的でやることになった作業ですから」

これは励ましや謙遜ではなく、率直に思ったことを伝えた。

その時は「自分の引継ぎが下手だったのかも…」とも思ったが、後々このやり取りを振り返ってみると、別の視点も見えてきたのである。

「こんな簡単な作業でも、慣れていない人にとっては、そんなに難しく感じるのか…」

しかも、彼女はこの人たちと違って、かなり事務仕事のスキル高い人なのだ。

そんな人ですら、仕事を始めたばかりの時は簡単な作業に不安に感じるのである。

・自分は意外と評価されているかも…

そのような考えに辿り着いて以降、私自身仕事を始めて数日で「この仕事は自分には難しいのではないか…」と悩むことは一切なくなった。

逆に「今は要領が掴めないけど、すぐに慣れるさ」と余裕を持って構えることが出来るようになった。

始めた時は「覚えられない…」と思う仕事も、ほとんどは慣れたら大したことがないと気づけたから。

そのきっかけはもちろん、仕事が出来るように見えた彼女が実は悩んでいたということを聞かされたからである。

これまでは、「この仕事は自分には無理…」と思って早期退職することが何度かあった。

退職の理由を正直に告げた時に説得されるパターンはいつも同じだった。

「え!? 早川さんって、全然仕事が出来ないわけじゃないですよ!!」

仕事に慣れずに苦しい思いをしている時にそんなことを言われても、「どうせ、人手不足で今辞められたら困るから、適当なウソを言っているんだろう」と穿った見方をしていた。

自分が仕事を教える側になり、優秀なはずの彼女の意外な本音を聞いたことがきっかけで、もしかしたら、これまで「『自分は仕事が出来ない…』と思い込んでいた時でも、実は言葉通り評価されていたのではないか?」と思えるようになった。

それ以降、すぐに仕事を覚えることが出来なくても、焦ることは全くなくなった。

もっとも、「職場環境がどうしようもない程のクソだから仕事を辞める!!」となることは未だに少なくないのだが…

そういえば、彼女が働き出したのは3月末だったので、実質、41日から勤務開始したことと同じく、1ヶ月後にゴールデンウィークがやって来た。

彼女は、あの時のゴールデンウィークを乗り越えることが出来たのだろうか?

そんなことが気になっている。

次回へ続く

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