「仕事が嫌い」と「会社が嫌い」は違う

前々回からゴールデンウィーク明けに働きたくない気持ちに苛まれている人へ向けた記事をお送りしている。

念のために言っておくが、私は別に「頑張って続けろ!!」と厳しい言葉を投げかけるつもりも、「嫌ならすぐに辞めても良いよ」と退職を促しているわけでもない。

色々な価値観を提供して、何とも言えないモヤモヤとした閉塞感を感じている人の励みやヒントになってくれればと思っている。

本日はその最終回となる。

・バカに国境はない

憧れていた仕事に就いたものの、実際に働いてみたら、あまりにも劣悪な労働環境だったため幻滅した。

夢は夢のままにしておいた方が幸せだったかも…

そう思って、別の道を進むことを模索している人もいるかもしれない。

だが、長年抱いた夢をそう簡単に捨ててもいいのだろうか?

退職したいからと言って、その仕事は本当に決別するほど嫌なものなのか?

今から数ヶ月前、InterPalsというペンパルサイトで知り合った20代のイギリス人の男性との間にこんなやり取りがあった。

当時の彼は介護の仕事をしていた。

日本では介護職と聞くと、激務な上に給料が低くというあまり明るいイメージは持っていない人が多い。

しかし、この記事でも取り上げたように、それは諸外国であっても同じこと。

彼が働いていた職場もあまりにもストレスフルな環境だった。

いくつか事例を挙げると、始業前に社長の偉そうな、かつ労働基準法違反甚だしい教えを唱和させられたり、クレームがあった際にしつこく反省文をかかされるなど。

それから、上司は社長の腰巾着で保身のために、自分のミスを部下のせいにするなど、上司と呼ぶに値しないクソ野郎だった。

その上、利用者には良い顔をしつつ、従業員には事務用備品を自己負担で押し付け、照明やエレベーターの利用も制限して電気代をケチるという履き違えたコスト意識も悩みの種だった。

グローバル時代の悲しい側面なのかな、バカと犯罪者は国境の壁を容易に超えて、金太郎飴の断面のように普遍的で醜い害悪をまき散らしているようである。

日本のブラック企業の皆様、海外にも同士がいて良かったですね。

彼はそんな会社に見切りをつけて退職を決意したのであった。

就業期間はわずか3ヶ月だった。

・この仕事が好きだから

3ヶ月で仕事を辞めることになった彼だが、実は前職も同じ介護の仕事をしていて、そちらも半年で退職した。

原因は上司の依怙贔屓や、会社全体に明らかな人種差別があったからだそうである。

次の仕事のアテがあるわけではないが、彼は次も介護の仕事を探すという。

それを聞いた私は驚いた。

本人に原因があるわけではないとはいえ、立て続けに短期で離職するということは、彼は介護職に向いていなかったのではないだろうか?

そんな疑問を彼にぶつけたところ意外な答えが返ってきた。

「この会社に入ったことは『間違いだった』と思っているけど、これからも介護の仕事を続けていきたい」

「だって、この仕事が好きだから」

その言葉を聞いた時はハッとした。

彼は短期間で職を転々としているにもかかわらず、自分の仕事にそこまで誇りを持っていた。

そして、会社に愛想を尽かして辞めることが何度あっても、仕事のことは好きであり続けていたのである。

私も彼と同じく、職を短期間で転々としている類の人間で、これまでも会社に嫌気が差して退職したことは何度もあったが、もれなく次は別の職種や業界を探していた。

そのため、縁を切ってきた業界、職種がたくさんある。

しかし、よくよく思い返すと、今回の彼同様に「こんなクソ会社で働いていられるか!!」と思った回数は星の数ほどあっても、「仕事そのものが嫌い」と感じたことはどれくらいあっただろうか?

そう思って、離職理由をカウントしてきた。

離職回数があまりにも多く、「あんたそんなに仕事辞めたの?」と呆れられることは確実なので、ここでは離職回数ではなく割合を発表させてもらう。

まず全体の離職の中から、短期や会社都合による契約終了を除く、自己都合による退職が全体の7割。

そこから引っ越し等、自己都合ではあるものの、必ずしも「嫌だから辞める!!」というわけではないケースを除外して、内訳を振り分けるとこのようになった。

仕事が嫌で辞めたケース:30%

会社が嫌で辞めたケース:70%

(小数点以下は切り捨て)

私の感覚としては「仕事が嫌で辞めたことが意外と多いな…」というのが正直なところなのだが、一覧表を眺めていると、それらのほとんどは2週間以内に退職したものだった。

そういえば、それらの仕事はバックレで辞めた仕事も少なくなく、かつてこの記事で登場した職場も多い。

というわけで、勤務期間を1ヶ月以上の仕事に絞って、再度統計を取って見ると…

仕事が嫌で辞めたケース:10%

会社が嫌で辞めたケース:90%

(小数点以下は切り捨て)

このように、1ヶ月以上続いた仕事で「もうこの仕事には耐えられない!!」と思って退職した仕事はほとんどなく、ほぼほぼ「会社に嫌気が差して」退職したのだ。(ちなみに、仕事が嫌でも1ヶ月以上続いた仕事はコンビニのバイトであるが、「ここは危険だからすぐに引こう」という発想がなかった若さゆえに続いたもので、今なら間違いなく数日で辞めていた)

・たとえ会社は嫌いになっても…

これはあくまでも私一人の体験だが、少なくとも1ヶ月以上続いた仕事は「仕事がつらいから辞める」といったことにはならず、パワハラ、人間関係、理不尽な規則、閉塞感といったことが退職の原因となる。

だとしたら、長く務めた仕事を退職する時は

「この仕事を選んだのは間違いだった…」

「転職を機に別の職種を…」

と考えるのではなく、会社を転々としても介護の仕事に愛着を持っている彼のように、同じ職種で別の会社を探すことの方が賢明ではないだろうか?

しかも、自分が好んで就いた仕事であれば。

「仕事が嫌い」と「会社が嫌い」は全く別のことである。

企業への忠誠心など微塵もなく、嫌いな会社はさっさと見切りを付けるが、次も同じ仕事を探す程、愛着や誇りを持つことこそが本当のプロ意識なのだから。

今から20年以上前の話だが、「がんばれ! ジャイアン!!」という映画があった。

ドラえもんに登場するジャイアンこと剛田武が主人公で、スランプに陥った妹のジャイ子を励ますために奮闘するのだが、ことごとく空回りし、「漫画もお兄ちゃんも大嫌い!!」とまで言われてしまう。

んな彼女に対してジャイアンがこんな名言を発するのである。

「お兄ちゃんの事は嫌いになってもいい!!」

「でも、漫画は嫌いになるな!!」

今回私が言いたかったことはまさにこんな感じである。

というわけで、新入社員に対して、仕事への誇りとプライドを持ってほしい会社の方には、ぜひともジャイアンを見習って

「会社のことは嫌いになっていい!!」

「でも、仕事のことは嫌いになるな!!」

と言ってもらいたいものである。

これは冗談半分なのだが、有能な人材の離職を防ぐには、とにかく「会社がクソ」だと思われないことが重要である。

たとえば、この記事で取り上げたように、会社の悩みのほとんどはテレワークを使えば解決できるのだから、それを利用しない手はない。

そうしたら、とりあえず、愛社精神などなくても仕事を続けてくれるだろうから。

さて、今日まで3回に渡って、ゴールデンウィーク後の憂鬱と向き合うシリーズをお送りしてきた。

前書きの繰り返しになるが、私は「会社に行きたくない…」と悩んでいる人に対して、続けるよう励ますつもりも、退職を促すつもりもない。

ただ、今回の記事が、漠然とした閉塞感に苦しんでいる人の気持ちに寄り添って、彼らがこれからの道を切り開いていく上での微かなヒントになってくれれば幸いである。

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