7月頃から、帰宅時に玄関の前に到達すると、こんなことを思う日が増えた。
「ああ、またか…」
私がため息をついてこんなことを思う理由は、隣(私の部屋の一つ手前)の部屋のドアが開けっ放しになっているからである。
ほとんどの家も同じだろうが、私が住んでいるアパートの入口は外開きである。
そして、廊下はお世辞にも広いとは言えない。
そんなアパートで前隣りの部屋の扉が開けっ放しになっていると、私は自分の部屋に辿り着くために肩身の狭い思いをしなくてはならない。
もっとも、お隣さんに悪気はなく、私が通りづらそうにしていると、すぐに「ごめんなさい」と言って、ドアを閉めてくれるのだが…
今日はそんなお隣さんを見ていて感じることについて話したい。
・ワンルームに3人で暮らす
お隣さんは20代、もしくは30代と思われる若い男性である。
彼がやって来たのは今年の5月の連休中だった。
私と顔を合わせて最低限の挨拶をする時は日本語を話すが、電話や友人を招いた時に聞こえてくる会話は日本語ではないため、外国の出身だと思われる。
余談だが、私が住んでいるアパートは外国の出身者が多い。
真上の部屋の住人も外国人だし、彼が入居する前の隣の部屋の住人も外国人だった。
交流がない私は彼がどこの出身で、どんな仕事をしているのかは一切分からない。
隣の部屋で数ヶ月過ごした私が感じたことは、「とても賑やかな生活を送っている」ということである。
先ず、彼の部屋からは毎日話声が聞こえてくる。
引っ越し当初は彼の鼻歌が聞こえるだけだったが、1ヶ月もしない内に誰かとの会話に変わった。
しかも、賑やかなのは休日の昼間だけではない。
平日だろうと、夜間だろうと、常に話声が聞こえる。
おそらく、彼が借りた部屋に同棲しているのだろう。
ちなみに、定期的に聞こえてくる声から、彼は2人の女性と共に住んでいることが伺える。
いや、どんな関係だよ!?
と誰もがツッコミを入れたくなるが、それ以前に気になることがある。
隣の部屋の間取りは知らないが、おそらく私の部屋と同じだと思われる。
テレビもベッドも、洋服ダンスも持たない私でさえ、手狭に感じるスペースに3人で暮らすとは一体どんな生活を送っているのだろうか?
ただ、私の部屋に漏れ出てくる声は毎日ガヤガヤとして、とても楽しそうであることは確かである。
・迷惑ではあるが…
お隣さんに関して、もう一つ気付いたことは、彼ら毎晩手料理を作っているということ。
ちなみに、休日は昼食も手料理のようである。
冒頭で触れたドアを開放したままにしているのは、彼らが料理を作る際に換気が必要だからである。
幸い、今のところはニンニクのような強烈な臭いを放つ料理はないが、毎日野菜を炒めているであろうことははっきりと分かる。(ちなみに、昨日は焼きとうもろこしの香りがしていた)
話声といい、玄関のドアを開けて手料理といい、彼は毎日仲間と楽しい生活を送っていることは分かる。
とはいっても、それは私にとって、れっきとした苦情案件である。
夜中のお喋りも、ドアを開放して行う手料理も、隣の部屋で生活する私にとっては「生活に支障が出る」とまでは言わなくても、甚だ迷惑である。
だが、どうしてだろう…
管理会社に苦情を入れて、それを辞めさせる気にはなれない。
もちろん、最初は「迷惑な隣人だ」と思っていたが、最近は彼らを見ていて「羨ましい」と感じることが増えた。
きっかけは、一瞬だけ見えた彼の部屋の光景である。
それまでは玄関のすぐ隣の台所で調理をしている姿のみが目に入ったが、その時は大き目の荷物を持って帰宅しなければならなかったため、例によって開いたままになっていたドアを私が閉める必要があり、その際に部屋の奥深くまで目撃したのである。
彼らはすでに調理を終え、3人で狭いながらも楽しい食卓を囲んでいた。
彼らにとっては何気ない日常の風景かもしれないが、それを見た私は何かが胸に突き刺さったような衝撃を受けた。
この記事で書いた通り、私はブログを始めて以降、「同じ志の仲間を数人集めて、時折自宅で食事を共にできたらなあ…」というささやかな願望があった。
彼らは私がやりたいと思っていたことを見事に実現させていたのである。
最後に私が友人と楽しく食事をしたのはいつだっただろう…
確実に思い出せるのは、この記事で触れた、知人の結婚式に参加するために帰省して、地元の友人と昔よく赴いていたレストランに出かけた時であり、その時からすでに2年近く経過している。
一方で、お隣さんは毎日のように誰かと夕食を共にしている。
そんなことを考えていると、それまでは迷惑でしかなかった、隣の部屋が羨望の対象へと変化した。
もちろん、彼らのように同棲までしたいとは思わない。
しかし、仲間と楽しく過ごしている彼らを見ていると、10年程前に地元で友人たちと楽しく過ごしていた時や、子どもの時に放課後や休日に友人とよく一緒に遊んでいた時の記憶が蘇ってきた。
そんな気持ちでは、管理会社に苦情を入れようと思えない。
もっとも、私の住んでいるアパートの住人は彼に限らず自由に生きている人が多い。
単身向けでペット禁止のはずなのに、上の階の住人は犬か猫かは不明だが、足音が聞こえるペットを買っているし、数部屋隣の住人は夫婦と小さい子どもの(少なくとも)3人で住んでいる。
彼らは確かに居住ルールに違反しているし、私が一人で生きて、周りに苦情を言われないような静かな暮らしの快適さにすっかり慣れ切って、それを捨て難くなっていることも事実である。
だが、私のように生きている人間よりも人生を楽しんでいることは間違いなさそうである。