先日、私がかつて利用していた派遣会社を紹介している記事を見かけた。
その記事では、派遣会社の社員が他社とは異なる自社のウリを説明していた。
担当者曰く、その会社は派遣スタッフへのサポートが手厚く、特にスキルアップには力を入れていて、未経験者であっても、どんどんチャレンジすることを推奨しており、仕事を紹介する時も攻めの姿勢を貫いているらしいのだが…
私はその記事を読んだ瞬間、はらわた煮えくりかえる気分になった。
なぜなら、その会社はかつて経験が浅い(3ヶ月)分野での就業に挑戦したい私の意向を完全無視して、経験がある仕事や事務職未経験者向けの仕事しか紹介しなかったからである。
私としては、そのレベルはとっくに卒業しているつもりで、次のステージへ向かうところだったので、彼らの姿勢にはがっかりだった。
そんなことをやっておきながら、よくもまあ、ヌケヌケと「皆さんの挑戦を応援します!!」なんて勝手なことをほざけるなあ…
ここまで、言っていることとやっていることが違うと見ていて清々しい。
・飛べることは分かっているから、もうやらなくていい
思い返すと、他人には挑戦することを求めながら、当の本人がヌクヌクとした現状に甘んじることは少なくない。
出来ないことや未経験のことにチャレンジしたら、失敗のリスクが伴う。
だが、そんなこと分かり切ったことではないのか?
それを覚悟した上で、「挑戦」という言葉を口にしているのではないのか?
これは私が小学3年生の時の話である。
当時の私は体育の跳び箱の授業で4段までは確実に飛ぶことが出来たが、5段がなかなかクリアできなかった。
同級生のフジモト(仮名)も私と全く同じ状況だった。
そこで私たちは一緒に行動して、5段に躓いたら、もう一度4段を飛んで、それが上手くいったら5段に挑戦するということを繰り返していた。
二人揃って、5段に失敗した後で、「4段は簡単なのに、どうして5段は上手く飛べないんだろうね…」という話をしながら、4段の列に並ぼうとした。
その様子を見ていた当時担任教師のS氏からこんなことを言われた。
S氏:「早川君とフジモト君は何でまだ4段を飛んでいるの?」
フジモト:「5段がなかなか飛べないから、もう一度4段からやり直しています」
S氏:「二人が4段を飛べることは分かっているから、もうやらなくていいよ。これからは失敗しても良いから、5段を飛びなさい」
こうして、私たちは失敗続きながらも、ひたすら5段の練習をすることになったのであった。
私はこの時間が嫌で堪らなかった。
失敗すると分かっているのに、ひたすら飛び続けなければならなかったことが。
飛べない姿を他人に見られるのは恥ずかしいし、お尻は痛いし。
こんなことなら、もう一度、4段を飛び、成功したことで自信を付けたかった。
だが、フジモトは違った。
彼は私と違い素直な性格だったため、S氏の言葉を受けて、
「4段ばかり飛んでいたら、いつまでも5段を飛べるようになれない!!」
「失敗しても良いから挑戦しないと!!」
と言いながら、少しでも高みを目指していたのであった。
・世の中は臆病者だらけ
これは私が小学3年生の時の出来事だから、すでに四半世紀近く前のことになる。
あれから、分かったことが2つある。
ひとつは、当時の私よりも、S氏やフジモトの言っていることの方が正しかったということ。
たしかに、確実に成功するであろう4段を飛び続けていた方が居心地は良い。
失敗する姿を周囲に見られて恥をかくことはないし、お尻も痛くないし。
しかし、自分が傷つかない世界に逃避していては、いつまで経っても成長しないし、それで満たされるのは自分のちっぽけなプライドだけだ。
成長するためには、果敢に挑戦して、上手くいかない過程を乗り越えなければならないのである。
そして、もう一つは、この世の中は当時の私と同じく、挑戦を避け、現状に甘んじている臆病者の方が圧倒的に多いということ。
口では「生産性向上への挑戦!!」と言いながら、責任逃れのために、旧態依然とした紙ベースの書類に固執していたり、規則を変える立場にある管理職でありながら、就業規則を言い訳にして何もしなかったり、「もはや、年功序列も終身雇用も存在しない!!」と言いながら、自分たちだけは頑なにその秩序を維持しようとしたり。
コロナのおかげで普及したテレワークを用いれば、日本全国、いや世界各地で有能な人材を確保出来るにもかかわらず、コロナの終息と共に出社に戻しているバカな企業も同じ部類である。
このように、世の中は挑戦などより、他人と一緒の横並び思想を望む腰抜けで溢れている。
もっとも、本人は「ビジネスにおいてリスクは避けるもの」などともっともらしい御託を並べているが…
自覚がない分、安住を好むことを宣言している人間より質が悪い。
もちろん、「成長の機会を捨てて、生ぬるい現状に甘んじる」ことを好むのは当人の自由である。
だとしたら、堂々と「現状維持」、「前例踏襲」、「挑戦より安定」を社是とすべきではないか?