派遣社員に謝罪する転職エージェント

・わがままにウンザリしていたけど…

先週、某ハンバーガー店で食事をしていると、隣の席から面白い会話が聞こえてきた。

話の主は2人の女性で、一人が、連れに仕事の愚痴をこぼしている。

現在の彼女は正社員としての転職を斡旋する転職エージェントの仕事をしているようなのだが、求職者の要求があまりにも多かったり、身の丈に合わない条件を提示したりしていてウンザリしている様子。

最初は「とにかく正社員として雇ってもらえれば…」と謙虚なことを言いながら、その舌の根も乾かぬうちに

「大企業じゃなきゃ嫌だ!!」

「土日休みじゃなきゃ嫌だ!!」

「現場作業は嫌だ!!」

「定期昇給とボーナスの支給は譲れない!!」

というように。

「世の中の人はなぜこうも自分のことを過大評価しているのか…」という彼女の言葉が印象的だった。

ちなみに、彼女は今でこそ正社員向けの転職支援をしているが、この仕事を選んだきっかけは前職での経験が基になっているらしい。

彼女の前職とは、派遣会社のコーディネーターである。

派遣という働き方に馴染みがない人は聞き慣れない言葉であるが、これは派遣会社に登録している求職者に求人の案内をする仕事である。

要するに彼女は、派遣の仕事を紹介する仕事から、正社員の仕事を紹介する仕事へとキャリアチェンジしたわけだ。

その原因は求職中の派遣社員が先の正社員への就職希望者と同様に、わがままばかり言って、紹介した仕事を断る傲慢な態度に嫌気が差してしまったからだそうである。

「非正規で働こうとしている人は正社員と違って、責任感がある仕事を避けるため、そのような要求ばかりしているのだろう」

「同じ求職者でも、正社員希望だったら違うから、少しはマシなはず…」

彼女はそう思って転職したそうなのだが、実際は全然そんなことなかった。

むしろ、「正社員は非正規よりも制限が多い」とわかり切っているはずなのに、同じような感覚で自己都合ばかり主張してくる人が、あまりにも多くて心底驚いたという。

そんな彼女は、かつて、心の中で罵倒していた派遣スタッフにどうしても謝りたいらしい。

「派遣社員の皆様。あの時は『身の程を弁えずに、わがままばっかり言うな!!』と思っていて、大変申し訳ありませんでした…」

「あなたたちは、自己都合を通すために、信念を持って派遣社員という働き方を選択している立派な方でした」

私自身が「正社員のように会社に縛られるのが嫌だから」という理由で派遣社員として働いている(=フリーター)ということもあるが、その言葉を聞いた時は心の中で大笑いした。

・やる気も責任感もないけど、正社員になりたい!!

私が学生の頃、進路指導の教師が常々こんなことを言っていた。

高校教師:「社会に出る(=「(地元の零細企業を除く会社の)正社員として就職する)ということは、常に組織を優先することだから、個人のわがままは許されない!!」

私は高校を出た時に正社員として就職したわけではないが、その言葉は後の人生にも少なからず影響を与えていた。

だが、実際は転職エージェントの彼女が言う通り、そのような覚悟を持たずに、正社員としての就職を希望する者も少なくない。

たとえば、私が今でも、人生で大きく影響を受けたと思っているこの職場に、50代前半のタカハシ(仮名)という女性が正社員としてやって来たことがあった。

彼女は事務職として採用されたにもかかわらず、その時会社が求めていたのはキモト(仮名)の後釜となる現場作業員だったため、工場長のB(仮名)は

「事務職を円滑に進めるためにも、最初は現場を知ってもらいたい」

「今は現場の人手が足りないから手伝ってもらいたい」

と言葉巧みに騙して、毎日のように現場に送り込み、挙句の果てに「事務職は自分一人で手が足りるので結構です」と通告したため、彼女は1ヶ月で退職することになった。

このことに関しては、完全に会社(というよりもB)に非があるのだが、彼女も子どもがまだ学生ということで、パートの私やタケダ(仮名)に仕事を丸投げして、定時で退社することも多かったので、そもそもやる気があるとは思えなかった。

そんなこともあり、次の仕事は正社員ではなく、パートで探すのではないかと思ってこんな質問をした。

早川:「タカハシさんは、次の仕事も正社員を探す予定ですか?」

タカハシ:「もちろん!!」

私は「そうですか」といった言葉を返したのだが、心の中では「あ、こんな人でも正社員を目指してもいいんだ!!」という新しい物を発見した気になった。

「正社員=自分を押し殺して常に会社を優先」というのは高校教師に洗脳された私の思い過ごしだったのかもしれない。

「正社員といっても、責任感なんて必要ない」という認識が増えれば、少しは生きやすい世の中になるのかもしれない

だが一方で、アルバイトであっても、正社員並みに拘束する(ツラの皮が厚い)会社もある。

「正社員=責任が重いが給料は高い、非正規=責任が軽いが給料は安い」という「魔王か、サタンか?」といった二者択一が無くなることは良いことかもしれないが、今の流れが良い方へ向かっているのかは分からない。

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