営業スマイルやハキハキ対応よりも遥かに大切な店員の仕事

前回の記事はゴールデンウィーク関連の記事を書いたことで、旬の時期から1ヶ月遅れとなった時事ネタから始めった。

今回も同様に、少し遅れた感がある時次ネタを扱いたい。

今日のテーマはこちらの記事を読むことで生まれた。

携帯ショップに来た客「iPhone下さい!」笑顔で応対するスタッフの本音が話題「お前はスシロー行って、お寿司下さいって言うんか?」|まいどなニュース (maidonanews.jp)

(Yahoo!ニュース版はこちら

前回の記事のように概要をまとめる程のものではないが、簡単に説明すると

  • 携帯ショップの販売員がTwitterで「「客『iPhone下さい』 どれやねん。お前はスシロー行って『お寿司下さい』って言うんか。」と投稿。

  • この投稿者にインタビューして、「心の底では『もっと丁寧にオーダーしろよ』毒づいてしまうのも無理もない」、「読者のみなさんに、携帯ショップに行って「iPhoneください」とオーダーしてしまっている方はいないだろうか?」、「お客の希望を叶えるのが店員の仕事ではあるが、客の側も丁寧さや優しさは欠かさずにいたいものだ」という言葉で、投稿者を全面擁護する記事がニュースサイトに載る。

  • それに対して、多くの批判的なコメントが集まる。

実を言うと、私はかつて携帯ショップに入り、店員さんに声を掛けられた時に「携帯を新規で契約したいんですけど…」と言った経験がある。

その時は、留学するつもりで携帯を解約したものの、トラブルが発生し数日前にキャンセルしたため、新規で電話の契約をする運びとなり、そのように伝える以外の方法は一切思いつかなかった。

ちなみに、「機種も契約内容も以前と同じようなものがいいなあ…」と漠然と考えていたものの、下調べは一切せずに店を訪れた。

対応してくれた店員は、そんな私に対して、先ずはカタログを取り出して、使いたい端末を決定し、その後は以前の契約内容を基に、最適な料金プランを提示してくれた。

彼は嫌な顔一つせず、親切に案内してくれたが、その記事で書かれていることが多くの販売員の本音だとすると、当時の私は機種と料金プランを前もって調べ、店舗を訪れた時は「○○の××という機種で、料金プランは△△でお願いします!」とリクエストしなければならなかったのか…

笑顔で対応してくれた彼も腹の底では「”要領を得ない質問”をせずに、もっと丁寧にオーダーしろよ!」と思っていたのかと考えるとゾッとする。

まあ、それは冗談だけど。

・販売の仕事に生きがいを感じたことは一度もなかったが…

さて、そろそろ本題に入ろう。

先ず、私の意見を述べさせてもらうと、私はこのきっかけとなった販売員の投稿にも、取材したと思われる記事の内容にも、全く共感できない。

これまでにブログで、行き過ぎた消費者優先社会の是正や、モーレツ社員よりもズッコケ社員を目指すことを勧めてきた私が、このような意見を表明することに驚く人もいるかもしれないが、率直にそう思う。

そもそも、「携帯ショップの店員に「iPhone下さい』と言うことと、寿司屋で『お寿司下さい』と注文すること」は同じではない。

Yahooの記事のコメントを書いている人が詳しく説明している通り、iPhoneのみを販売している店で、客がそのようなことを言うのであれば、まだその屁理屈は通用するかもしれないが、実際は他の機種も販売していたり、契約内容の変更を受け付けているだろうから、寿司屋で例えるなら、様々な種類がある中で、大まかに「マグロを下さい」と言われるようなものだろう。

だが、重要なのはそこではない。

仮に、例え話が適当だったとしても、「客が店員に注文する際は、特定の品名を正確にオーダーすべき」という考えには全く説得力がない。

客の希望が大雑把だったとしても、客と店員は情報や商品に対する知識の差があるのだから、客の問い合わせや要望を真摯に聞いた上で、そのニーズに対応する商品を提供することが販売の仕事ではないのか?

この記事に書いた通り、私は以前、野菜の販売の仕事をしていたことがある。

野菜はほとんどの品で複数の種類を扱っていたり、産地が異なっていることが多い。

そんな中で、客から大雑把に「ジャガイモください」と言われることは日常茶飯事だった。

彼らは「ジャガイモが欲しい」という希望はあっても、私たちがどんな品を取り扱っていて、どこに並べているかなど一切把握していないことは何もおかしいことではない。

私は野菜の販売の仕事に誇りやプライドなど一切持っておらず、本音では「決められた時間に職場にいて、言われたことをやるだけが仕事」とさえ考えていたが、客からそのような問い合わせがあったら、彼らに商品を案内することが当たり前だと思っていた。

ましてや、お客から「ジャガイモください」と言われて、

「ジャガイモだけじゃ、どの種類なのか分からん!!」

「産地もちゃんと、北海道産か、青森県産か指定しろ!!」

と言ってやりたいと思ったことなど一度もない。

というよりも、そんなこと考えもしなかった。

・販売職にとって一番大切なこととは…

私が思うに、「客は商品を細かく指定すべき!」という発想は「『物を売る』という仕事は『客が頼んだ商品を取り出すこと』」という認識があるから、生まれたのだと思う。

要するに、「何を買うのか?」はすでに客が決めており、「自分は笑顔で客をもてなすことが販売の仕事」なのだと。

だが、その行為は販売という仕事の一部でしかない。

以前、この記事で紹介した「商店街はなぜ滅びるのか (新雅史(著)光文社新書)」という本がある。

その本によると、客が買い物かごを手に取り、店内を自由に歩き周りながら、直接商品を手にとって選び、レジでまとめて会計を済ませる販売形態は「セルフ販売方式」と呼ばれ、スーパーマーケットと共に、近年に普及したものらしい。

それ以前は、店員で客からじっくりと話を聞いて、在庫の中から希望に合う商品を取り出す対面販売が主流だった。

今でも、時計や宝石のような高額の品や、保険のように複雑で分かりにくい商品の販売には対面販売方式が用いられている。

この2つの販売方法を比べた時に、携帯ショップの販売においてはどちらに重点を置くべきなのかは明らかだろう。

客が事前に、購入予定の携帯機種や、変更したいプランを完璧に把握しているのなら、そもそも、店舗を訪れる必要などない。

そんなことはネットで事足りる。

携帯は端末代も、毎月の料金も決して安くない。

その上、種類も豊富で事前に調べるだけでは分からないことも多い。

そのような相談したいことがあるから、あえて店舗に足を運ぶのである。

つまり、携帯電話の販売員に必要なのは、営業スマイルやハキハキとした接客態度などではなく、商品の知識を身に着け、顧客の話を真摯に聞いて、最適な商品を案内できる能力なのである。

ましてや、顧客が望んでいない(しょうもない)キャンペーンの案内など販売の仕事ではない。

(実際に私は数年前に携帯の機種変更をしている席で、全く興味がない、ガス契約の加入を長時間案内されてウンザリした経験がある)

携帯電話の販売に限らず、我々は店員に気持ちよく買い物ができるような愛想を求めてしまうが、そんなものよりも、商品の知識がない客の声に耳を傾け、「お客様にもっとも喜んでもらえる商品を購入してもらいたい」と思う姿勢の方がはるかに大切なのである。

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